決闘の前に足を怪我して騎士を断念していた子の足を治し、更に決闘で血まみれになった二人にヒールかけてしまいました
私は決闘の介添人というものがどういう者か判らないまま、そのまま流れで決闘会場の裏庭に連れて行かれたのだ。
日本の中学ではこんな事は無かったのだが、日本の高校でもこんな決闘は頻繁に行われていたのだろうか? もっとも、中学自体そんなに何日も行けなかったけれど……中学でもみんなやっていたんだろうか?
今となっては確かめようがなかったが……
それなら、私も凛と決闘すれば良かった。
もっとも病弱な私が決闘しても絶対に勝てるわけは無かったけれど……
でも、元気になった今ならば良い勝負になったんではないだろうか?
聖女をかけて決闘しても良かったんじゃ……
「おい、アオイ、聞いているのか?」
いかんいかん、今はそれどころではないはずだ!
私は現実逃避からボビーのひと言で連れ戻された。
「ねえ、ボビー、介添人って決闘の助太刀するの?」
「すけだち? ああ、助太刀か。よくそんな言葉知っているな」
ボビーが感心して言ってくれた。
「いや、そうじゃなくて、私はポーラには絶対に勝てないと思うわ」
思う所を言って見たのだが、
「はああああ? アオイは何を言っているんだ。介添人は決闘するやつの応援をしているだけでいいんだよ。お前がポーラに勝てないのなんて見たらすぐに分かるだろうが」
馬鹿にしたようにボビーが言ってくれた。
「ちょっと、そこの生意気男! それはどういう意味よ」
ポーラが遠くから私とボビーを睨んできたんだけど。
「どう見てもそうだろう」
「だってどう見ても私の方がか弱いじゃない。マイヤー先生に睨まれて逆らえるのってポーラくらいよ」
私の一言にエイブまで頷いているんだけど。
「あんた、むかつくこと言うと私このまま帰るわよ」
「いや、待ってくれ。介添え人に帰られたら、俺の負けになるだろう」
「じゃあ黙っていなさいよ」
向こうは向こうで勝手に喧嘩してくれた。そうだ、そのままポーラが帰ってくれたら私は何もしなくていいのに!
期待してみていると、
「いや、だから、介添え人は基本は見ているだけでいいから」
ボビーが言ってくれるんだけど、本当にそうなのか?
「ボビー。私は少し前まで病弱で、ほとんど学校なんて行ったこと無かったから決闘なんて初めてで」
「お前が病弱って、血色も良いし、どうみても病弱には見えないが」
「最近は調子がいいのよ。それより、足を怪我しているんじゃないの?」
なんかボビーがムカつくことを言い出したので、黙らせる意味でも、ボビーが足を少し引きずっている点を指摘した。足を引きずっているのならば喧嘩も不利なんじゃないのか。
「足は元々だ。小さい時に怪我したからな」
「癒やし魔術師に治してもらえば良いんじゃないの?」
「怪我してから時間が経つと治らないんだよ。俺の家はそんなに裕福じゃないから治してもらえなかったんだ」
そうか、怪我して足を引きずっているから騎士になるのを止めたのか。私はボビーがなぜ文官志望なのか、その理由が判った。
「でも、それじゃあ、決闘も不利なんじゃ」
「そこは黙っていてくれ。お前は俺の勝利を祈っててくれていれば良いんだよ」
私の不安にボビーが言って来た。なんでも決闘したい気分なんだとか。男ってそんな感じなの? でもクリフは違うような気がするんだけど……
「それよりも俺の腕にお前のリボンでも結んでくれたら嬉しいんだが」
「えっ、この髪をくくっているこれで?」
何でも介添え人のつけている物の一部を決闘人に着けるのが普通だそうだ。
まあ、このピンクのリボンはエイミーが学園に来る前に結んでくれた物だけれど。
私は仕方無しにリボンを取った。バサリと髪が垂れる。
「えっ?」
なんかボビーが固まっているんだけど。
遠くからエイブも驚いた顔をしている。
「えっ、何か変だった?」
私がボビーを見るが
「いや、別に」
慌ててボビーが顔をそらしてくれるんだけど、何なのよ!
私はボビーの右腕にリボンを結びながら
「足がちゃんと動きますように」
と、祈ったのだ。
「あれ? なんか金の光が見えなかったか?」
ボビーが言うんだけど。
「別に」
しまった。ひょっとして祈ったことによってヒールがかかったかもしれない。
まあ、足が治るならそれに越したことはないのだけれど。
出来る限りヒールは使うなって言われていたんだった……注意しないと。
「あれっ、足が動くような気がするんだが」
そう言いながら、ボビーは広場の真ん中に歩いて行った。
「よし、いいな。ヒヨッコ」
「良いぜ、蛮族」
二人は向かい合ったのだ。
遠巻きにクラスの面々が見ている。
そんな中、二人は近付いて、いきなりボビーが殴りつけたのだ。
それを躱しきれずに、顔面にエイプが受ける。
「ウォーーーー」
凄まじい顔して、倒れ込んだエイプにボビーが馬乗りになって殴りつけ出したのだ。
しかし、そのボビーの顔面にエイプが手を突き出すとボビーが思わず顔をそむけた。
その隙に、エイブが体を入れ替える。
それからは組んずほぐれつの喧嘩になって、ただし、どうしても騎士を目指しているエイブのほうが有利になってきた。
そんな中、破れかぶれで下から突き出したボビーの拳がエイブの鼻を直撃したのだ。
プシューーーと血が飛び出してスプラッター映画みたいになってきた。
「ちょっともう、いい加減にしなさいよ」
私は思わず飛び出していたのだ。
そして、二人の間に入いろうとしたのだ。
「ちよっとアオイ、勝手に飛び出したら駄目じゃない」
慌てて、ポーラも飛んできた。
二人の顔は血まみれで見れたものじゃなかった。
「ヒール!」
私は思わず癒やし魔術を発動していたのだった。
二人の顔がみるみる治って行く……
と同時に私はやってたしまったのが判った。
ヒールはできる限り使うなって言われていたんだった……
やってしまったアオイ……
続きは今夜更新できたらします!






