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魔法少女の頼みごと③





「はははっ! いきなり甘えん坊になったじゃねぇか!」


「むぅ……別に良いじゃないですか」


 まるで仲の良い姉妹のように手を繋ぎながら部屋へと戻るなり、若葉は美咲の頭をわしゃわしゃと撫でる。絹のような髪が静電気でボサボサになるが、むしろそれが嬉しそうに笑っていた。


 そして美咲はそんな手を取り、静かに話し出す。


「……私、夢を見たんです。そこには姉と……その仇のルミナスが出てきて」


「……お前の姉さんはルミナスに……」


「はい。……虚道さんと一緒に居る時に聞きました。ルミナスは『宝石の盾』の大幹部なんだって。私が殺したせいで、なにかの引き金を引いちゃったんじゃないかって……そう思ってて……」


「……そうか。ルミナスをやったのは美咲だったか……なるほどな」


 ベッドに腰掛けながら美咲は語った。全てではないが、確かな心の一端を。紗夜と共に行動していた時には気にも留めていなかった、己の巻き添えで周囲が危害を被るのではという不安を。


 その意図は当然の如く若葉に伝わる。だが、返事は美咲が予測していないものだった。


「ルミナス……奴は死んじゃいねぇよ」


「え……? いえ、でも確実に――」


「ちげーんだ。これを知ってるのは一部の幹部陣だけだが、アイツらの魔法はマジで洒落にならねぇんだよ」


 神妙な面持ちで若葉は続ける。


「コネクトの魔法『コネクション』は自分と他者を繋ぐことが出来る。意識や五感を共有したり……記憶に至っては一方的に流し込むことすら出来ちまう。人格すら書き換える、まぁ洗脳みたいなもんだな」


「……それで、カラフルは……?」


「アイツの魔法は『カラード』。魔力を抜き取って、他者に上書き出来る。……つまりコイツらの魔法が合わされば――」


「……人格と記憶の書き換えに、魔法の上書き……。つまり擬似的に魔法少女を蘇生できる……?」


「――そうだ。組織にとって重要な魔法少女は常に『コネクション』によって見張られてた。このアタシも『闇医者』に解除させるまでそうだったし……勿論ルミナスもな。死ぬ瞬間までの記憶はコネクトの頭ん中に入ってるだろうよ」


「……私が殺したことは、とっくの昔に知られてた……。それでも執拗に追われたりしてないってことは……」


「ルミナスが復活したら、その時に動く腹づもりなんだろ。……相当お怒りかも知れねぇな」


 話を聞いて、美咲は胸の内に暗い火が灯るのを感じる。熱く燃えていながら、それでいてぽっかりと空いた穴のような冷たさも併せ持つもの。憎悪。怒り。復讐心。


 擬似的にでも人を蘇生するその行為は、誰かの犠牲の上に成り立つもの。それをさも当然の如く若葉が語っているということは、つまりコネクトやカラフルにまともな倫理観が備わっていないことを意味していた。


「……」


 美咲は思案する。今の自分であれば、もう一度戦って勝てるだろうか。いや、勝てるかではなく殺せるだろうか。そんな倫理観のない相手であれば、殺したところで別に――


「美咲!! 怖ぇ顔に戻ってるぞ」


「――っ! ……はい……」


 若葉の叱咤で思考の海から引き上げられる。そして自分がまたこの手に血を塗り重ねようとしていたことに気付き、恐怖した。


「大丈夫だっつってんだろ? もしアイツ本人が来たとしても、刺客が差し向けられたとしても、絶対にアタシが守ってやる」


「……どうして」


「あん?」


「どうして若葉さんは……そんなに……。そんなに優しくしてくれるんですか……?」


 関係が壊れることを懸念し、言えずにいた言葉。聞けずにいた疑問。踏み出せずにいた一歩。引いていた線を、胸の熱さに突き動かされるように美咲は跨いだ。


 それに応えるように、若葉も答えた。


「……アタシは昔……聖奈とも出会う前だな。友達を守ってやれなかったんだ。だから正直に言っちまえば、その罪滅ぼしみたいなもん……だな」


「……そうですか」


「でも、だからと言ってお前を見てねぇわけじゃねーよ。それはマジだ」


 それ以上は語らなかった。お互い、何も言及しようとはしない。


(……)


 若葉が美咲を強く想っているのは事実。しかし、美咲の胸の火は燃え続けていた。守ってくれるという言葉を信用していないわけではない。これ以上自分に殺しを重ねないで欲しいという若葉の意思にすぐさま背くわけでもない。


 だが、決意したのだ。彼女の為ならば、彼女の想いを踏みにじることも厭わないと。



「――ったく、朝だってのに暗くなっちまったな! 気ぃ取り直してトレーニングするぞ!!」


 若葉は大きく手を鳴らし、ベッドから立ち上がる。そして変身せずとも美咲を軽々と抱え上げ、笑った。


「ちょ……!? い、いきなり恥ずかしいですよ!」


「っはは!! 手繋ぎてぇって言ってきた奴がなに言ってんだか! ほら、さっさと強くなって――」


 力強く、それでいて優しい笑顔を若葉は美咲に真っ直ぐ向けた。


「――次は聖奈を助けるぞ!」


 若葉によると、あの日聖奈は『宝石の盾』に捕われたが、十中八九生存しているとのこと。


(……聖奈さんは私の知らないお姉ちゃんの何かを知っている。そして、スパイとして接してたとはいえ……若葉さんの友達でもある……はず)


 今度こそ自分が若葉を助ける番だろう。助けられるだろうか。いや、助けるのだ。


「……はい!」


 固く決意を抱いて、美咲は頷いた。





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