第17話
20230403公開
特製の試作木銃を、端材の木材で造った小銃用の置き台に固定して、今度は長さ1㍍20㌢程の西洋風の長剣に手を伸ばした。
いつ見ても厳つい。重量感も半端ない。
過去のとある出来事から刃は幅広で厚く造られている。柄は片手でも両手でも使える様に長めに拵えている。
こういった剣には詳しくないが、少なくとも日本刀とは違う効果を狙った剣と言う事は理解しているし、それに合わせた剣術を組み上げて来た。
簡単に言うと日本刀は『スパッと斬る』事を主目的にしているから引いて使う。
対して、この剣は『叩き付けて斬る』事を目指した剣だ。
実はこのタイプの剣は『知恵持つ栄光の人』の軍では使われていない。もっと細身の斬る事も出来るが、どちらかと言うと突く事を重視した1㍍くらいの剣か60㌢くらいの片手剣が殆どだ。
戦っている相手を思い浮かべれば当然だ。
身長3㍍の巨人を相手に鍔迫り合いなど不可能だ。
下手に剣を合わせれば、その瞬間に剣ごと押し込まれるか、当たった角度によっては手から剣を飛ばされてしまう。
どうしても接近戦をするなら、槍を揃えて人数を頼りに当たるのが当たり前の選択だ。
だから剣は、短弓をメインアームとする『竜騎兵』と『獣騎兵』がサイドアームとして装備しているくらいだ。
ゴボリン人の輜重部隊を、機動力を活用して襲撃する彼らは騎乗した状態で使うので、斬る事も有るがどちらかと言えば突く機能が重視されている。
短剣は数少ない槍兵部隊がサイドアームとして使うくらいだな。
鞘から長剣を抜き、鞘を従者のカル君に渡す。
刃毀れや錆び、罅、研ぎが必要な個所が無いかを丁寧に確認する。
問題は無い。
ちなみにこの長剣は2代目だ。
初代は初めてガラバナンの10人隊とやり合った時に使い物にならないくらいに曲がってしまった。
剣って折れる事は有っても、曲がるとは思っていなかったんで、あの時はかなり焦った。
今では良い思い出だ。
いつもの様に、最初はゆっくりと型をなぞる様に身体を動かす。
今でこそ、そこそこの動きが出来る様になったが、最初はひどいものだった。
俺が自衛隊で習得したのは銃剣術だ。長剣を扱う動きとは全く別物の動きなのは当然だ。
かといって、映像などで目にする事が有った剣道の動きが参考になるかと言えば、正直微妙に感じたんで、剣道経験者の高木さんに相談の上で近衛師団に『先進型魔矢』を教える傍ら、近衛師団に伝わっている剣術を教えて貰った。
その剣術に俺独自の工夫をして(他の誰も真似出来ない部分が有るんで)、やっと最近は及第点が取れるレベルになった感じだ。
準備運動代わりの型の復習に納得したら、動きを速く、鋭く、力強くしていく。
しばらくして、一旦、動きを止めて、『虚体属性魔法』を剣に纏わせる様に展開する。
ここからは完全に俺だけが使える高みになる。
剣に纏わせた『虚体属性魔法』を『運動属性魔法』でコントロールして戦うなんて、これまで誰も思い付かなかった。
思い付いても、自分のモノにするには幾つもの壁が有る。
1番大きな壁は、連動が上手く嵌らないんだ、普通は。
無意識に連動出来なければ、ぎこちなくなるだけで却って邪魔になるだけだ。
しかも、2つの魔法を展開しながら更に『魔体』も発動させるんだ。
素の剣術に3つの魔法を絡めて発動させる事が出来る者など、俺くらいしか居ない。
高校で剣道部に入っていて、剣道の有段者の高木さんにも挑戦してもらったが、とてもでは無いが無理と言っていた。
3つの魔法を同時に展開したままの場合、体内魔素がガリガリと削られて、継戦能力が落ち込んでしまうしな。
俺くらい魔素が多くて、俺くらい魔法が使いこなせて、俺くらい消費魔力が少ない人間でないと、無理なんだろう。
毎朝の剣術のルーティンを終わらせて、汗を拭いていると2輌の竜車と護衛の騎竜12騎がやって来るのが見えた。
1輌は『ニィフゥネ』領の見慣れた竜車だが、続く1輌は豪華な装飾がされた大公家専用車だ。
公都内では試射が出来ないので、ちょっと離れた荒れ地を借りているんだが、わざわざここまで来るとはどんな用事だろう。
お読み頂き誠に有難う御座います。