エピソード 22
「外に投げたものは拾っておけ。馬鹿天使ども」
投げつけられたひとつであるナイフを摘まみ上げると、ミカエルめがけて投げ返した少年はそのまま部屋に上がり込み、その騒ぎなどよそ事のようにクッキーを食べながら紅茶の前にやってくる。
「ミカエルの馬鹿から話を聞いていると思うが……」
「名前は?」
「はあ?」
「許しを得ずに部屋に入ってきた無礼な輩の名前を知りたいのです。私は」
「なるほど」
目を合わせることなく問うた自身の言葉の意味を相手がし難いと知った薫子がそう説明を加えると、そう言って少年は薄く笑う。
「私はルシファー。この世界の者には悪魔として知られている。地獄を管轄している」
「そうね。たしかに地獄は悪魔の領域ですね」
……これはすごいな。
……地獄の主である悪魔が現れても顔色ひとつ変えないとは驚きだ。たしかにミカエルごときでどうにかできるはずがないな。
心の中で薫子に対する認識を改めたところで、ルシファーはもう一度口を開く。
「悪魔と聞いて驚いた様子を見せないが、その理由を聞いていいかな」
「まあ、先ほどの天使たちとの会話を聞いていて確信を持ったのだけど、もともと私はある疑問を持っていたの」
「悪人が落ちるという地獄が悪魔の領域。そして、地獄で悪人は現世での罪を償うために責め苦を味わう」
「この話、おかしいでしょう」
「いや。そのとおりなのだが」
「そうなの?」
「もちろん」
「であれば……」
「悪魔が悪の権化ということは絶対にない」
「なぜなら、もし悪魔が悪の権化なら、罪を重ねて地獄にやってきた者はいわば仲間。褒美を取らせても責めを与えることはない」
「つまり、それ以外のすべてが正しいのであれば、地獄を管理している悪魔も神のしもべでなければならない」
「違うかしら?ルシファー」




