第16話
20230330公開
『僕は、「魔法をどれだけ使えるのか?」を例えるのに、家電製品とそれに繋いだ外部電源のバッテリー、確かポータブル電源って言っていたかな? それを例に取るのが分かり易いかなって思いましたね。うん、確かにザック君が考えた『魔圧×魔流=魔力』は説得力が有りますね』
1年以上も前、山口さんが初めてザック君の実験資料と考察日誌に目を通した後で言ったセリフだ。
その前に、ザック君の実験結果は執念の塊だとか、異様な現象と数字が並び過ぎていると言って、絶句していたのだが。
『そうですねえ、例えば『魔矢』という魔法を40ワットの電球に例えましょう。電球の場合、家庭用のAC電源から電気を貰う前提なので電圧は普通100ボルトになるから、電流は0.4アンペアになります。100ワットの電球なら? そう、1アンペアになります。ところが、ここにザック君と鈴木さんという例外が居ます。鈴木さんは40ワットを使う魔法のはずが8ワットしか使っていないんですよ。そこで似た存在として登場するのがLED電球です。効率が他の人とは圧倒的に違うんで省エネって事ですね。しかも、一般的な人って40ワットの電球を点灯するのが精いっぱいなんですが、鈴木さんは省エネなんで60ワット相当の電球でも、100ワット相当の電球でも好きな電球を点灯出来ます。しかも、省エネ故に余裕が有るんで、幾つかの電球を同時に灯す事さえ可能なんですよ。まあ、それ以前に執念じみた実験の数に引きますけど』
一気にしゃべった山口さんはハーブティーで喉を潤わせた。
『魔法が2段階で発動すると言う考察も、多分正解でしょう。彼が命名した『虚体属性魔法』を発動後、『運動属性魔法』で運動エネルギーを与えて『魔矢』として成り立たせる、と言うのはストンと納得出来ました。じっくりと思い出すと、確かにその通りに『魔矢』を放っていますね。本当にザック君と言うのは天才なのでしょう』
思わず、俺はにやけた。ザック君を褒められるのは嬉しいものだ。
『そうかぁ・・・ 『虚体属性魔法』に『熱量属性魔法』を掛け合わせて『魔火』として完成。強引に『虚体属性魔法』のみで成り立たせる『魔水』に『熱量属性魔法』を掛け合わせてお湯として出すなんて、普通は発想も出来ませんし、消費魔力の問題で実験も出来ませんよ』
田所君が顔を上げて発言した。
『いや、ほんと、スゴイですよ、ザック君は。ここまで真剣に研究していた彼の年齢の頃の僕なんて引きこもり気味のゲーム好きの普通の子供でしたもん。ザック君こそ本物のチートですね。ところで、さっき言っていた外部電源のバッテリーってどういう意味なんですか?』
『ほら、キャンプ用や防災用にポータブル電源って有るだろ? それを例に取れば、割と個人の魔力量も捉え易くなるんだ』
『どういう事です? ちなみに僕は20000mAhのでっかいモバイルバッテリーを使っていましたよ。それとは別なんですか?』
『実はそんな大きな容量のモバイルバッテリーでも40ワットの電球は点灯させられないんだ。第一電圧が100ボルトに出来ないからね。せいぜい20ボルトまでかな。その上電流は1.5アンペアくらいだろうから、掛け算しても30ワットにしかならない。まあ、スマホやタブレットを充電するにはそれで十分だし、端子もそれ用しか付いてないんだけどね』
『なるほど』
『で、ポータブル電源というのは、変換部が有ってACコンセントが使えるくらいに大容量なんだ。僕が買ったのは定格出力200ワットでコンセントが1つ付いていたよ。確か4~5万円くらいしたかな? バッテリー容量は田所君のモバイルバッテリーが5個以上入っている計算になるね』
『性能も凄いけど、高っ!』
『防災グッズとして買ったからね。災害で停電してもスマホを20回くらいは充電出来るからね。一家に一台は有った方が良いと思って買ったんだ』
『ちょっと欲しくなったかも。あ、でも、こっちには売って無いや』
『まあ、それはさておき、200ワットの出力だから炊飯ジャーとか電気ポットとかは使えないけど、電気毛布なら5~6時間くらい使えた筈なんだ。で、その電気毛布ってさっきの電球で言えば60ワットくらいなんだ。鈴木さんがこのクラスなら、僕らはもっと小さいクラスになるんだろうね』
そこで、山口さんは何かに気付いた様に口を閉じた。
少しして、ブツブツと呟きながら思考の海に入った様だった。
『もしかして、他の人類種が魔法を使えないのは容量不足か? 魔法を必要としない進化をしたからか? もし、魔法が必要と考えたら使える様になるんだろうか? 外からは分からない『魔体』を本能的に使っている可能性は? しかしキログラムの単位で『魔素』を体外に出せるってどんな適正なんだ?』
* * * * * * * * * *
昔の事を思い出したのは、『ニィフゥネ』領を出発して以来、久しぶりに俺専用に試作した小銃型木銃に負荷を掛けた試射をする直前だ。
長さ4㌢に延長した『魔素』供給用の銅棒を差し込む。
100ナグ(約110㍍)先に設置された直径10㌢の鉄製の的に意識を向けながら『先進型魔矢』を発動させる。
『触らずの大森林』の奥の方にそそり立っていた巨樹の枝を切り落として手に入れた原木から削り出した一品だけあって、量産型木銃よりも遥かに力強い反応が木銃から還って来る。
的の中央には直径2㌢を越える穴が開いた。
量産型木銃が5.56㍉か7,62㍉の小銃としたら、これは12.7㍉の口径と言えるくらいに威力が違う。
今度は先程の『先進型魔矢』より更に負荷を掛けた試射だ。
的は外側の3㌢ほどを円形に残して消失した。
と言う事は直径4㌢の大穴が開いたって事だ。
ここまで来たら、対物ライフル以上の火力だ。世間に知られるにはさすがに威力が高過ぎる。
うーん、生物に使うのは気が進まないな。1発で身体がちぎれそうだ。
どう考えてもスプラッタ過ぎる。
まあ、どっちにしろ、効率という言葉を思い出せれば、そんなに使う事も無いな。
最後に、これも公表していない攻撃魔法『神獣の息吹』を3秒間放射する。的の左側から右側へ掃射する様に着弾線を動かす。
明らかに、俺の火力は、この世界ではオーバースペックだ。
その上、これまた公表していない防御魔法『女神の盾』と攻撃魔法『戦神の鉄槌』の事も考えれば、オーパーツそのものかもしれないな。
人間の形をした現代兵器と例えても大袈裟では無いからな。
田所君曰く、この戦争が終わった後、俺を筆頭に元日本人を排除する可能性が考えられるらしい。
俺の力が自分たちに向けられる恐怖に耐えかねて、貴族たちが結託して先に俺を潰そうと魔女狩りに走る展開も有り得るそうだ。
周囲の日本人も貶めて、漁夫の利を得ようとする者も現れるだろう。
異世界を取り上げた小説にはそういう展開の話が有るらしい。
山口さんがその話を聞いて、呟いた言葉が印象的だった。
『狡兎死して走狗烹らる』
そういう事態を防止する為の『先進技術開発公社』だが、俺たちを守ってくれる楔と言えども、王家が裏切れば全く無意味だ。
お読み頂き有難うございます。