早速噂になった私の元に伯爵令息と何故か第二皇子殿下が飛んできました
翌日、怪我していたポーラが大丈夫かも心配だったし、また、殿下方に絡まれるのも嫌だったので、私はエイミーを急かして早めに宮殿を出たのだ。
あれから、皇后様は上機嫌で私のお相手をして頂けたのだが、私は精神が削られる思いだった。位の高い人の相手をするのは疲れる。おばあちゃん(皇太后様)は楽なのに、何で皇后様は疲れるんだろう? まあ、その横に不機嫌そうな皇女殿下がいたので、更に疲れたのかもしれないけれど……
私はほうほうの体で最後は逃げ出したんだけど……
さすがの早朝の学園の入り口は止まっている馬車も少なかった。
学内を歩いている生徒もまだ少ない。
私は急いで医務室に向かった。ポーラはちゃんと治っているだろうか? 夜に何か問題が起きていないだろうか? 私は少し不安だった。
「大丈夫だった?」
ガラリと扉を開けて、中に入ると、中では、ポーラとエイブが、くっつくようにいたんだけど……
私を見て慌てて二人は離れた。
何か顔が赤いんだけど……
「ノックもなしにいきなり、入ってくるなよ」
エイブが言うが、
「何なの? 二人とも顔が赤いんだけど、ポーラ、何かエイブにされなかった?」
私は慌てて、ポーラに駆け寄るが、ポーラの顔が真っ赤だ。
「何もされていないわよ」
ポーラが言うんだけど、何か変だ。
「えっ、ひょっとして、熱があるの?」
「大丈夫だったら」
私がおでこに触ろうとしたら、ポーラが慌てて、いらないと断って来るんだけど……
どうしたんだろう?
「まあ、アオイ様。今日はお早いのですね」
そこに王宮の侍女が入って来た。エイミーにお願いした看護人だ。
「あ、どうもありがとうございます。アンナさん。あなたがポーラの面倒を見てくれたのですね」
私は侍女に感謝した。
「いえいえ、私はお邪魔だったような気がしますが」
笑ってアンナさんが言うが
「何言っているんですか、アンナさん」
「そうですよ。邪魔だなんてとんでもない」
エイブとポーラが必至に何か言っている。
なんか怪しいんだけど、何だろう?
「まあまあ、アオイ様にはまだまだ分からない事なのかもしれませんね」
私の疑問にアンナさんは答えてくれるんだけど。
「何ですか? それは?」
何か私はガキだからわからないみたいなのは少しむっとするんですけど。
「まあ、アオイ様もじきにわかるようになりますよ」
笑って、アンナさんは誤魔化してくれるんだけど、何なのだ!
「じゃあ、ポーラ、先に行くぞ」
エイブが断って出て行った。
「有難う。私も着替えたら、すぐにアオイと行くわ」
ポーラも手を振っている。
この二人こんなに仲良かったっけ?
私は不思議だった。
着替えたポーラと一緒に教室に入ると
「聞いたわよ。アオイ、あなた、側妃様に『お妾様が大きな顔をして宮殿内を歩くな』って言ったんだって」シンシアが聞いて来た。
こいつはダリアが断罪されてからこちらにすり寄って来た日和見令嬢だ。
「何言っているのよ。私はその上に側妃様の頬を張ったって聞いたわよ」
「えっ、何の話よ。そんなこと気の弱い私が出来るわけないでしょ」
私が大声で否定するが、
「何が気が弱いよ。ダリアのお父様を断罪したのもあなただって話じゃない。それでダリアは逆恨みして昨日みたいになったけれど。」
もうシンシアはダリアを様付けじゃなくて呼び捨てにしている。さすが変わり身が早い。
「ダリアの御父さんの話は本当に私は知らないわよ。横領なんて私が判るわけないでしょ」
「それは会計監査院に何か、つてかなんかあったんじゃないの」
「無いわよ」
あってもクリフか皇太后様だ。私ではないのだ。
「おい、そこにアオイとかいう女はいるか?」
そこにまた、偉そうな男が入って来た。
皆私を見る。
何か面倒ごとっぽいから無視しても良いだろうか?
「アオイはこの子ですけど」
言わなくてもいいのに、シンシアが私を指してくれた。
「なんだ。全然聖女っぽくない顔つきだな」
男の言葉に私は完全にプッツン切れたんだけど。
何なのだ。こいつはいきなりやって来て、人をけなすなんて!
「まあ、良いだろう」
何がまあいいんだよ。私は更に頭に来た。張り倒しても良い?
「俺はウィンスロー伯爵家の嫡男のダニーだ」
確かウィンスロー伯爵家はクララ様の領地の傍だ。
「お前にとってとてもいい話だ。お前の癒し魔術が素晴らしいと聞いてな。俺の婚約者にしてやろうとわざわざ来てやったのだ」
こいつ何を言っているのだ? 一瞬本当に張り倒してやろうかと思ったが、それでなくても側妃様に逆らった生意気な奴と周りに思われている。
ここは我慢だ。と思ったのだ。
「そこのクソガキ。何か言ったか!」
しかし、私よりも先に後ろに座っていたボビーが怒って立ちあがってくれたのだ。
「何だと、みたところ、貧乏貴族の騎士だと思うが、我がウィンスロー伯爵家に逆らうのか?」
鷹揚に伯爵の坊ちゃんが言ってくれるんだけど、そんなのボビーが聞くわけは無かった。
「ギャアギャア煩いな。アオイと付き合いたかったら、まず俺と決闘して勝ってから言ってもらおうか」
「ふん、脳筋はこれだから困る。決闘なんてそんな野蛮なことを俺がやるわけは無いだろう」
「何だと」
ボビーは伯爵令息の胸元を掴んだ。
ちょっと待ってよ。さすがに伯爵令息を殴り倒したりしたら停学ものよ。
私はまずい、と思ったのだ。
そこにだ。来なくていいのに、更に怒り顔の第二皇子がやってくるのが見えた。
「ボビー!」
私はとっさにボビーに合図して伯爵令息をウイルの前に突き出させたのだ。
「どけっ。邪魔だ」
やった。命中だ。
伯爵令息を第二皇子が弾き飛ばしてくれたのだ。
「ギャッ」
令息は机の中に突っ込んでいった。
ガンガラガッシャンと大きな音を立てて机をいくつも倒して令息が止まる。
「アオイ、お前な」
第二皇子殿下が叫びだすが、
「かわいそう。殿下が弾き飛ばしたんですよ」
私は立ち上がれずにいる伯爵令息を見て言った。
「何、貴様がその男を俺の前に突き出したんだろう」
「ひどーーーい。突き飛ばしたのに」
私がぶりっこして叫ぶと
「き、貴様、よくも俺を机の中につき飛ばしてくれたな」
伯爵令息が頭に来て、ウィルに掴みかかって行った。
「よし、やれ、やれ!」
私は応援したのだ。
しかしだ。
「貴様。王族である俺に楯突くのか」
ウィルが叫んでいた。
「で、殿下、も、申し訳ありません」
軟弱な事にあっという間に伯爵令息は頭を下げて謝りだしたのだ。
二人とも喧嘩してくれたらややこしい二人まとめて停学に出来たのに……
私の思惑は脆くも崩れ去った。
伯爵は尻尾を巻いて逃げて行って、後には更に怒り狂った第二皇子が残ったんだけど、一体どうなるの?
怒りの第二皇子の前にアオイの運命は?
今夜更新予定です






