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魔法少女の頼みごと①




 その建物は寂れていた。木造の壁も床も今にも穴が開きそうなほどに歪み、軋んでいる。しかしその様子に反して埃や汚れなどは見受けられず、隅々まで清掃が行き届いていた。


 二階建てのそこの一階。数室あるうち一番大きなその部屋は、俗に言う「憩いの場」であった。一つの大きなテーブルと、それを囲うように置かれた四つの椅子。その真上には古臭い蛍光灯が取り付けられており、小ぶりの窓から入る日差しと共に部屋を明るく照らしている。


 そんな場所に異様なものが混じっていた。椅子に腰かけた、超自然の輝きを放つ少女である。


 少女が纏うのはおとぎ話に登場するお姫様のように華美なドレスと、それを彩る金色に輝く長髪。病的に痩身かつ色白の肌はまるで生気を感じさせないながらも、それでいて妖艶な雰囲気を漂わせていた。


 装いだけを見るのであれば、さぞ軽やかで可憐に振る舞うだろうと。さぞ澄み切った瞳を持つのだろうと、そう万人が思うような少女である。だが、両脚は力なく在るだけで、両手も同じくひじ掛けに乗っかっているだけであり、両目もまたぼろ布のような包帯で覆われていた。


 しかし、それでもなお人を惹きつける魅惑的な声で、両手両足両目の利かない金色の少女――『コネクト』は語る。


「この一ヶ月、わたくしたちと共に居たのです。貴女に危害を加えないということは、既に重々理解していただけていると思ったのですけれど……。ねぇ、『ハピネス』――天羽あもう 聖奈せいなさん」


 声の先、机の対面には茶色の長髪と豊満な身体を持つ少女、天羽聖奈が居た。拘束されているでもない。傷も汚れも憔悴もなく、ぞんさいに扱われていたわけでもない。服もカーディガンにフレアスカートと私服のままである。しかしながら、自由を与えられていたわけでもない。


 その理由はコネクトの隣に威圧的に腰掛ける、仕立ての良いジャケットを着た日焼けした短髪の少女『カラフル』にあった。決して大柄なわけでも、異様なほどの筋肉に覆われているわけでもないただの少女だが、『宝石の盾』の対人部隊『欠片』の頂点に立っている。彼女が居る限り、戦闘能力に乏しい聖奈がこの場からの逃走を試みても、万に一つも成功することはないだろう。


 そんな中、続けてコネクトは語る。


「わたくしたちは貴女の魔法を高く買っております。人々に幸福を与える『幸福の譲与(エンハンスド・ラック)』。とても素晴らしいわ。……しかしそれ故に制御が困難で、カラフルが奪っては真価を発揮できない。ですから、貴女自身に協力していただきたいのです」


「……」


 聖奈は無言を貫く。この一ヶ月間、何度も同じような説得を受けた。食事をしながら、お茶を飲みながら、はたまた今のようにただゆっくりと座しながら。しかし、ずっと無言を貫き続けていた。


 そんな聖奈の様子を睨みつけていたカラフルが痺れを切らし、苛立ちを隠す気もなく声を出す。


「そのままずっとだんまりで居るつもり? 別にこっちは貴女を痛めつけたって――」


「駄目よ、カラフル。痛みと恐怖による支配は確かに必要なもの。でも、それはこの場所、この時にすべきものではないわ。……申し訳ありません、天羽聖奈さん」


 しかし、それでも聖奈は無言を貫く。コネクトは困り顔で溜息を吐くものの、ふと思い出したかのようにまた口を開いた。


「そういえば! 『クローバー』――一之瀬 若葉さんのことだけれど」


「……っ! 若葉に何かしたの!?」


 聖奈の荒らげられた声に、コネクトは口角を上げて話を続ける。


「いいえ……彼女、わたくしの『コネクション』を断ち切ったみたいなの。ミラージュに追わせようとした直前だったのに……残念ですわ。まぁ、貴女からしたら吉報でしょうけれど」


 コネクトの座る椅子がキシリ、と微かに軋む。それはお開きの合図だった。


「でも、わたくしたち『宝石の盾』は彼女を決して諦めませんわ。貴女には早々に考えを変えていただきたいところです。……わたくしたちの目的は同じ、『人々を救う』ことですもの。よろしくお願い致しますわ。では、また」


 カラフルは立ち上がり、羽毛のように軽いコネクトを抱き上げる。そのまま聖奈を部屋に残し、二階へ続く階段を上がっていく。


「……良いの? こんな悠長にやってて。『プリンセス』に対しての圧力だって弱まったままなわけだし、早々に綾ちゃんに()()()()()()()()のもそうだけど、聖奈のカードだって強引に切った方が良さそうなのに」


「なに、問題ないわ。今のところ彼女は手に入れただけで充分。『プリンセス』は曲りなりにも警察なんて組織の人間……わたくしたちと比べものにならないほどフットワークは重いわ。それに、綾乃だって()()()()()もの――」


 コネクトの隠された双眸が金色に輝く。するとその顔は今までの穏やかな笑みが変貌し、芝居がかった尊大な様子で歪み、言葉を発した。


「――私の後継者は予想外に育っているからね。もう寸前だよ、また君たちの顔を……そして、私を殺した彼女の顔を見られるようになるのは。天羽聖奈の懐柔、そして一之瀬若葉の確保はその後にゆっくりとすれば良いさ」


「……そっか。なら待ってる。……()()()()


 階段を登り切った先。ダガーナイフが飾られた廊下を抜け、「かなた」と書かれた部屋に入ると、カラフルはコネクトをベッドに寝かせる。そうして自身は傍らの椅子に腰かけ、その顔を見つめていた。


「おやすみ、かなちゃん」


「ふふ……そんな余裕が無いのは知ってるのに、いつも言ってくれるのね。……ありがとう、紡希つむぎ


 この木々に囲まれた建物の名は『宝石の庭』。『輝石』と呼ばれる大幹部であるコネクト、カラフル、そしてルミナスが幼少を過ごした孤児院であった。




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