第一皇子視点12 アオイに襲い掛かった伯爵を俺ではなく祖母が叩き潰してくれました
俺はアオイの持ち物にこれでもかというくらい、俺の色を入れてアオイに渡したのだ。
首輪は元々俺の髪の色の銀色、髪留めも銀色、それも外すと俺の紋が入っている。これはなおかつ、アオイが攻撃されたら跳ね返す力がある。守りの首輪の補助だ。まあ、基本は護りの首輪で全て足りるが、更に強化できる。筆入れは俺の瞳の色の青。ペンは全て銀だ。まあ、銀髪は皇族の中では俺だけだ。と言うか、帝国内でも銀髪は少ない。
俺の髪の色の銀色、ペンに至っては全て俺のサイン入りだ。
普通、魔力のあるやつはこの色やサインを見れば、アオイに手を出そうとなんてしないだろう。
そう俺は思っていたのだが、アオイが新入生だと言うのを忘れていた。
新入生はまだ魔術の基本を習っていない者も多いのだ。
俺の印があるなんて下手したら知らない奴も多いのではないか。
俺は学園に入る前にこんなことは知っていたが、高位貴族の中でも、魔力の少ない奴はいる。知っていない可能性が多いのを考えにも入れていなかったのだ。
そして、アオイが俺の色を纏っているのに反応するのが男だけでなく、女もいたのを忘れていた。
アオイの色が俺の色一色で、更にドデカイ俺の似顔絵付きのストラップをつけているのを見て、貴族の女どもが、それも伯爵以下の貴族の女どもが過剰反応するとは想像だにしていなかったのだ。
「やはり、キンロスが手を出してくるとしたら、ヴァーノン族かな」
その時俺は執務室でアオイとの婚約の障壁となるキンロスの動きを調べていたのだ。
ヴァーノン族の土地の多くはこの20年で我が帝国の版図になったのだ。まだまだ帝国に服していない者も多いと聞く。キンロスが手を一番出してきやすい所だ。ここで反乱など起こされたらアリストンどころではなくなる。俺はマオにもっと情報を仕入れる様に言おうとした時だ。
「殿下、学園でまた、アオイ様が何らかのトラブルに巻き込まれたものと思われます」
マオが飛び込んで来たのだ。
今度はアオイは何をしたんだ? そうか、男達にでも襲われたのか?
俺は心配して仕事が手につかなくなった。こんな事だったら俺が一緒に学園の送り迎えをすれば良かった。
しかし、俺のもとには中々情報が入って来なかった。
どうなっている? 学園はなめているのか?
何でも学園長が第二皇子派で、こちらには中々情報が入って来ないそうだ。
どういうことだ? 俺はじりじりと連絡を待った。
考えたら、在学中にも、俺はわざと成績を下げられて首席でなくなったことがあった。
まあ、他の生徒に花を持たせるのも皇子の仕事かと諦めていたが、首席は第二皇子派の伯爵の息子だった。
今考えると少しムカッとした。
色々と探りを入れると、やっと、アオイがメルビル伯爵令嬢のダリアらに囲まれて虐められたらしい。更にアオイの友達もやられたみたいで、正義感の強いアオイが切れて謝らなかったそうだ。
それに怒ったダリアが、俺の筆入れをへし折ろうとして、俺の防御魔術が発動したらしい。
それを何故か皇帝である父がわざわざ俺に教えに来てくれたのだ。そんなに皇帝というのは暇なのか?
そう言うと同じ答えが帰って来そうなので言わなかったが。
「過剰防衛はまずいのではないか」
父は言ってくれたが、気絶したくらいだ。大したことはあるまい。
俺は軽く考えていたのだ。その父親が怒りのあまりアオイに直接文句を言いに行くとは思ってもいなかったのだ。
俺はそこにアオイが帰って来たと聞いて慌てて迎えに行った。
俺がその現場に到着した時には、何故か地面に倒れ込んだエイミーを守る形でアオイが雷撃されたダリアの父のメルビル伯爵と対峙していたのだ。
「違うわよ。元々殿下から持たされた筆入れをあんたの娘が踏みつけて壊そうとしたから、防御魔術が発動しただけでしょう。自業自得よ」
「何だと小娘。貴様娘が悪いと言いたいのか?」
「それが事実でしょう!」
伯爵の言葉に切れた私の言葉に怒り狂った伯爵はアオイに掴みかかろうとしてくれたのだ。
何をしている。何故騎士達はアオイを守らない!
汚い手でアオイに触るな! 俺は完全に切れていた。
掴みかかろうとする伯爵の前に俺は飛びだしたのだ。
「ぎゃっ」
俺は伯爵を障壁で弾き飛ばしていた。
「クリフ!」
アオイが俺に抱きついてきた。
俺はアオイを片手で抱きしめて、
「伯爵、貴様よくも俺のアオイに手を触れようとしたな」
俺は怒りに満ちた視線で伯爵を睨みつけた。
「何を仰るのです。殿下。もともと、その女が私の娘に雷撃を浴びせたのでしょうが」
しかし、伯爵は平然と言い返してきたのだ。皇族の俺の言葉などなんでもないように平然としてきた。
俺は唖然とした。
俺が悪いのは貴様の娘だろうと理論整然と言い返したのだが、
「ふんっ、おっしゃりたいのはそれだけですかな、殿下」
伯爵は薄ら笑いまでしてくれた。
「殿下がどこの馬の骨とも知らぬ娘を寵愛していると聞いたものですから、わが娘が殿下の経歴に傷がつくから殿下から離れろとこの娘に忠告してあげたのです。なのにいきなり攻撃されては娘はショックを受けておりましょう。それに殿下が骨抜きにされるくらいですからどんないい女かと来てみれば大層貧相な女ですな。それに礼儀もなっていない。笑えますな。
それに比べて第2王子殿下のウイルフレッド殿下の婚約者は見目麗しいポウナル公爵令嬢ですぞ。殿下もそんな貧相な娘の相手などしておらず、さっさと婚約者を策定されませんと、皇太子レースに更に差がつけられますぞ」
高笑いして伯爵が言ってくれた。そして、周りの騎士たちもニヤリと笑っている。
そうかこいつは俺と敵対する第二王子派なのか。そして、周りにいる騎士たちもそうなんだろう。
俺はぎりりと歯を食いしばった。
俺はこいつらはもう絶対に許さないと誓った。俺が全権を握った暁には絶対にこいつらは北極へ送り込んでやる。
「アオイ、いつまで遊んでいるんだい。お茶が覚めてしまうじゃないか」
しかし、そこに祖母の皇太后が現れたのだ。
そして、あろう事とかその事に伯爵はとても狼狽していた。
おいおい、第一皇子よりも引退した皇太后のいう事を聞くのか?
俺には信じられなかった。
「ふん、伯爵風情に大きい顔をされてクリフもまだまだだね」
後で祖母は笑ってくれたのだ。
しかし、俺は何も言えなかった。
何しろ祖母は伯爵のしていた横領をあっという間に暴いて、伯爵を子爵に降爵してしまったのだ。
伯爵が第二皇子の母の側妃に泣き込む間も無かった。
俺は祖母に圧倒されたのだ。
俺は体で伯爵を弾き飛ばしただけで、アオイに手を出した伯爵家に鉄槌を下したのは祖母だった。
祖母に全くかなわなかったのだ。
高笑いする祖母に俺は絶対にもっと力をつけて俺自身がアオイを守るようになると心に誓ったのだ。