第15話
20230327公開
「単身で『力を持つ巨大な人』の10人隊を撃破する武人としてではなく、『落ち人』としてのログナス卿に聞きたい。此度の攻めで奴らが使った雷の魔法に心当たりが無いであろうか?」
「謹んでお答え致します。『銃』という兵器を実用化したと思われます。被害に遭った兵の体内から何か出て来ていませんでしょうか?」
「十数例、丸い金属球が体内から出て来ている事は聞いておる」
まだ、ライフリングを銃身に入れる技術は開発出来ていない様だ。
もちろん、開発は出来ているが生産の歩留まりが悪いから、作り易い滑空式の銃身を量産している可能性も有る。
ライフリングを入れる技術の熟成が進めば、投入する計画かもしれない。
「『銃』でほぼ間違いが無いでしょう。非常に憂慮すべき状況と言えますが、完全に不利になった訳では有りません。見極めの為に、我が『ニィフゥネ』領より知見を持つ者を呼び寄せております。詳しくはその者たちが到着してから対策を協議したいと思います」
「ふむ、さすがと言うべき対応の早さだな。たった少しのやり取りで、少し心が晴れた。貴公を呼んで正解じゃったな」
「勿体無きお言葉」
「来た早々に呼び出したので旅の汚れも落としておらんだろう。ゆっくりと身体を休めてくれ。御苦労であった」
「はっ!」
謁見の間の空気が少し軽くなった。
まあ、これまで以上の被害を受けた未知の攻撃手段の秘密が分かるだけでも、精神的にも軍事的にも負担は軽くなる。
その為の予定調和に満ちた謁見だったんだから、狙い通りと言える。
昨日、召集の急報の返答の中に『煙を吐き出す雷の魔法』について心当たりが有る事、調査しておいて欲しい事を簡単に書いておいたのだ。
もっとも事態が深刻な事は確実だから、これからの協議が重要になる。
* * * * * * * * * *
3時間遅れて山口さんと田所君、それと俺の従者のカル君たちが到着した。
旅程の2時間の差は、『三日月』の走力も有るが、乗り心地と安定性が悪い竜車では長距離を走る時は時速10㌔しか出せないという事情も有った。田所君が『テンプレのサスペンション開発をしておくべきだったか?』と青い顔で呟いていた。
ついでに言うと3人は疲れを取るのに丸3時間掛かった。レンジャー訓練を始めとするキツイ強行軍に慣れている俺と娑婆の人間の差と言える。
俺が着いてから収集した情報を交えて、打ち合わせを済ませた後で、ゼントリウス大公に協議の申し出をすると、1メン後(約1時間23分後)には登城の案内が来た。
ゼントリウス大公臨席の協議は最初から最後まで『ニィフゥネ』領側が主導した。
なんせ、圧倒的に知識の量が違うし、銃を使った戦争の歴史の積み重ねが違ったからだ。
「それでは、これまでの話を総括しましょう。第一に威力は杖を使った『魔矢』以上『別系魔矢』以下。第二に有効射程は90ナグ(約100㍍弱)ほど。これも『魔矢』以上『別系魔矢』以下ですね。第三に射撃間隔は1ムン(約1分40秒)に2発から5発と、最大値でも『別系魔矢』の1/4ほど。総合的に『別系魔矢』を使う前の長弓並みの脅威と判断されます」
ここで山口さんが参加者全員が話に付いて来ているかを確認する為にみんなを見渡した。
「こうやって比較すると大した事が無い様に思えますが、問題は次の2点です。第1点目は長弓に比べて訓練が簡単で少しの練習である程度の兵力になる事。言い換えると弓兵として戦力外だったゴボリン人が弓兵として使える様になるという事です。問題の第2点目は更に進化した『銃』の登場が考えられる点です。これに関しては技術的な難しさから時間が掛かると推測されます。ここまでで何か質問は有るでしょうか?」
そう言って、山口さんは再度みんなを見渡した。
「更に進化した『銃』が『別系魔矢』を上回るというのは確定なんでしょうか?」
発言者は確か軍需関連の担当官だな。
『別系魔矢』に使う弓と矢は自国で生産出来るが、『先進型魔矢』用の魔杖は自国で造ろうとしても材料の関係で性能が落ちるからな。自分の管轄に直結する話だ。
「ええ、確実に上回ります。進化は3段階に分かれます。第1段階で威力と射程が伸びます。第2段階で射撃間隔が短くなります。第3段階では更に短くなり連射が可能になると想定しています」
ライフリング化、前装式から後装式への進化、単発式から連発式への進化、と続くと思われる。
もっとも、ライフリングを後回しにして扱い易さを重視して後装式への進化の可能性も残されているがほぼ無視で良いだろう。
後装式まで辿り着くのも大変だが、連発式への道は更に険しい気もする。
機構を知っているかどうかも大きな壁だが、部品の質と精度が一気に上がるからだ。
まあ、普通の市民なら火縄銃の構造やボルトアクション式の動きまでは思い浮かぶだろうが、ボルトアクション式や連発式に使われるカートリッジ式の銃弾を作るのは、統一された規格が必要になるのでズバリ工業化と言って良いだろう。
ゴボリン人にどれだけの『落ち人』が居て、その知識を十分に発揮出来る環境に在るのかが分からないので、何とも言えないな。
「幸いにもこちらにはログナス五等級爵が開発した『先進型魔矢』が有ります。使い手を選ぶ魔法ですが、『銃』の第4段階目に近い性能を持っているので、単純な比較では今後も優位を保てるでしょう。ただし、先ほども言った「ゴボリン人の弓兵化」は戦術に大きな制約を掛ける事になると思います。1例を上げると、ゴボリン人が主体の後方部隊への襲撃が安易に出来なくなると言った具合にです。数を恃みに押し寄せて来る時にも、弓兵化されていると一気に被害が大きくなるでしょう。今後の対弓・対銃対策の見直しと、戦術や作戦を練り上げる際にも注意が必要と思われます。もちろん、我々は戦術等の知見が乏しいので詳しい対応は専門家にお任せします」
銃の出現についての警鐘は鳴らせるが、戦術や作戦に関しては素人が口を出しても碌な事にならない。
その辺を弁えた上で山口さんは発言を切り上げたんだろう。
「あと、心配しているのが『銃』の技術を使った、攻城兵器の登場です。記憶ではそれほど爆発力が無かった筈ですが、火攻め用としては十分な性能を持つ兵器が考えられます。迅速な消火が可能な体制作りが必要になるかもしれません」
季節や天候次第では本当に脅威になる。
城塞の全てが石造りという訳では無いのだ。
実に厄介な物を再開発してくれたと思っても罰は当たらないと思う。
お読み頂き誠に有難う御座います。
4月24日投稿予定の第24話までは空腹に耐えて書きましたが、そろそろ限界かも・・・