かすり傷の公爵令嬢を無視したらムカつく教師が邪魔してきたけど、今までふらふらして死にそうだった先生が『聖女様』と叫びながら駆けて来て弾き飛ばしてくれました
「ヒール!」
私は何も考えずにみんなの前でヒールをかけたのだ。
私の体が金色に光って私が差し出した手の先から光が飛んでポーラを包んだのだ。
キラキラと輝く光が消えるとポーラの体が傷つく前の姿に戻ったのだった。
私はホッとした。
それと同時にポーラがちゃんと息しているのを確認する。
彼女が着ていた衣服がボロボロになって、私に無い豊かな乳房が見えていたので、慌てて私の上着を着せてやった。
「いつ見てもすげえな、お前の癒し魔術は」
ボビーが感動しているみたいだが、こいつはポーラの豊かな乳房が見えて喜んでいただけなのかもしれない……
「有難う、アオイ、本当に、有難う」
何故かエイブが頭を下げてくるんだけど
「友達なんだから治すのは当然でしょ」
私がそう言うと
「そうだよな。俺たち友達だよな」
ボビーが頷いた。
C組の面々は私が怪我したエイブとボビーにヒールをかけたのを見ていたから大して何も感じていないみたいだった。
でも、それ以外はそうではなかった。
「嘘!」
「信じられない!」
「すごい、あの女、ほとんど無詠唱でヒールをかけたぞ」
貴族連中が驚いているみたいだ。
みんな唖然としてこちらを見ている。
「アオイ、お前本当に癒し魔術が使えたんだ」
私を底辺クラスに叩き落してくれた担任まで驚いていた。
「エイプ、ポーラをすぐに医務室に連れて行こう」
そう言うと、私は慌てて立ち上がった。
「ちょっと、そこのお前、アマンダ様の傷を治していくんだ」
マラッカだかなんだか知らない教師が私に何か言うが、
「エイブ、早くいくわよ」
「良いのかよ」
エイブが怒っている教師を見て聞くが、
「良いわよ」
プッツン切れていた私が頷いた。
「おい、聞こえないのか」
あろう事か、その教師は私の手を掴んで来たんだけど。
危うく護りの首輪を発動するところだった。
「触れないで」
私はその腕を振り払った。
「き、貴様、それが教師に対する態度か」
マラッカは怒って言うが、
その前にボビーが立ちふさがってくれたのだ。
「俺のアオイに触れるな」
何かめちゃくちゃカッコいいセリフを呟いてくれる。
でも、私はあんたのアオイじゃないし、触れる前にその手を叩いてほしかったんだけど……
「何だと、貴様。教師の俺に逆らっていいと思っているのか?」
マラッカは叫ぶが、頑としてボビーはどかなかった。
「ちょっと、そこのあなた。私を治していきなさいよ」
煩くアマンダが後ろから叫んでいるんだけど。
「何言っているのよ。そんなかすり傷、ほっておいても治るでしょ。どうしても治してもらいたかったらそこの役立たずの癒し魔術師に治してもらえば?」
あまりにも煩いから私は言ってやったのだ。
「や、役立たず……」
癒し魔術師が唖然とするが。
「当たり前でしょ。重傷者を治さずにどうしようもないかすり傷を治そうとするなんて、癒し魔術師としては失格よ。お祈りでも勝手にしていればいいわ。本当に馬鹿じゃないの? 女神様に祈る前にヒールしなさいよ」
「……」
癒し魔術師は絶句していた。
私は知らなかったのだ。普通の癒し魔術師がヒールをかけるには祈りを一分くらいしてからしなければ出来ないという事を……そんなの誰も教えてくれたことがないし。
「ちょっと、本当に治していかないつもりなの。お母さまに言いつけるわよ」
「勝手に言いつけなさいよ。今回の件。かすり傷に過ぎないのに、重傷者の治療よりも自分の治療を優先したことは、はっきりとあなたのおばあさまに報告させてもらうわ。首を洗って待っている事ね」
そう言うと私は歩いて行こうとした。
「えっ、ちょっと」
「そこのお前、待つんだ」
私に掴みかかろうとしたマラッカとアマンダをボビーが防いでくれる。
「聖女様!」
そこへ遠くから叫び声を上げて駆けてくるものがいた。
私はそれを見て目が点になった。
なんと、あの死にそうだったゴードン先生が駆けてくるのだ。
「どけ、邪魔だ」
なんと、先生は私の前にいたマラッカを弾き飛ばしていたのだ。ボビーとアマンダもろとも……
「せ、聖女様! このような処でお会いできるとは光栄です」
私の前に来るといきなり跪いたんだけど。
「あの先生。私は先生の生徒のアオイですけれど」
「おお、聖女様は私に名前付けで呼んでも良いとお許し抱けますか」
先生は私の言葉を聞いていなかった。
「いや、だから、私は……」
「あなた様が聖女でなくてなんとお呼びしましょう。普通の癒し魔術師はヒールをかけるには、女神様のお力を借りるために一分以上の祈りをしなければ、到底ヒールなど出来ないのです。しかるにあなた様は一瞬でヒールをかけられました。そのような事が出来るのは女神様に認められた聖女様だけなのです」
ゴードン先生の死にかけの体はどこに行ったの? 私が不思議に思うほどに生き生きと語り始めてくれるんだけど。
えっ? そうなんだ。あの癒し魔術師はこの緊急を要するときに何をお祈りなんてしているのかと不思議だったんだけど、あれはヒールする前振りをしていただけなんだ……
じゃあさっき馬鹿にしたのはまずかった? いや、重傷者をないがしろにした事からも許されるわけは無いのよ!
私がゴードン先生に圧倒されている時だ。
視界の端で、先生の後ろからむっくりと起き上がった女を見つけたのだ。
その吊り上がった目の女は、私に最初に突っかかって来て、父親が子爵に降爵になったダリアだった。まだ、学園にいたんだ。私はすっかり忘れていた。
その座った目で
「おのれ、こんなところにいのね。アオイ、許さないわ」
そう言うとダリアは決死の様相で手を私に向けて詠唱したのだ。
「出でよ、火の玉」
やばい、私の前にはゴードン先生がいた。
これで護りの首輪が発動しても先生は助からない。私が焦った時だ。
「邪魔するな、下郎」
私を称賛していた先生が叫ぶと一瞬で障壁が出来たのだ。
この先生も無詠唱で魔術を使えるのでは?
私の疑問の前に障壁はその火の玉を受けた。
爆発が起こる。
が私達はびくともしなかった。
傍で倒れていたマラッカやアマンダが被害を受けたみたいだけど、私は先生の姿に目を奪われてよく見ていなかった。
次の瞬間、先生はダリアに向けて手をかざすと、無詠唱で衝撃波を放ったのだ。
ダリアは一瞬で弾き飛ばされていたのだ。






