皇太后様方にからかわれました
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私は皇帝陛下への謁見では、大勢の貴族の方々の前に出たので疲れ切ってしまった。
私自身が大勢の前に出る経験も前の世界含めてなかったし、身分の高い人をこれだけたくさん見るのも初めてのことで本当に疲れたのだ。
その日は夜会もあるのだが、流石にまだ若いという事で私は免除してもらえた。
夕食は皇太后様との食事会だった。
侍女たちは謁見の時よりも緊張して準備してくれたんだけど、私は気が楽だった。
皇太后様も、そのお友達の方々も、とても私に優しいのだ。
「アオイ、大丈夫か? 出来たら俺が一緒にいてやりたいんだが」
何故かクリフまで心配しているんだけど……
「ええええ? 別に大丈夫だよ。皇太后様はお優しいし」
「うーん、それがよく判らないんだが、皇族たちはみんな、母上を含めて、お祖母様と会う時はとても緊張するんだぞ」
「そうかな。皇太后様にしてもクララ様にしてもとても優しいよ」
「ますます判らん。あの気難しいボールドウィン公爵夫人が優しいなんて言うのはお前だけだ」
私の言葉にクリフが何か言ってくれているけれど、今はそれよりも私はクリフと一緒にいたほうが緊張する。
クリフのキスの意味って何なんだろう?
聞くに聞けていないんだけど……
だって、真面目に考えて聞いたら、クリフが友人の親愛の情のつもりでキスしたとか言われたら、ショックだし。
「じゃあアオイ、行ってくる。くれぐれも気を付けてな」
チュッ
そう言うと、またクリフは頬にキスしてくれたのだ。
ええええ! またキスした!
私は真っ赤になったのだ。
クリフは何食わぬ顔で出ていったんだけど、今のは一体どういう意味があるのよ!
私はますます判らなくなった。
せっかくマイヤー先生がいない夕食の時間なのに、私はその事を考えてしまったのだ。
「どうしたんだい、アオイ、手が進んでいないけれど」
皇太后様が驚いて聞いてこられた。
「本当だわ。ほとんど残っているじゃない。どうしたの? 風邪でも引いたのかい?」
クララ様まで心配してくれた。
「でも、風邪を召したのなら、ご自身で治せますわよね。アオイ様は黒死病でも治せるほどなのですから」
アフトンロード前公爵夫人に言われて
「そうじゃな。風邪でないとすると、どこかの貴族に何か言われたのかい? 私に言ってご覧。すぐにここに呼び出してやるから」
「また、うちの娘が何か言いましたかしら」
「そちらの娘ということは私の娘のことか。先日はこってりと油を絞ってやったんだが」
アフトンロード前公爵夫人と皇太后様が勝手に犯人探しを始められるんだけど。
「えっ、いえ違います」
私は慌てて否定した。アン元王女ともアマンダとも最近は会ってもいない。
「じゃあどうしたんだい。そんなに謁見の儀が大変だったとも思えんが」
いやいやいやいや、大変でしたよ。私は言いたかったが、
「そうよね。アオイの食事の手が止まるほどではあり得ないわ」
クララ様も皇太后様も私を何だと思っているんだろう?
「判りました。恋の悩みね」
ダーリントン公爵夫人が言ってくれた。
「え、何々、何をアオイ様は悩んでいるの?」
皆して興味津々で私を見てくるんだけど。
「クリフォード殿下のことでしょう?」
またしてもダーリントン公爵夫人が当ててくれたんだけど。
「えっ、なんで判るんですか? そんなに私ってわかりやすいですか?」
思わず私は聞いていた。
「それは年の功よ」
ダーリントン夫人が笑って仰ってくれるんだけど。
「何じゃ、クリフと喧嘩したのか?」
皇太后様が呆れて聞いてくれた。
「いや、喧嘩じゃないんですけど」
「喧嘩じゃないとすると何なのかしら」
「クリフォード殿下が我が孫娘と親しくしておられたとか」
アフトンロード前公爵夫人が言ってくれるんだけど、
「何じゃ。やはり原因は我が孫か。二人共ここに呼んでやろうか」
皇太后様はせっかちだ。
というか、ここには皇太后様と同年代の五大公爵家の奥様方がすべて揃っているんだけど……こんな所に呼ばれたら大変だろう。
「いえ、違います」
私は慌てて否定した。
「じゃあ何じゃ。夜のことがうまくいっておらんのか」
皇太后様は本当にデリカシーがないというかストレートだ。
「えっ、そうなの?」
「でも、皇太后様。さすがに、この二人はまだ婚約を公表さえしていないのに」
「よく言うな、クララ、お前の時は婚約発表する前に子供が出来たではないか」
「皇太后様も人のこといえないでしょ」
二人がなんかバラし合いを始めるんだけど。
普通貴族の令嬢って結婚してから事に及ぶんじゃないのか?
私が聞くと
「アオイさん。あなた古いわね」
ダーリントン公爵夫人にまで言われてしまったんだけど。そうなの? 私って古いの?
「だってこの前皇太后様にお伺いしましたけれど、あなた達、一緒の布団で寝ているんでしょう」
アフトンロード前公爵夫人までが言ってくれるんだけど、ちょっとまってよ。あれは側妃様が怖くてクリフの布団に潜り込んだだけで。
「何じゃ、あれだけ後押ししてやったのに、まだ、事に及んでいないのか」
「ちょっと皇太后様、あまりにもあけっぴろげ過ぎませんこと。アオイさんはまだお若いんですから」
やんわりとブルック公爵夫人が注意してくれた。
「そうかの。前陛下はとても積極的じゃったぞ」
皇太后様はおっしゃるんだけど、私には到底ついていけなかった。
「で、アオイさんは何を悩んでいるの?」
「いえ、クリフォード殿下にキスされて」
「そうキスされたのね」
あっさりとダーリントン夫人が認めてくれたんだけど、ええええ! そこで簡単に認められたら私はなんて言えばいいのよ?
「それでどうしたの?」
更にダーリントン夫人が聞いてくれた。
「そのキスの意味がよく判らなくて」
「キスの意味ってあなたが好きだからじゃないの?」
「その好きって意味がどういう意味かって」
「好きは好きよ。あなたのことを愛していらっしゃるんじゃなくて」
「アオイ、そんな事を悩んでいたのか?」
皇太后様が呆れて言われた。
「気にしなくてもクリフォード殿下はあなたのことが好きよ。周りから見てもそれ以外ありえないわよ」
「そうよ。それは我が領地に二人できた時から判っている話じゃない」
クララ様が言うんだけど。そうなの。そんな昔から? いや、私への反応からありえないんですけど。
でも、誰もそれを認めてくれないんだけど。
「そんな所で悩んでいるようではまだまだね。私はてっきり子供が出来たからどうしようというおめでたい話しかと思ったわ」
「本当じゃ。良いかアオイ、そもそもその護りの首輪は前陛下から私が婚約の印に頂いたものじゃ」
「えっ、そうなんですか?」
私は皇太后様の話しに驚いた。
「そうじゃ。それは代々皇族の男から妻となる者へ贈られるものなのじゃ。それをもらった時点で婚約したのと同じなのじゃぞ」
皇太后様に言われたんだけど。
そうなの? 私は全然知らなかった。
「クリフもまだまだじゃの」
私の反応を見て皇太后様は大きなため息をつかれたのだった。
結局、食事の間中、私はお祖母様方からからかわれ続けたのだった。






