第一皇子視点8 両親にアオイと婚約したいと言うと反対されました
そして、翌日、俺からの報告書を見たのか、皇室の高速馬車がボールでウィン公爵家にやってきた。
すぐに戻って来いとの母の伝言を母の兄のラッセルが持ってきたのだ。
近衛騎士団の副騎士団長だ。
「また勝手に宮殿を抜け出してくれてと、グレイスが怒っていたぞ」
苦笑いをして伯父は言ってくれた。
しかし、伯父は俺の隣のアオイの首輪を見た瞬間、驚愕した顔をする。
伯父も母からかその父からか聞いていたのだろう。
「ちょっと、クリフ」
俺は伯父に端に連れて行かれた。
「何をしているんだ! クリフ。あのようなどこの馬の骨とも判らぬ女に皇室の秘宝、守りの首輪を渡して!」
「叔父上、どこの馬の骨など、畏れ多い事を言われますな。彼女は異世界から召喚された聖女ですよ」
「何だと! あの貧相な女が聖女なのか?」
伯父は唖然としていた。
「サフォーク村の黒死病の患者をすべて治したのは彼女です」
「そうか、しかし、彼女が聖女だとするとアリストンからクリフが誘拐してきたのか」
伯父はとんでもないことを言ってくれる。
「違いますよ。彼女は聖女ではないとアリストンの王宮から放り出されたのですよ。そして、その彼女が破落戸に襲われている所を俺が助けたのです」
「アリストンは何をしているのだ! 聖女を追放しただと?」
「召喚された女が二人おり、アオイは聖女ではないと王宮から叩き出されたそうです」
「でも、聖女なのだろう?」
伯父は俺とアオイを見比べて言った。
「病をヒールで治せるのは聖女以外はいないと思いますよ」
「しかし、勝手にお前の婚約者にして良いのか?」
「もともと俺は聖女の婚約者だったのです。今回の召喚では俺の役割は終わって次のキンロスの番だと、キンロスが勝手に言い張って来ただけで、俺が聖女の婚約者になっても問題ないはずです」
俺は言い切った。
「しかし、彼女がここにいるということはアリストンに聖女がいなくなることになるぞ。そんなのをアリストンが認めるのか?」
アリストンは女神教の総本山で宗教国家だ。その頂きにはいつも聖女がいたのだ。聖女がいなかった時は、聖女の亡くなった一年間の喪の間、すなわち次の聖女が召喚されるまでの間か、めったに無いことだが聖女が他国を訪問している時だけだ。聖女が他国に嫁した事はこれまでない。
「認めるも何もアオイを追放したのはアリストンの方です。俺はそれを助けただけですから」
俺は淡々と答えた。
「そんな論法が通用するのか? それに既にお前の婚約者候補は山の様にたくさんいるだろうが!」
「調整はこれからですが、候補者を出していた、ミルコーブ辺境伯家もボールドウィン公爵家もアオイで納得して頂けましたよ」
「あのクララ叔母様が聖女を認めたのか?」
伯父は信じられないという顔をした。
「二人で仲良くしていましたから。何なら今聞いてみたらいかがですか。大叔母様に」
「いや遠慮しておこう。問題はグレースや父上が納得するかだと思うが」
伯父もその叔母のクララは苦手みたいだ。
「納得させてみますよ」
そう言うと俺はアオイと一緒に馬車に乗ったのだ。
馬車の中では俺は今後の事もあるので、帝国の現状とその貴族達についていろいろとアオイに説明ておこうと思ったのだ。
でも、アオイは他人事で、さっさと俺にもたれて寝てしまった。
まあ、徐々に覚えさせればいいかと俺もその時は考えたのだ。
後でもっとちゃんと話しておけば良かったと後悔したのだが……
宮殿に着くと俺だけが両親のもとに呼ばれた。
「クリフ、どういうことなの? 勝手に聖女らしき女を婚約者にしたいなんて、叔母様や他の候補者の令嬢たちになんて言えばいいのよ。せっかく陛下も継ぐのはお前でも良いとおっしゃっていただいたのに。ここまで持っていくのにどれだけ私が苦労したと思うの!」
母はいきなり叱責してきた。
「母上、俺は別に皇太子になりたいとは思っておりません。元々聖女の婚約者になるつもりだったのです。この国にいるなら、臣籍降下でもしてウイルの補佐役でも何でもやりますが」
「何を言っているのですか。クリフ。母はあなたのためを思って」
「そうは言ってもずうーーーーっとウィルが継ぐことになっていましたからね。今更覆すのは難しいのではありませんか」
俺は言い張った。
「しかし、クリフ、元々、聖女の王配になって隣国に行かないのならば、年から言ってもお前が継ぐべきだろう。キンロスの血が交じるのを嫌がる貴族も多いのだぞ。そんな帝国を見捨てて聖女と共に再びアリストンに帰るのか?」
「見捨ててって、元々俺は聖女の婚約者だったんですけど……それとアリストンには帰りませんよ」
俺は父の言うことに反論した。
「帰らないだと。アオイとかいう女は聖女なのだろうが」
「しかし、アリストンを追放されているのです。アオイは二度とアリストンには帰りたくないと言っています」
「聖女がアリストン王国から出るのは間違っているだろう」
「追放したのはアリストン王国です。責任はアリストン王国にあるでしょう」
「しかし、他国との手前もある。聖女を我が帝国で独り占めにするのは良くないのではないか?」
「そうかと言って、聖女を追放したのはアリストンです。困っておられる聖女様を私がお助けした。これもすべて女神様のお導きでしょう」
俺は普段は神なぞ信じていなかったが、利用できるものは神でも何でも使うつもりだった。
「そんな理屈が他国に通用するか?」
「要求があれば突っぱねれば良いのではとボールドウィン公爵に言われました」
「公爵も勝手なことを。下手したら戦争になるぞ」
俺は父の言葉に肩をすくめた。
「前聖女の事故死は不審な点も多いのです。アリストンが謀殺したのではないかという説もあります」
「クリフ、滅相もないことを。相手は神の国なのですよ」
「それでも聖女が死んだのです。私はその点でもアリストンには不審しかありません。私はアオイをそんな危険なアリストンに返すつもりはありませんから。アオイを危険にさらすことは俺が許しません。いざとなったら新大陸にでも亡命しますよ」
俺は父を脅したのだ。別に皇帝になりたいと思ったこともない。いざとなれば本当に出奔するつもりだった。
「お前は逃げるのか」
「最悪のことを言ったまでですよ。それに父上、既にアオイはサフォーク村の黒死病を治しています。我が帝国はアオイに借りがあるのです。そのアオイを裏切るのですか」
俺の言葉に父が黙った。
「しかし、クリフ、私はコーデリアとあなたが結婚してこの国を継いでもらいたのだけれど」
「大叔母様はアオイの味方ですよ」
「あの叔母様が? 孫娘をあなたに嫁がせるのにとてもご嫉心だったじゃない」
「アオイの事が気に入ったようです。お母様の妹のミランダ叔母様もアオイの味方ですよ」
「本当なの?」
「信じられんが」
二人は俺の言葉に驚いた顔をした。
「俺は絶対にアオイと婚約してみせますから」
俺ははっきりと両親に宣言したのだ。
「そこまで言うなら、そのアオイと言う娘と結婚して皇太子になる案を早急に考えて提出しろ。それで納得できたら認めてやろう」
父が言ってくれた。
「あなた、そんな!」
「グレース、クリフはこうと決めたら決心を変えないだろう。やれる限りやってみるが良い」
反対する母に父が頷いてくれたのだ。
俺は早急にアオイを婚約者にする案を作成しだしたのだ。
しかし、これは考えていたよりも、多くの国や貴族の利害が絡んでいてなかなかうまく行かずに、何度も父のダメ出しを食らって書き直させられる羽目になり、莫大な時間を費やされてその間にとんでもないことが次々に起こって、結局父の承認を得られる事は無かったのだ。
ここまで読んで頂いてありがとうございます。
次からアオイ視点に戻ります。






