第18話
20230406公開
慌てて服を着て、『ニィフゥネ』領の竜車から山口さんと田所君が降りて来た頃には、親衛隊の12騎が大公家専用竜車を中心にして周囲を囲んでいた。
うーん、本当は見せたくないんだが、まあ、良いか。
なんせ、片付ける前だったので、的に負荷を掛けた試射の着弾跡が残ったままだ。
ましてや『神獣の熱線』の着弾跡は明らかに『先進型魔矢』とは別物の強力な魔法が使われたと分かる。
親衛隊の1人が騎竜から降りて、兜を脱ぎながら俺たちの前に歩いて来た。
何度も顔を合わせている公国の親衛隊副隊長だ。
「お忙しい所、誠に申し訳御座いません。公子殿下のお二人が是非ともザック・ε・ログナス五等級爵卿の鍛錬を見たいと所望致しまして。お部屋を訪ねたらお連れのお二人がこちらだと」
「なるほど。自分は構わないのですが、丁度、今、鍛錬が終わったところです」
俺の言葉が終わるかどうかと言うタイミングで大公家専用竜車のドアが開いて、2人の子供が転がり落ちて来たと表現出来る慌てようで降りて来た。
2人とも抗議の言葉を上げたが、最後の部分がちょっとハモっていて可愛い。
「えー、ちょっとだけでも見たい。見せて!見せて!」
思わず笑顔になるが、失礼が無い様に片膝をついて、少し視線を下げた。
そのタイミングで慌てて竜車から数人の侍女が降りて来た気配がする。
まさかの行動だったんだろう。
「それでは、剣の鍛錬の一部だけお見せしましょう。それでよろしいですか?」
「やったー! だからザックきょーが大好きなんだ!」
5歳と4歳の男の子ならヒーローに憧れるものだからな。
まあ、何度も顔を合わせているし、懐かれているからな。多少の融通は全然苦にならない。
再び長剣を鞘から抜いて、鞘をカル君に渡して息を整えるフリをする。
どうせなら、ちょっとサービスして上げよう。
イメージとしてはカンフー映画の剣舞を心掛けて、派手な動きを取り入れよう。
例えば両手で振るのではなく、片手で振って、空いた手をバランスを取る様に広げると派手で見栄えのする動きになるだろう。
あ、ついでに意味も無く両手を広げて片足で立ったりするのも良いかもしれないな。
ついでだから蹴り技を途中で入れるのはどうだ?
カンフー映画っぽくなって見栄えが派手になるだろう。
静から動、一瞬で長剣を横薙ぎに振り抜いて止める。
ちょっと手加減を間違えて、風を切り裂く音が半端無い事になってしまった。
ま、いいか。
また静から動だが、今度は10連続で動を繋げよう。
なんちゃって中華風剣技と3つの魔法を同時に展開して、繋げて行く。
最後は止めずにゆったりとした動きで最初の姿勢に戻す。
敢えて、呼吸を整えてから、公子たちの方を向いた。
ポカーンとした顔が並んでいた。
最初に立ち直ったのは田所君だった。
「ブッ! 鈴木さん、ノリノリですね! 生だからカンフー映画よりも迫力が有って凄かったですよ。いやぁ、スゴイモンを見させて頂きました」
「田所君の言う通り、凄かったですね。今のを動画サイトに投稿したら絶対にバズりますね」
山口さんまで笑いながら感想を言って来た。
2人が声を出した事で金縛りが解けたのか、公子たちが「すごーい」と言いながら走って来たので、後ろ向きに地面を蹴って距離を置いた。
なんせ、手には剥き身の剣が握られているからな。
俺に害意が無い事は周囲の大人は分かるだろうが、さすがに状況としてはまずい。
新しい遊びと思ったのか、2人の公子が笑い声を上げながら追いかけて来る。
後ろ向きで飛びながらグルっと円を描く様に辿って、ピッタリとカル君の横に着地すると、俺の意図を読んで鞘を出してくれた。
長剣を鞘に納めると同時に2人が飛び付いて来た。
「ザックきょー、今のなあに? すごかったぁ!」
「ビューンとして、ブーンとまわったの!」
お気に召して頂けて、頑張ったお兄さんは満足だよ。
「今のは敢えて派手にしましたが、今日だけの特別鍛錬です。普段はもっと普通ですよ」
「そーなんだ! でも、やっぱり来てよかったぁ」
「よかったぁ!」
親衛隊の副隊長の方を見ると、知らない間にこちらの世界に戻って来ていた。
何かを無理やり納得させたのか、頷いた後で声を掛けて来た。
「ログナス卿、ご協力に感謝致します。それでは、後片付けも有るでしょうから我々はこれで失礼します。両殿下、ログナス卿の邪魔をこれ以上しないで、城に戻りましょう」
「そうだね、おしごとのじゃまはだめだよね。またね」
そう言って、両殿下は侍女に連れられて竜車に戻って行った。
さあて、後片付けを念入りにして帰ろう。
山口さんと田所君という人手が増えたからサクッと終わらせられるだろう。
更新しても反応が薄過ぎて
そろそろ更新しなくても良い気がしてきました