第一皇子視点10 アオイは皇太后を味方につけました
母からアオイが学園に行くことになったと聞いて俺は唖然とした。
確かに俺も16歳から18歳の間は高等学園に通っていた。
アオイも通う必要があるだろう。そこは判る。
しかし、とても心配だ。
アオイが誰も友達のいない中、一人で帝国の学園でやっていけるのだろうか?
それに婚約者のいる俺でもあれだけ女どもが寄ってきたのだ。
そんな輩がアオイに酷いことをする可能性は大いにあったのだ。
その上、俺には更に不安要素が出来たのだ。
なんと母がアオイをお茶会に呼んだそうだ。
いや、それは礼儀作法がまだあまり出来ていないのに、まずいのではないか。
参加者を執事のマオに聞いて調べると予想通り大変なメンツだった。
公爵夫人かその令息夫人が計3人。侯爵夫人かその令息夫人が5人、それに母とアオイみたいだ。
その中には第二皇子のウィルの婚約者の母親ポウナル公爵夫人がいる。こいつは今までは未来の皇后の母になれると思っていたのが、俺が皇太子レースに出てきたせいで、そうなれない可能性が出てきて、俺に対して好印象は持っていない。
絶対にアオイを引きずり下ろして俺の価値を下げたいはずだ。
それに娘を俺の婚約者にしようとする、叔母で前王女のアンがいるのだ。俺を迎えに来てくれたラッセルの妻、すなわち、叔母もいるが、何処までアオイをフォローしてくれるか判らない。
その周りの侯爵夫人の中にはケンとジムの母親がいるからまだマシだとは思うが、娘のいる侯爵夫人も多い。
絶対に母の悪意を感じるんだが……
俺はケンらにその母親にアオイのフォローを頼んでほしいと頼んだのだが、
「殿下、それはなかなか難しいですよ。俺の母は妹のダイアナを殿下の婚約者にしたくてウズウズしていますからね。毎日、殿下を早く家につれてきて妹と会わせろと煩いですから」
ジムが頭を振ってきた。
そうか、それでは難しいだろう。
俺は慌てて、母のお茶会会場に潜り込む事にしたのだ。
幸いなことに近くの木陰に丁度隠れるところがある。
ここからなら、魔術で拡大すれば話声も聞こえるはずだ。
でも、俺がいくら待ってもアオイは現れなかった。あいつはどうしたんだろう?
「皆様揃われまして」
ポウナル公爵夫人が白々しく声を出してくれた。
「まだ、来ておられない方がいらっしゃいますの?」
叔母のアフトンロード公爵夫人がすかさず追い打ちをかけてくれるんだけど。この二人いつもは犬猿の仲なのに、こういう時に限って連携を取る。
「まあ、皇后様のお茶会に遅れてくるなんて、どれだけ面の皮が厚いのかしら」
ポウナル公爵夫人が大きな声で叫んでいるんだけど、母がとりなす声を出すも、母も怒っているのが端からも判った。
どうしたんだ。アオイは?
エイミー以外に騎士たちもつけていれば良かったか!
俺が後悔しだした時だ。
「遅れて申し訳ありません」
アオイが頭を下げて入ってきたのだ。
でも婦人たちの視線がきつい。まあ、皇后のお茶会に遅刻してきたから仕方がないのだが。
「あら、皇后様のお茶会に遅れてくるなんて、なんて礼儀知らずの娘なんでしょう」
叔母のアフトンロード公爵夫人がこれみよがしに言ってくれた。
「申し訳ありません」
アオイは私は頭を下げた。その姿勢のままずうーーーーっといるんだが……
「まあまあ、ポウナル夫人。そんなにお叱りになっては、私達年配の者がまだ学園に行ってもいない子供を虐めているような形になってしまいますわ」
迎えに来てくれた近衛騎士団副団長の伯父のラッセル夫人がとりなしてくれた。
「まあ、私としたことが。ただ私の娘時代は目上の方に会うのに二十分前に行くのは常識でしよ」
叔母はしつこいのだ。さすがの俺もムッとした。
「申し訳ありません」
「まあ、アオイさん。謝罪はもういいわ。貴方も早く座りなさい」
母が流石にとりなしてくれた。しなければ俺が飛び出していったところだ。
「息子のクリフがミルコーブから連れて来たアオイ・チハヤさんよ。妹の嫁いだミルコーブ辺境伯の遠縁なの。皆さん仲良くしてあげてね」
母が紹介していた。
俺はアオイの礼儀作法を気にかけていたが、とりあえず、付け刃でも今はなんとかなっている。
ホッとした時だ。
アオイが俺のことを名前呼びしてくれたのだ。まあ、俺が許しているから良いのだが、
「まあ、第一皇子殿下を愛称呼びするとはさすがに不敬ではありませんこと」
アフトンロード公爵夫人が噛みついたのだ。
俺はもう我慢できなかった。このまま飛び出して俺が良いと言ったから良いだろうと叫びそうになった時だ。
「別に良いんじゃないかい。呼び方なんてどうでも」
でも、そこにはめったに皇后のお茶会にでない我が祖母の皇太后がいたのだ。
祖母は気難しくても有名で、その祖母がアオイを庇い立てしているなんて信じられなかった。
俺としては早急に祖母とアオイを会わせて、バックアップを頼む予定だったのだが、アオイの礼儀作法がもう少しちゃんとしてから頼むつもりだったのだ。
「なんでここにおばあちゃんがいるの?」
アオイは祖母のことをおばあちゃん呼びなんだが、普通は怒り狂うはずなのに、祖母はニコニコ笑っていたのだ。なんでも、ちょっかい出して試した祖母にアオイは気に入られたらしかった。
そうなったらもう祖母の独壇場だった。
母も含めて母の代の婦人たちは祖母には絶対に逆らえないのだ。
俺は安心して宮廷内の事は全て祖母に任せることにしたのだ。
学園でアオイがあんな騒動に巻き込まれるなんて想定もしていなかったのだ。






