第一皇子視点6 アオイを助けに封鎖の柵を蹴破って飛び込みました
俺はアオイが男の子を抱いて俺の前から消えいくのを呆然見ていたのだ。
「殿下!」
「殿下!」
「エロ殿下!」
俺は後ろから呼ばれて振り向いた。
「痛て!」
振り向き様、最後のジムの頭を叩いていた。
「すぐに動かないと一刻の猶予もありません」
「殿下を治したアオイ様です。疫病も避けて通るかもしれませんし」
「さっさとしないとあの子にアオイ様を取られてしまいますよ」
近衛の三人が言ってくれたのだ。
最後のジムは相変わらず余計なことを言ってくれたが……
「そうだな。トムはすぐにこの地の領主のサフォーク男爵のところに行って疫病発生の報と直ちに兵士と医者をこちらに派遣するように言ってくれ」
「判りました」
トムは馬に乗って走り出した。
「この領地はサフォーク男爵でしょう。兵士の数に限りがありますし、近隣のボールドウィン公爵領に援助を頼まれればいかがですか?」
ケンが進言してくれた。
それもそうだ。ここの男爵領の兵だけでは足りないかもしれない。
「判った。ケンは直ちにボールドウィン公爵領に行ってくれ」
「了解しました」
ケンも馬に乗って走り出す。
「さて、それでは彼奴等が帰ってくるまで休憩して待っていますか」
ジムはどっかりと座り込んでくれたのだ。
俺はその頭をポカーンと叩いていた。
「殿下痛いです。いくら俺が石頭でも、これ以上頭が悪くなったらどうしてくれるんですか」
「愚痴愚痴言う前に働け。嫌なら、アオイの手伝いに行くか?」
俺が剣を片手に言うと、
「そんな事したら黒死病にかかってしまうではないですか!」
「バカは感染しないと言うぞ」
「そんな訳無いでしょう」
「何言っている。俺は今すぐにもアオイの所に駆けつけたいのに。そうだ。俺がアオイの所に行けばよかろう」
俺は良いことを思いついた。幸いなことに俺を抑える奴はジムしかいない。
「申し訳ありません」
それを聞いた瞬間、ジムは俺の前に土下座したのだ。
「そんな事されたら殿下の側にいた俺の立場が無くなります。王妃様に殺されるに違いありません。それだけは何卒、おやめ下さい」
ジムにそこまで言われて仕方無しに俺は止めたのだ。
でも、その時にアオイの所に行かなかったことを死ぬほど後悔することになるのだ。
トムは1時間もせずに帰ってきた。でも、何故か兵は一人も連れていなかった。
「申し訳ありません。男爵はこの村の別荘に滞在しているみたいで、屋敷の大半の兵を率いているそうで屋敷には余裕の兵はいないと家宰が言って聞きませんでした」
「何だと、この非常時に本来ならばその家宰が残りの兵を率いて駆けつけるのが筋だろうが」
「それは言ったのですが、男爵の許可が無いと動かせないの一言で」
トムはすまなさそうに言った。
「一番近くの騎士団はバレーフィールドの第三騎士団か」
俺はトムに確認した。
「そうですね。馬で3時間のところです」
「ジム、仕事だ」
俺はサボッていたジムを見た。
「えっ、俺ですか?」
「動いていないのはお前だけだろうが」
俺が言うと
「殿下も動いておられませんが」
そのジムの頭を今度はトムが叩いてくれた。
「何ならアオイの所に今すぐ行くが」
「了解しました。直ちに向かいます」
「第三騎士団長に疫病発生の報を伝えて即座にここに100騎を派遣するように伝えてくれ」
「了解しました」
「それとその後で出来たら男爵の屋敷を疫病発生時の緊急事態即応令違反で制圧するようにと」
「了解です」
そう言うと慌てて馬で駆け出したのだ。
「あれで大丈夫ですかね」
トムが心配するが、
「やる時はやるだろう」
俺は一抹の不安を残していたのだが、トムは5時間後に第三騎士団200騎を率いて帰ってきた。
その頃にはボールドウィン公爵領から100騎の騎士を連れてケンが帰ってきていた。
更には遅れること1時間で第三騎士団長自らサフォーク男爵の屋敷を接収、対策本部をそこにおいたから俺にそちらに移ってほしいとのことだったが、俺はこの地を離れるつもりはなかった。
この村と周りとの街道に関所を作り、すべての交通を遮断させる。
近隣の村にヒアリングに騎士たちを行かせて病人がいないか確認させた。
幸いなことにまだ周りの村には病人は出ていないみたいだった。
俺は村の入口に張ったテントで周りに頼むから横になってくれとケンに頼まれて、仕方無しに横になったが、アオイが心配でほとんど寝れなかった。
次の日はアオイが精力的に動いているみたいだと斥候から報告が来た。
斥候が見たところアオイが連れて行った男の子が元気にアオイの横を歩いていたとの事だった。
何かアオイがうまくやっているみたいだ。俺はもっと探ろうとしたが、接触は避けるべきだとダンフォード第三騎士団長に止められて、見守るだけにしたのだ。
それが失敗だった。
翌朝、関所の前に男爵からの使いの者が来たのだ。
遠くから叫んでいるにはこの疫病を流行らせた女を捕まえたので、即座にこの閉鎖を解いて欲しいとの事だった。
「どういうことだ?」
ケンの報告に俺には今ひとつよく判らなかった。
慌ててそちらに向かうと、
「疫病を流行らせていたのは黒髪の魔女なのです。それをひっ捕まえました」
男の大声が聞こえた。
「何だと、それはアオイというものか?」
「それは判りません。黒目黒髪の女でした」
「あ兄ちゃん。それはお姉ちゃんだよ。お姉ちゃんがヒールで治してくれたのに、コイツラがお姉ちゃんを男爵の屋敷に連れて行ったんだ」
それはアオイが抱いて行った男の子だった。
「煩い。小僧、余計なことは言うな」
使いの者が叫んでいたが、俺はその男の子の言葉を聞いていても立ってもいられなかった。
慌ててホワイトに乗ると駆け出したのだ。
「殿下、危険です。いくら殿下でも中に入られたら出すわけにはいきませんよ」
ダンフォード第三騎士団長が必死に叫んでくれたが、俺は無視して飛び込んだのだ。
俺はホワイトに強化魔術をかけるとアオイの守りの首輪の位置を探査魔術で探って一気にホワイトを向かわせたのだ。
男爵家の別荘に乗り付けると、首輪が発動するのが判った。
「アオイ!」
俺はホワイトを周りにいた慌てた兵士達を蹴倒して別荘の窓から突入させたのだ。
そして、首輪めがけて駆けたのだ。
謁見室の扉を蹴破ると剣を構えた男がアオイに斬りかかるところだった。
俺は一気にアオイの前に障壁を張って、切りかかった男を弾き飛ばした。
「クリフ!」
アオイが俺に抱きついてきた。
「き、貴様何奴だ!」
男爵が叫んでくれた。
「ええい、煩い。サフォーク、貴様、俺のアオイによくも手を出したな」
俺は叫んでいた。
「な、何を言うのだ」
「殿下!」
サフォークの横の男がやっと俺に気付いたみたいだった。
「で、殿下って、第一皇子殿下」
サフォーク男爵の目が見開かれた。
「何をしている、貴様ら俺に剣を向けるのか」
俺が叫ぶと
「申し訳ありません」
男爵等は慌てて全員剣を投げ出して平伏してきたのだった。
「ああん、クリフ、怖かったよ」
俺は泣きついてくるアオイを抱きしめると、周りの奴らを怒りに満ちた目で睨めつけていたのだ。
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
続きは明朝です。
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