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魔法少女の祈りごと④




「……出てきませんね」


「そうだねぇ。ホテルの代金、もったいなかったね」


 『佐藤』の表札が立てられた二階建ての一軒家。その玄関を監視できる方角、小高い坂の上に立つコンビニに二人は居た。とっくに夜の帳は下り、時間は八時を回っている。


「しかし、中学生がこんなに遅くまで遊ぶものでしょうか。……私の門限は五時だったのに」


「乱交でもしてるのかな? 混ざりに行っちゃう?」


「――こほん。しかし、いっそ乗り込むというのはやっぱり危険です」


「えー。なんなら僕がすぐ二人やっちゃうけどなぁ」


 目深に被ったキャスケット帽子の下から美咲が鋭い視線を送る。閉めた黒のロングコートと合わさり不審者全開の格好ではあるが、店員はぼーっと無気力に突っ立っているだけなので気にすることはない。


 対する沙夜は変身しており、普段着としては異様な深紅でフリフリのワンピースも欠損している左腕も隠すこともなく、それと明らかに不釣り合いな白いニット帽を雑に被っていた。


「ってかさ、真面目な話……アレじゃないかな? 明日は日曜日だしお泊まり会とか」


「確かに……。いや、でも私たちは下校時からストーキングしてきたんですよ? 普通そういうのって一回家に帰って準備してからなんじゃ……」


「多分そうだろうけど、学校から直ってこともあるんじゃない? まー僕はお泊まり会なんてやったことないから分かないけどさ」


「その言葉は……私にも刺さりますね」


「えへへ、嬉しくないお揃いだね!」


「全くです。しかし……そうですね。家の側まで行ってみて、賑やかな声でも聞こえたらそうだと判断して日を改めましょうか」


「おっけー。じゃ、やることやってから行こっか」


 ニット帽の下、蛇などの爬虫類を思わせる沙夜の瞳が深紅に輝く。すると店内に充満していた紅色がにわかに増し、ぼーっと突っ立っていた――もとい、『霧の腕』に脳を侵されていた店員の周囲が特に色濃くなった瞬間、その首が可動域を超えて捻じ曲がり、糸の切れた操り人形の如く倒れた。


「ワンオペご苦労様でした、店員のおねーさん。美咲ちゃん、レジお願いしていい?」


「……分かりました」


 美咲は死体を跨ぐとレジから金を抜き取り、ポケットに押し込む。血で汚れた、汚い金。血で汚れた自分たちの命を繋ぐ汚い金。


(抵抗感も……薄くなっちゃったな……)


 胸に空いた大きな穴。姉が死んだ時にも、若葉に説教をされた時にも感じたもの。それがまたズキリと痛みを発した。


(いやだ)


 穴の正体、痛みの正体は知りたくない。考えたくもない。全てを振り払うようにぶんぶんと顔を振るい、先に自動ドアを通って外へ出た紗夜へ声をかけた。かけようとした。その瞬間、見えた。


「虚道さ――!!」


 美咲は咄嗟に叫ぶが、それより速く紗夜の頭に紫色の輝きが落ちる。否、ただの輝きではない。魔法少女『ブレイズ』――木枯小夏。その手には重厚な柄と鍔、そして幅広の剣身を持つ大剣が握られていた。振り下ろされる先は無論、深紅の中心。紗夜の頭部。そして――



「どうも――こんばんはっ!!!」



――強く打ち付けられた剣身の()が深紅の火花を散らし、ピタリと停止した。



「うっわ! びっくりしたー!!」


 剣を受け止めたのは、微細な魔力の集合体である霧。開け放たれたドアから、そして紗夜の左肩から吐き出された深紅の霧はその頭上に集い、蠢く不定形の盾となってそれを防いでいた。


「……なーんだ、愛華さんでも若葉さんでも無くてお初のおねーさんかぁ」


「そう、初めましてね『霧の腕』……。あたしは『ブレイズ』。よろしく!」


「よろしくおねがいしまーす、って言いたいけど……それよりさ、ちょっとどいてくれない?」


 盾は集束し、『霧の腕』を成す。それで大剣を押さえ続けながらも紗夜の目線はそこにも、小夏にも向けられていない。その身体を挟んだ向こう側へ、コンビニの屋根から飛び降りたその少女へ――


「――若葉さん! わっかばおねーさーん!! ひさしぶりーっ!!!」


「うるせーよこのガキ! 今はどいてろ!」


「あっおねーさ――」


 駆け抜ける若葉に対し、『霧の腕』が二股に別れて触手のように伸びる。が、小夏は握るもう一本の大剣ですかさずそれを断ち切り、視線の先に割り込む。


「ほら、どいてろって言われたでしょ? あんたが遊ぶのはあたしとよ」


「――……そっかそっか、分かったよ。それが若葉おねーさんの意志なら仕方ないかぁ」


 若葉は小夏に例を言う暇すら惜しみ、ドアを蹴り破って店内に転がり込む。そしてカウンターの中へ。美咲の正面へと立った。


 その光景を見届けた一瞬の後、沙夜の双眸が強く輝く。みるみるうちに肩口からは深紅の霧が溢れ出し、鈍く光る月も街灯も覆い尽くし――深紅と紫色の輝きだけを内包する、直径20メートル程のドームを創り出した。


「なん、こんな規模――やばっ!」


 小夏は見開いた瞳の端で、両大剣に纏わりつく霧を見とめる。咄嗟に手を放して跳び退くと、霧は口惜し気に大剣だけを呑み込み、沙夜の元に戻って再度『霧の腕』を形成した。


「……ねぇ『霧の腕』。これってさ、もしかして全方向から攻撃できたりする?」


「えへへ、どうだろうねぇ? まぁとりあえずは先に遊んであげるからさ……つまんないあだ名じゃなくて、ちゃんと名前で呼んで欲しいな! ね、小夏おねーさん?」


「う……あの子から本名まで聞いてる感じなのね……。ったく、分かったわよ! 楽しもうじゃないの――虚道沙夜!!」




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