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第21話

20230415公開



「なるほど、貴国は遠征には加わらないと、その時に明言された訳ですか」

「そうだ、ログナス卿。我らがここを死守する事が『知恵持つ栄光の人ハイランテ・クラマス・エンラ』に対する最大の貢献だからのう」

「まさしくその通りですね。もちろん、自分はミッドガラン王国の爵位持ちとして勅命に喜んで従います。ですが、発案が後方諸国と言うのは個人的には面白くないですね」

「我らに説明に来た時も下心が透いて見えたからのう。第一、観戦武官も派遣して来ないパリス共和国が主導する侵攻などに乗れるものではないわ。どうせ難民問題の解決策としてしか見ておらんのだろう。『覚悟無き素人集団』らしい浅はかな考えよ」



 そう言って、ゼントリウス大公は肩をすくめた。

 ゼントリウス大公臨席の第四城塞の首脳連中との非公式な夕食会は肩肘を張らずに楽しめた。


 俺はミッドガラン王国内よりもゼントリウス公国での方が本音で話せる。

 困った事だが、ある意味仕方が無いと思っている。

 ミッドガラン王国は一応母国になるんだが、愛国心は殆ど無い。日本に対する感情に比べて、ミッドガラン王国に対する感情は淡白だ。

 ザック君の記憶と合わせても12年しか住んでいないしな。

 まあ、はっきりと言って、国を守ると言うよりも世話になった義理の家族が居るので守ろうと言う気持ちの方が大きい。 

 王様は割と仕え易いんだが、それ以上に貴族社会の弊害も見えてしまうんだよな。

 選民主義もそうだが、何と言っても貴族が自己中心的過ぎるんだ。

 ヤツラのせいで国力が伸びないと、『先進技術開発公社』内の日本人の意見は一致している。

 憎まれっ子世にはばかる、ってヤツだな。


 一方のゼントリウス公国も階級社会だが、ミッドガラン王国よりも公共に気持ちを割いている気がする。

 『力を持つ巨大な人ガラバナン・ジャイ・エンラ』の侵攻を食い止めている最前線の国だから直接的に常時脅威と接触していて、力を合わせなければ生き残れなかったからだろう。

 何と言うか、日本人ぽいんだ。

 災害大国で、災害の度に力を合わせないと復興出来なかった日本人と似たメンタルを持っている気がするのは錯覚とは思えなかった。



「そうそう、ログナス卿の『ニィフゥネ』領は小さいから、遠征が負担になるかと思って、貴国の王に頼んで釘を刺しておいてもらったんだが、却って迷惑では無かったか?」

「ご配慮有難う御座います。我が王国の陛下にもご配慮を頂いたおかげで事無きを得ました。正直なところ、村民250人なのに200人も従軍させるなんて不可能ですから、本当に助かりました」


 ゼントリウス大公は俺の言葉に満足げな表情を浮かべた。



「それくらいの配慮は必要だろう。儂がミッドガラン王国からの使者に言った時、少し間が開いたのがおかしかったがな」




 *  *  *  *  *  *  *  *  *  *



 翌日は朝からゼントリウス大公に付き従って第一城塞から順番に視察した。

 戦闘の推移を城塞の将兵に聞き、銃に撃たれたという視点から探すとかなりの弾痕が見つかった。

 大概は壁に食い込んだ際に変形していたが、ほじくり出して見れば直径1.5㌢くらいの球形の弾頭だと分かった。材質は鉛の様に見える。


 実際に弾痕や弾を検分した結果、有効射程は上方修正して、ハイランテ人の長弓より1割程上だろうと推測した。

 威力はガラバナン人の弓より弱いか? 弓矢の方が重いし先が尖っているからな。ハイランテ人の長弓と変わらない程度だろう。


 基本的に城塞の弓兵は高台からの打ち下ろしになるから、運動エネルギーと位置エネルギーが多く得られるので有効射程が伸びる。

 攻める方は逆で有効射程が短くなる。それでも距離を潰せば『別系魔矢アナド・マグ・ルー』と撃ち合えるのだから、銃の普及が進むと益々平地でやり合うのは危険だ。

 火縄の存在も目撃者が複数居た為に確認出来た。


「どうだ、ログナス卿はどれほどの脅威と見るか?」


 ゼントリウス大公が俺の作業が一段落したと見て訊ねて来た。

 

「今の段階ではガラバナン人の弓が少し増えた程度でしょう。この弾頭を見れば分かりますが『ジ・ウ』の第一段階です。1ムン(約1分40秒)に3発か4発を撃てる程度でしょう」


 ここで一拍置いた。


「ですが、量産されて来ると厄介です。ゴボリン人が中距離戦闘に参加して来る、と言う事ですから。これからドンドンと敵の戦力が増強される訳です」

「そうか。こうなって来ると奪われた土地の奪還の為に攻め入ると言う話がどうなるかは分からなくなるな」



 奪還の為に南方の諸国が動いたのは、ミッドガラン王国内で後方に位置する爵位持ち(南方爵家と言われている勢力)が難民を兵に駆り立てるのと同じ構造だろうというのが、俺たちの一致した推測だ。

 要は人減らしだ。

 未熟で未発達な行政機構では有効な雇用創出が出来なかった事を糊塗する為の発案だろうと、山口さんやカーヌ四等級爵が断言していた。

 何故未熟で未発達と断じているかと言えば、南方諸国の方が農作物の収穫量が多いにも拘わらずに難民を有効活用出来ずに無駄にしたからだ。

 どうせ、碌に支援もせずに開墾させたり、権利も与えなかったんだろう。

 最初はやり直す機会を与えられたと思ったとしても、すぐにメッキは剝げる。

 結果、社会の不安定化だ。

 なんにしろ、最悪な解決策に走ったと言う事だな。


 あと、軍の強硬派が結び付いた可能性も有るが、これに関しては微妙だ。

 まともな軍なら、自分たちの血が流れる危険をわざわざ呼び込まない。

 野心家がトップに座った場合は有り得るが、そこまでの情報は手に入っていない。



「いえ、奪還の為の挙兵は予定通り行われるでしょう。『知恵持つ栄光の人ハイランテ・クラマス・エンラ』の名を汚す結果になる可能性は高いでしょうが」



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