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【幕間】繋がり、色づき、輝く




 産まれ落ちた時、四肢の自由と視力を代償として、彼女は天啓を得た。我らこそが魔法少女を統べるべきなのだと。そう確信していた。


 一人。舞台上の主役のように尊大で煌びやかな少女は、その輝き(ルミナス)で以て蔓延る影たちを照らした。


 一人。心優しいだけに相応の意志と圧力を携えた少女は、その強い色彩カラフルで立ちはだかる闇たちを塗り潰した。


 そして啓示を受けた少女は、あらゆる者と繋がる力(コネクト)によって魔法少女たちを導いた。自らの正気と、無二であるはずの二人を幾度も犠牲にしながら。




 世界は求めていた。魔法少女を隠す手段を。長い年月をかけて積み上げられてきたあらゆるものを崩壊せしめるであろう恐ろしい存在は、決して知られてはいけないものだった。


 祈りが届いたか、世界には女王プリンセスが舞い降りた。森羅万象を捻じ曲げるが如き彼女のチカラを、世界は切り札として得た。




 そして、統べる三人と女王は出会った。三人が魔法少女たちの受け皿となり、女王は大衆に生じる歪みを正す。世界のバランスを保つため、睨み合いながら互いに手を取ったのだ。






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆






 少女はまたしても狂気の浅瀬で覚醒した。己に繋がるいくつもの視覚や聴覚を切り替えながら、自らのそれも制御し、また視界を切り替え、そして時には自らのそれと同時に――。


 脳が鎖に締め上げられるような苦痛が永遠に続いている。ろくに眠れもしない。常に血がざわめいていた。

 最後に平静で居られたのはいつだっただろうか。少なくとも『宝石の盾』が出来てすぐ、それは失われたはずであった。


 ボロ布に覆われた、光を持たない眼窩で彼女は見つめる。瞼の裏に輝くのは、群青色と明るい黄色の光。二人だけが心の拠り所であった。


 二人は既に亡い。しかしながら、確かに存在している。少女の脳に刻まれた記憶が彼女たちの姿を模して、依り代に宿ることで蘇るのだ。幾度も、何度でも。金色の少女が――コネクトが潰えぬ限り。


「ねぇ、奏ちゃん。覚えてる? 何年前だっけか……部屋に猫ちゃんが入って来たことがあったよね」


 カラフルはベッドに寝転ぶコネクトに語りかける。かつての姿を限りなく模した彼女は、かつてと限りなく似た声で、かつてと限りなく似た笑顔を浮かべていた。


「もちろん覚えているわよ。いきなりお腹の上に乗ってきたんだもの、忘れるわけないわ」


「ああ、あの時か! 叫び声が聞こえて何事かと思ったら……。実に微笑ましい光景だったな、あれは」


 輪の中に入ったルミナスも笑う。かつてと違う新しい顔で、新しい声で、かつてと限りなく似た笑顔を浮かべていた。


「もう……! 二人は笑ってたけど、こっちはそれどころじゃなかったのよ? もう怖くて怖くて――!」


「あはは、ごめん。……さっき晩御飯を作ってるとき、似たような三毛猫を森の方に見かけたんだ。それで思い出しちゃって」


「しかし、いくら似ていても流石に別人――別猫だろう? あれはもうずっと小さい頃の話じゃないか」


「うん、そうだと思う。でも……懐かしいなあって。あの時の奏ちゃん、凄く可愛かったから」


 模した声。新たな声。かつてと異なる紛い物ではあるが、しかしコネクトにとっては確かな真実でもあった。今ここに二人が在ること、居てくれることこそが自分にとっての全てなのだから。


「……もう、それって今は可愛くないって言ってるようにも聞こえるのだけれど?」


「ち、違うよ! 全然そういうわけじゃ――!」


「はぁ……全く。私を放ってイチャつくようなら部屋に戻る――と言いたいところだが、久しぶりのまともな再会だからな。私もそこに混ぜてもらおうか!!」


 かつてと――いつかと変わらない、温かな光が部屋に満ちる。狂気の浅瀬に立つ少女は、二つの光を抱きしめた。束の間の安らぎすらも得られることはない。しかし、それでも歩み続けていた。


 少女たちが想う未来とは、目指す道の先とは即ち平和である。例えそれが犠牲の上に成り立つものであっても、追い求める。天命のため、啓示のため、使命のため――願いのために。


 澱み歪んでいながらも崇高な狂気を纏う少女、コネクト。彼女こそが『宝石の盾』を統べる魔法少女であり、金色の光を放つ輝石であった。




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