第3話
20230219公開
日本人だった俺から見たザック・ログナスという子は、『大いなる地』で一番文明が進んでいた『知恵持つ栄光の人』という人類種でも到達していない地球の知識を無意識に利用していた事も有るが、異端児もしくは天才児と言って良かった。
まあ、個人としては努力家の上にかなり頭の良い子だったと思う。
ハイランテ人が使える魔法のカラクリを分析して、本質を表す仮説を10歳になる前に考えつくなんて、俺には無理だ。
物心がつく頃には、魔法にのめり込んでいた様だ。
ハイランテ人の優位点を伸ばす事で、負けない手段を手に入れようとしたんだ。魔法の才能が有った事が後押しをした。
基礎的な魔法を習得した時に、何故ハイランテ人が魔法が使えるのかを考え始めた。
地球で言う『気』とか『オーラ』みたいなものが関わっていると最初は考えたようだが、すぐに否定していた。『気』に似た魔法『魔体』が別に有ったからだ。その魔法は体内に作用して、身体能力や運動能力、更にはケガなどに効く自己治癒能力の向上に使われていた。
身体の外に影響を及ぼすモノでは無かったのだ。
次に基礎魔法の『魔火』と『魔水』と『魔光』を分析した。
『魔火』と言うのは、魔法で造る火の一種だ。不思議な事に『魔火』は延焼しない。種火にならないのだ。しかも魔法を解除すると同時に消えてしまう。その代わり水を沸騰させたり、やけどを負わせたりする事が出来る。火と同じ熱量を持つと言える。
『魔水』も同じだ。いくら喉が渇いても、飲用水としては使えない水擬きだ。
『魔光』はロウソク代わりにはなるが、それだけだ。
魔法の根本を理解するヒントは、ハイランテ人の繁栄を支えた力の一つ、『魔矢』についての考察をした時だった。
具体的には『魔矢』に依って的に開いた穴の形に気付いた時だった。
穴が矢の鏃跡と同じ形をしていた事から、矢と同じ効果を思い描いて魔法を使っているのでは?と考えた。
3つの基礎魔法と共通する事は、永続的な具現化が無理で、何かの代替として魔法が成り立っているという事だった。
ここまでは、まあ、後で書物などで知った事だが、それなりの数の研究者が辿り着いている結論だ。
ザック君がこれまでの研究者と違ったのは、恵まれた自分の魔法の才能を利用して、色々な実験を繰り返した事だ。
『魔火』には酸素が必要なのか?
『魔火』や『魔光』を水の中で発生させるとどうなるのか?
『魔火』を物質の中で発生させる事は出来るのか?
『魔水』の密度は水と違うのか?
『魔水』と水を混ぜるとどうなるのか?
『魔水』を氷の状態や熱湯の状態で発生させる事は出来るのか?
『魔水』を発生させた後で温度の変化を与える事は可能なのか?
『魔光』の照度や色を変える事は可能なのか?
『魔矢』で鏃以外の形の穴は開くのか?
魔法を強化する杖の重さや形状に依る変化はどうなのか?
杖の有り無しでの発動者への負担の影響は?
魔法を使った後の精神や集中力への影響は?
連続で限界まで魔法を使った場合の身体への影響は? などなど・・・
それはもう、俺にはあれだけ根気よく実験を繰り返す事は無理だろう、ってくらいにザック君は頑張った。
結論として、ザック君は魔力の源になる物質が有る筈だと考えて、それを『魔素』と名付けた。
これはそれまでの主流だった、『魔法は魔力で実行される』とする学説よりも進んだ考えだった。
魔力は魔力として有るが、それは自由電子の移動で起こる電力と同じ様なモノで、根源は『魔素』だと推測した。
魔法で使った魔力量(彼は魔圧×魔流=魔力量と考えた)と体重の減少量が比例する事から、個人が持つ魔力の多寡は、電子の自由電子と同じ様に自由に振舞える自由魔素を体内から絞り出せる量の個人差と考えた。
その絞り出された自由魔素を呼び水に、周辺の空気から更に自由魔素を集めて現象を起こす事を魔法と位置付けた。
俺もはっきりと覚えていないが、確か1立方メートルの空気の重さは1.2㌔か1.3㌔くらいだった筈だ。その中に未知の物質と言うか高密度のエネルギー体の魔素が混じっていると考えれば、火モドキや水モドキを一時的に造るエネルギーを得る事は可能な気がする。目に見えない極小の世界なので自信は無いが。
『魔火』『魔水』『魔光』『魔矢』、意外と作られていなかった風を起こす新しい魔法『魔風』の全てで、ザック君は思い通りに大きな変化を齎す事が可能だった。地球の知識が下地になったせいなのか、ハイランテ人としての固定観念が少なかったからなのかは俺には分からないが。
だから、魔法の巧拙は魔法と自然現象と物理に対するイメージの個人差とした。
杖の材料にする樹木の向き不向きは、樹木に含有される自由魔素の多寡とした。
最大の発見と言うか発明は、金属から自由魔素を取り出す魔法だった。
金属には有機物とは比較にならない自由魔素が含まれていた。
色々な金属で試した結果、取り出しのし易さと入手のし易さから最も優れた素材として銅を選んだ。
そして、今から1年前に造り上げたのが、ひょんな事から新たに組んだ魔法、『反発』を応用して弓矢の威力を劇的に向上させた『別系魔矢』だった。
ちなみに『反発』は、双子の弟と妹に造って上げた風車の玩具の開発段階で組んだ魔法を基にしていた。
更に1年掛けて研究と開発の集大成として組み上げた魔法が、ログナス閣下とカーヌ卿に披露した木銃だった。
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シス・δ・カーヌ四等級爵は、今回の訪問の成果が事前の想定以上にも拘らず、自分の中では喜びよりも安堵の方が大きい事に気付いた。
何故なら、ログナス二等級爵家の養子のザック・ログナスは、覚醒前から『落ち人』の中で一番の功績を上げている事と(弓の威力をガラバナン人のそれと同等迄引き上げた功績は大きい)、元は武人と思われる事から覚醒した後も有益な情報を齎してくれる可能性が高く、王も多大な期待をしていたからだ。
その期待に応えてくれる成果を得られた事は大きい。
今も生き残っている他の『落ち人』から得られた成果を考えれば、実用性と言い、実現性と言い、文句なしに一番王国に貢献している。
他の『落ち人』の何人かが口にする『サンギョウカクメイ』は、追い詰められている王国にとっては、優先順位が低い。
対ガラバナン人の最前線を担ってくれている隣国への援助という重い負担が無ければ・・・、と思わないでも無かったが、余裕が無さ過ぎた。
一部の者の言動が他に影響する前に選択をする頃合かもしれない。
「陛下もこの成果には喜びますじゃ。これからする話にとっても追い風になりましょう」
そう言った後で、カーヌ四等級爵は姿勢を正した。
空気が変わった事を感じたダイガ・β・ログナス二等級爵とザック・ログナスも姿勢を正した。
カーヌ四等級爵は文官族が着用する青いローブの懐に手を入れ、一通の書面を取り出した。
「陛下の上意です。ログナス二等級爵家預かりのザック・ログナスを王家が六等級爵へ叙爵する。合わせて嫡男グイカ・ログナスをこの機に叙爵する事とする。よって、王都に可能な限り速やかに来られたし」
元々ログナス二等級爵家は、後継者が使う四等級爵と予備の五等級爵という爵位を持っている。
今回のザック・ログナスの叙爵は、王国への貢献に対する恩賞と言う意味も有るが、新規に王家が爵位を与える事でログナス二等級爵家の『御家騒動』を防ぐ狙いが有った。
いくら養子縁組をしていても、血族では無いザックにログナス二等級爵家所縁の爵位を与える事は一族の反発を招く危険が有った。
それに、六等級爵は領地を持たない爵位と言う点、世襲が認められない点も御家騒動回避には有効だろう。
「謹んでお受け致します。準備が出来次第、王都に出向く事にしましょう」
「陛下も喜ばれる事でしょう」
急展開だが、こうして王都への召喚が決まった。
お読み頂き誠に有難う御座います m(_ _)m
第3話『異端児と召喚と』 をお送り致しました。
次話は次の週末に投稿予定です。




