皇太后様が現れて伯爵は子爵に降爵されてしまいました
「貴様か! 私の娘を攻撃して気絶させたのは!」
怒り狂った中年太りのメルビル伯爵が私めがけて駆けてきたのだ。
私は驚きのあまり固まってしまった。
本来ならば逃げなくてはいけないのに、完全に固まってしまったのだ。
「アオイ様。下がって下さい」
慌てて、エイミーが前に出る。
「どけ! 貴様。メイドの分際で伯爵に逆らうのか」
伯爵はエイミーの前で止まると、怒りをエイミーにぶつけたのだが、さすが、宮殿のメイドは違う。
「何をおっしゃられるやら。私はクリフォード殿下よりアオイ様をお守りするように命じられているのです。伯爵風情が殿下に逆らわれるのですか?」
一歩も引かずにエイミーが対抗してくれた。
「ふん、殿下の威を借る狐風情が俺の邪魔をするな」
伯爵はそう言うとエイミーを力ずくでどけたのだ。
「きゃっ」
エイミーが地面に倒れ込んだ。
「エイミー大丈夫」
私は慌ててエイミーに駆け寄った。
エイミーは倒れた拍子に足を怪我していた。
「ちょっと、暴力伯爵。なにしてくれるのよ。娘が娘なら親も親ね」
私がムッとして言った。
「なんだと小娘。貴様がそもそも娘を雷撃で攻撃したのだろうが」
「違うわよ。元々殿下から持たされた筆入れをあんたの娘が踏みつけて壊そうとしたから、防御魔術が発動しただけでしょう。自業自得よ」
「何だと小娘。貴様娘が悪いと言いたいのか?」
「それが事実でしょう!」
伯爵の言葉に切れた私の言葉に怒り狂った伯爵は私に掴みかかってこようとした。
周りの人達は騎士も含めて全然、助けてくれそうにない。
私は思わず目をつぶったのだ。
突進してくる伯爵の衝撃を受けたらどうなるんだろう……
しかし、私の前に突然人影が現れたのだ。
「ぎゃっ」
次の瞬間、伯爵は弾き飛ばされていた。
私の前には障壁を張ったクリフがかばってくれたのだ。
「クリフ!」
私はクリフに抱きついていた。
私を片手で抱きしめて、
「伯爵、貴様よくも俺のアオイに手を触れようとしたな」
そこには怒り狂ったクリフがいた。
「何を仰るのです。殿下。もともと、その女が私の娘に雷撃を浴びせたのでしょうが」
しかし、伯爵はその怒り狂っているクリフに反論したのだ。
あれ?
普通は皇子様が出てきたら慌てて頭を下げるところではないの?
私にはよく判らなかった。
それに周りの近衛騎士達も全然助けようともしていない。普通は近衛は皇子を守るんじゃないの?
「何を言う。先程アオイも言ったように、あの筆入れの防御魔術は余程きつく踏みつけない限り発動しないようになっていたんだぞ。お前の娘はその筆入れを壊そうと踏みつけたのだ。何処の伯爵家の令嬢が文房具を踏むように教育されているのか」
「な、なんですと」
伯爵はまた怒り狂って立ち上がったのだ。
「ふんっ、おっしゃりたいのはそれだけですかな、殿下」
薄ら笑いをして伯爵が言った。
「殿下がどこの馬の骨とも知らぬ娘を寵愛していると聞いたものですから来てみれば大層貧相な女ですな。それに礼儀もなっていない。笑えますな。
それに比べて第2王子殿下のウイルフレッド殿下の婚約者は見目麗しいポウナル公爵令嬢ですぞ。殿下もそんな貧相な娘の相手などしておらず、さっさと婚約者を策定されませんと、皇太子レースに更に差がつけられますぞ」
笑って伯爵が言ってくれた。周りの騎士たちもニヤリと笑っている。
そうかこいつはクリフの敵の第二王子派なのか。そして、周りにいる騎士たちもそうなんだろう。
でも、私はクリフの寵愛なんて受けていない! と私は叫ぼうとした時だ。
「アオイ、いつまで遊んでいるんだい。お茶が覚めてしまうじゃないか」
そこへ、近衛に守られて皇太后様が現れたのだ。
「お祖母様!」
驚いてクリフが言った。
「こ、皇太后様」
今度は慌てて伯爵や騎士たちが頭を下げた。
しかし、皇太后様はそれを全く無視して私の方へ歩いてきたのだ。
「大丈夫かい、アオイ、学園で何処かの伯爵の娘に襲われたんだって」
「えっ、いえ、そのような事は」
私は否定しようとした。
「良いんだよ。庇わなくても。私はちゃんと報告を受けているからね。今もその父親に襲われそうになったというのに近衛達は全く守りもしなかったね」
「いえ、あの、皇太后様」
伯爵と近衛騎士の隊長みたいなのが青くなって慌てて言い訳しようとしたが、皇太后様は全く無視した。
「ラッセル、どういう事なの?」
皇太后様の後にいた副騎士団長のラッセルに皇太后様は聞かれたのだ。
「も、申し訳ありません。直ちに責任者を呼んで……」
「ふん、役立たずは必要ないよ。首にしな」
「えっ」
ギョッとした伯爵と近衛たちを残して皇太后様は私を連れて奥に入っていかれたのだ。
この後実際に私を庇いもしなかった近衛騎士達は国境の警備部隊に配置転換、私に襲いかかろうとした伯爵は子爵に降爵されたのだ。
その一時で綱紀が一新されて、宮殿内は改めて誰が一番偉いか理解するとともに、その皇太后様に私が可愛がられているという噂があっという間に広まっていくのだ。
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続きは明朝です。
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