第二皇子とその婚約者にアリストンに帰ることを進められました
このチェルシー、私に何の恨みがあるの?
この前はあんたの貧乳じゃ第2皇子殿下はびくとも食指を動かさないとか馬鹿にしてくれたし、今回は私が忘れようとしているのに、クリフに振られたってわざわざ言いに来てくれて、私を虐めて楽しいの?
私の涙が後から後から出てくるんだけど。
「ちょっとそこの空気読めない女。何をアオイに言ってくれるんだ」
今まで黙っていたボビーが私を庇ってくれた。
「誰が空気読めない女よ」
「そうよ。ウィルフレッド殿下の婚約者のチェルシー様になんてこと言ってくれるの!」
チェルシーとその取り巻き令嬢が反論してきた。
「読めていないだろうが。アオイはクリフ殿下に振られてショックを受けいるんだ。そこにわざわざ言いにきやがって、傷に塩を塗り込むことはないだろうが」
そう言うボビーの言葉にも私はショックを受けているんだけど。
「ボビー、あんた、更にアオイの傷に塩塗り込んでいるわよ」
「そうか?」
ポーラが注意してくれたが、ボビーは良く判っていないみたいだった。
「ちょっとそこのあなた。無礼でしょう。平民風情がポウナル公爵家のご令嬢であられるチェルシー様になんて口を利くの」
取り巻きの一人がボビーに文句を言うが、
「何を言ってやがる。どちらが無礼だ。ここにいるのは聖女様だぞ。公爵令嬢風情が気軽に話しかけてくるな」
「な、何ですって」
「ちょっとチェルシー様はウィルフレッド殿下の婚約者であらせられるのよ」
チェルシーと取り巻き共がいきり立って騒ぐが、
「それがどうした。お前らは謁見の事を聞いていないのか? 聖女様は皇帝陛下と同じ段に登られたのだぞ」
「……」
「それがどうしたのよ」
チェルシーは慌てて口をつぐんだが、取り巻きはそのままだった。
「すなわち、皇帝陛下と同格という事だ」
「そんな訳ないでしょ」
「じゃあ、お前の親父が同じ段に登れるのか」
「いえ、それは……」
ボビーの言葉に令嬢は口を濁した。
「少なくともお前に比べれば聖女様ははるかに上の方だ」
「それはそうだけれど……でも、チェルシー様はウィルフレッド殿下の婚約者で」
「それがどうした。少なくとも謁見の場で陛下と同じ段に立ったのは聖女様だけだ」
ボビーが言い切ってくれたのだ。
私としては公爵令嬢と事を起こしたくないけれど、チェルシーの態度を咎めてくれたのは嬉しかった。剣術だけの筋肉馬鹿じゃなかったんだ。私は改めてボビーを見直した。
「でも……」
言い返せずに令嬢が戸惑っている時に
「何をしている!」
そこに会いたくもない第二皇子殿下が現れたのだ。
「ウィル!」
嬉しそうにチェルシーがこれ見よがしに抱きついてくれるんだけど。クリフに振られた私に対する嫌がらせか?
「聖女様に虐められていましたの。公爵令嬢風情が口をきくなと」
「な、何を言うのよ」
「聖女様を虐めていたのはお前だろうが」
ボビーが反論してくれた。
「これはこれは聖女様。皇帝陛下に認められた途端に、早速権威を笠に着てお話になっておられるのか。でも学園内に身分差を持ち込むのは禁止だったと思うが」
第二皇子は嫌味を言ってくれたが、
「そんな訳ないだろう! そこの女がいきなりアオイに第一皇子殿下に振られていい気味だと言いに来やがったんだぞ」
ボビーの第二皇子殿下への言い方もどうかと思うが、その中身に私は更に傷ついたんだけど。
「チェルシー、それは本当か」
呆れたように第二皇子はチェルシーを見るんだけど
「そんなこと言っていないわよ。殿下に振られたのは本当って聞いただけよ」
どこが違うのよ! 私は叫びたかった。
「チェルシー、振られた所の人にそんなこと聞いてはいけないだろう」
「そうね。ごめんなさい。ウィル、私が浅はかだったわ」
二人は見つめ合って、私の前でいちゃいちゃしてくれてるんだけど。
こいつら何なの! 私に対するこれは嫌味!
さすがの私も切れそうになった。
「すまない。聖女様。振られた所のあなたには目に毒だったかな」
「ごめんなさい。聖女様。私達あなたの気持ちも考えずに」
二人はニコニコ笑いながら絶対に私を馬鹿にしている!
「まあ、あなたも兄上に振られたのなら、アルストンに帰ればどうだ。向こうの聖女様もあなたに謝りたいそうだし」
「そうよね。ここにいるよりも歓迎してもらえると思うわ」
二人はそう言うと楽しそうに歩き去って行ったんだけど……
ムカつく私達をほっておいて。
ちょっと、待て!
あんたら何しに来たのよ!
そもそもアリストンが私を歓待なんてしてくれるわけ無いでしょう!
私はリンがすべての責任を処刑された大司教のせいにしているなんて思いもしなかったのだ。






