第5話
20230225公開
まさか自分の一生で(いや二生目か?)、豪奢な謁見の間でリアル王様に謁見する経験をするとは思ってもいなかったな。
前世ではPKOで海外に派遣された後に行われた慰労会で天皇陛下と面会して、しかも直接お言葉を賜るという自衛官としては稀有な経験をしたが、今回とは全く別物だった。
天皇陛下の時は本当に労ってくれているというのが分かって感激したものだが、今回は宮廷闘争の一環という面が色濃く出ていて、全然嬉しくなかった。
第一、謁見の間に漂っていた空気は羨望や保身、そして欲望で淀んでいた。
あんな所で日々を過ごすのはご免だな。俺には耐えられない。
事前に聞いていた六等級爵への叙爵ではなく、五等級爵への叙爵が発表された時の空気は忘れられんな。こちらでもサプライズ企画というのが有ったんだ、と変な感想を持ったが、空気に剣呑なモノが混じったのには、俺には責任の欠片も無いだけに虚しくなるだけだった。
まあ、五等級爵というのは子孫に継承出来る爵位だし、文官族でなければ領地も賜るから、この爵位からは本当の貴族と言って良いのだろう。
それを成人前の10歳の子供に与えるとなれば、そういうやっかみも出て当たり前か?
思わず、『出る杭は打たれる』という言葉を思い出した位だ。
とは言え、与えられる領地というのが、王軍管轄の砦を含む辺境一帯というのはどうなんだ? と言いたくもなる。
王国での最前線で、しかも険しい山脈と、開墾に適さない丘陵地帯と、立ち入る事も出来ない『触らずの大森林』に半分以上が覆われている故に開拓が全く進んでいない領地というのは嫌がらせにしか思えない。
まあ、やっかみを緩和する効果は有ったけど。
叙爵の理由も発表されたが、掌返しが凄かった。
『別系魔矢』魔法の開発者という事が発表されてどよめき、対ガラバナン人の前線を担っている隣国、ゼントリウス公国の大公様からの感謝の言葉に騒然とし、更にはより強力な魔法と魔具の開発に成功した事が発表された時には静まり返ったからな。
続いて、王室に献上した例の木銃が披露されたんだが(豪奢な装飾が施された立派な台座に鎮座していたんだが、手作り感満載の木銃とのミスマッチ感が凄かった)、戸惑った空気が漂ったのは仕方が無いだろう。
現代人なら銃というモノを大なり小なり映像で知っているから、すぐに使う姿を思い浮かべられる。
だが知らなければ使い方さえも分からない、只の変な形をした杖にしか見えないのだろう。
ダメ押しに、近衛師団から選抜された中隊及びゼントリウス公国へ応援として派遣される予定の新設の第10大隊(支援部隊を含めて500人規模らしい)への新しい魔法の教授が、ザック・ε・ログナス五等級爵の最初の仕事と発表された時には、混乱の空気しか無かったな。
もちろん、俺も混乱の極みだったが・・・
* * * * * * * * * *
波乱の謁見が終わったら、ホッとするも間も無く、家族から引き離されて別室に連れて行かれた。
その後、案内役としてシス・δ・カーヌ四等級爵の顔が見えた時に安堵したのは当然だろう。
向かった先は王城の『奥』にほど近い場所だった。
王城内でも特別な場所のしきたりや規則は歩きながら教えて貰えたが、多分2度と来ない場所だと思う。
「さあ、こちらで皆さまがお待ちです」
そう言って案内された部屋は20畳ほどの広さで、中庭?に面した場所だった。
そこには17人の黒髪の子供たちが、円形に並べられた椅子に座って待ち構えていた。
純粋な日本人ではなく、俺同様に欧米の血が入ったハイブリットの様に彫が深くなっているが、元日本人と分かる程度には名残が残っている。
一斉に俺を見たが、興味と探りが混じった視線だった。
「皆さま、先日、覚醒を迎えたザック・ε・ログナス五等級爵をご紹介致します。つい先ほど、功績により叙爵されたばかりですが、我がミッドガラン王国の貴族となりますので、ご発言ご対応にはご注意下さいませ」
その口調に、何と言うか、慇懃無礼という言葉を思い出した。
その紹介に驚きが走ったが、すぐに疑問が上書きされた様だった。
「皆さま初めまして。自分の日本での名前は鈴木次郎、29歳で自衛官をしておりました」
さあて、自衛官あるあるだが、自己紹介した時の自衛官という職業に対する反応は極端に分かれる。
最近では好意的に見られる事が多いが、受け入れられない人が一定数は居るのだ。
存在が悪だと言わんばかりに無視されたりした経験をした自衛官も居るんじゃないだろうか。
「おお、それは心強い。私はヤマグチタダシと言います。タダシは正しいの正です。日本では百均ショップの店長をしていました」
真っ先に声を掛けてくれたのは、一番手前に座っていた男の子だった。
しかもわざわざ立ち上がって自己紹介をしてくれた。特に自衛官に対する忌避感は無く、むしろ好意的な反応を示した。
この集団のリーダーをしているのか、その子が全員の紹介をしてくれた。
全員の前世は老若男女という感じだった。
特に偏りが無い年齢層で、下は小学2年生から上は80歳台までばらけていた。
働いていたのはパート務めを含めて12人。残りは学生か余生を過ごしていたそうだ。
ここに居るメンバーは王府が集められた元日本人だった様だ。
この事は一つの惨劇の可能性を示唆しているが、敢えて言う必要は無いだろう。彼らもきっと思い至っている筈だ。
お読み頂き誠に有難う御座います。
第5話「叙爵のち邂逅」をお送りしました。
次話は来週末になる様な気がします(^^)




