第20話
20230412公開
ゼントリウス公国は東西に走る幅40㌔の大山脈の中に出来た南北20㌔東西25㌔くらいの盆地の中に出来た国だ。
周囲を標高3,000㍍を超える険しい山に囲われている。
山口さんは、㎞級の隕石が落ちたクレーター跡ではないか?と疑っている。
普通では出来ない地形らしい。
南と北の平野へ出るにはそれぞれ1カ所、浸食で出来た大山脈の切れ目を拡張した街道を通る。
北の隘路には『五連巨星星座城塞』群が蓋をして、南の隘路はミッドガラン王国の3つの砦群が蓋をしている。
土壌はあまり良くなく、ミッドガラン王国の主食穀物は育ちが悪く、芋の様な植物と旨味が微妙と言われているミッドガラン王国では雑穀扱いされる穀物が主食になっている。
需要と供給のバランスは辛うじて均衡している。言い換えると不作の年は飢餓が起こると言う事だ。
開拓をする土地自体はまだまだ在るのだが、如何せん戦争中で人手が回せないのが現状だ。
芋モドキと穀物の調理方法だが、パンモドキが普通だ。
硬くて美味しくないナンという感じだ。
まあ、両方とも発酵をさせてから(試験中の『先進技術開発公社』謹製のイースト菌モドキを持参して来た)焼いた後、調理済みの具材を挟んで食べれば、結構満足出来る様になる。
機会を見てイースト菌モドキを紹介する予定だが、これも最前線を支えてくれているゼントリウス公国への恩返しだ。
ゼントリウス公国の鉱業は他国並みには発達しているが、何と言っても畜産が一番有名だ。
盆地内の高原部では、騎竜に使われる小型地竜と騎獣に使われる中型四足獣、食用の小型四足獣の育成出荷が盛んだ。
『三日月』の母竜もゼントリウス公国で生まれた小型地竜だ。
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公都を朝に出発して、『五連巨星星座城塞』群の第四城塞には昼前には到着した。時間にして3時間掛かったが、徒歩での行進ならこんなものだろう。
途中で小休憩を取ったが、徒歩で移動する兵たちの消耗を考慮しての休憩だ。
まあ、騎乗している俺も無理して早く着く必要が無いので、否は無い。
休憩する場所は決まっていて、そこには公営の村が在って、農業だけでなく移動する軍に休憩場所を提供している。
急報を伝える伝令用に予備の騎竜も飼われているから、住民は少なくてもそれなりの面積を防壁で囲っていた。
そうそう、途中、大型飛竜を見掛けた。
謎の蜃気楼惑星との衝突の前にセンセーショナルに報道された推定翼長7㍍近い鳥類に近い生物だ。
名前から分かる通り、卵から孵る小型地竜の遠い親戚の様だ。
写真は上から撮影されていたからよく分からなかったが、下から見るとそれ程強者と言う訳では無い事が分かる。
ハッキリと言って華奢なんだ。
地球の鳥類もそうだが、空を飛ぶ動物はいかに軽く身体を作るかを要求される。
そして大きければ大きい程、羽ばたくだけでは長く飛べないので、上昇気流を掴まえて揚力を増す方向に進化する。
結果、大型飛竜は大きい癖に地球の猛禽類程度の脅威度でしか無かった。
地球の豚に相当する小型四足獣くらいの大きさの獲物を持ち上げられないのだ。
仕留めた獲物は小型四足獣よりももっと小さな、ウサギ大やネズミ大の獣以外はその場で食べる。
そんな時に不運にも小型地竜と遭遇すると、あっさりと逃げてしまう様な存在だ。
まあ、それでも上空から舞い降りての一撃は気付かなければ大怪我くらいはするが、それは怒らせた小型四足獣の突進を受けても同じだ。
むしろ飛行する動物で危険なのは中型飛獣の方だ。
地球の鳥類よりも大きい翼長3㍍で、全身の筋肉が発達している。
飛行能力は鷹以上で、小型四足獣でさえ短距離なら掴んで飛行出来る馬力だ。
くちばしも鋭利で、襲われたら良くて重傷、下手すれば致命傷を負う覚悟が必要だ。
こちらは『ニィフゥネ』領でも時々遭遇する。入植した当時は襲われたが、何度か『先進型魔矢』で狩った頃には、近寄って来なくなった。
中々賢いと思う。
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ミッドガラン王国第10大隊の2個中隊は『五連巨星星座城塞』群の第四城塞に寄らずに、そのまま素通りで第二城塞に向かった。
第二城塞は前段の真ん中に位置して、前線の要の城塞だ。
他の城塞に応援を出す事も有り、収容人員も多く、5つの城塞の中では1番大きい。
そこで存在感を放っているのだから、第10大隊も成長したと思う。
交代制でミッドガラン王国から派遣されて来る他の旅団よりも頼りにされている事が証拠だ。
今日はここで一泊して、明日からゼントリウス大公の前線視察に同行する事になっている。
戦時故に派手な式典は無いが、今夜は第四城塞の首脳連中とゼントリウス大公臨席の非公式な夕食会が予定されている。
ある程度のミッドガラン王国の動きは伝えておこう。
越権行為かもしれんが、それくらいは漏らしても構わないだろう。
新しい兵器の登場で落ちたかも知れない士気を上げる事の方が重要だろう。