第14話
20230324公開
『知恵持つ栄光の人』の勢力圏で生き残っている『落ち人』は、日本人の特徴を残していた。
分かり易く、黒髪で濃い茶色の目だ。
その他、顔も日本人と欧米系とのハイブリットに見える造作をしている。
だから、『知恵持つ栄光の人』以外の土地に落ちた場合、殺されてしまうだろうと思っていた。
だけど、『先進技術開発公社』を設立する前の話し合いで、元高校生の田所君が指摘した事が有った。
言われてみると、目からウロコの考え方だった。
『自分たちがそうだった様に、その地の人類種の特徴を取り入れて落ちて来る可能性も有るんじゃ無いでしょうか?』
『僕はこういう「剣と魔法の異世界」に持ち込むのは反対ですけど、火薬を作って銃を再現して成り上がろうとしたり、他の人類種に勝とうとしたりする『落ち人』が居ないと言い切れないですよ?』
前者に関しては喜ばしい可能性だ。異世界に飛ばされた、同じ目に遭っている日本人が生き残っている事は素直に喜ぶべきだろう。
上手く接触出来れば、異なる人類種同士でも友好的な関係を築ける可能性も見えて来る。
出来れば食生活を彩る様な成果が出れば最高だ。
『触らずの大森林』で幾つかの香辛料を見付けたが、それでも飽食の日本と比べてしまうとまだまだ物足りない。日本は世界中からあらゆるものを輸入していたからな。
俺としては胡椒の様な香辛料が欲しい。本当に日本は桃源郷の様なところだったんだなと、今さらに思う。
後者に関しては、そもそも火薬を再現する事が出来るのか? という壁が有る。
田所君によると、困難は困難だが無理では無いらしい。
元々火薬は9世紀の中国で、薬の材料になる素材同士を組み合わせて発明されたらしい。
その素材は「木炭」と「硫黄」と「硝石」だ。出来る火薬は黒色火薬と言い、現代の無煙火薬と違って白煙がかなり出る。
俺の拙い知識ではそんな昔の火薬と言えば、元寇の時に使われた「てつはう」が思い浮かぶくらいだが、実際には「火槍」や「震天雷」と言った兵器が開発されていたらしい。
ただ、今出た3つの兵器くらいなら脅威にはならない。
射程が短いからだ。
『先進型魔矢』は言うに及ばず、『別系魔矢』にも及ばない。『魔矢』にも負けるだろう。
命中率も雲泥の差が有る。
ただし、『銃』という兵器になると一気に話が変わって来る。
戦国時代を変えた兵器と言えば「火縄銃」だが、元教師の尾崎さんによると、50㍍先の厚さ3㌢の合板を撃ち抜いたり、1㍉の鉄板を撃ち抜く威力を持っていたそうだ。
もちろん、尾崎さん曰く、日本史では常識の知識らしい。
ライフリングの入っていない滑空式の銃身でその威力だ。
もしライフリングを入れる技術を開発した場合、威力も命中率も一気に向上する。
『先進型魔矢』には及ばないが、『別系魔矢』相当になるだろう。
それならガラバナン人が使う長弓と変わらないので、今までと変わらないから恐れる事は無いと言いたいところだが、実際は全然違う。
銃を使いだしたのがゴボリン人というのが問題なんだ。
ゴボリン人は身長も体格も、俺たちが生まれ変わったハイランテ人に大きく劣る。だから戦闘という面では余り脅威にならなかった。
だが、寿命が短い代わりに出生数が多いから人口爆発をしがちな人類種故に、人海戦術が可能な程に人口が多い。
もし、ガラバナン人が使う長弓並みの、銃と言う名の中距離投射兵器を量産しだしたら?
黒色火薬には爆発力はそれほど無いが、火攻め用の爆弾を作って、攻城兵器で打ち込んで来たら?
想像するだけで、ハイランテ人の防衛戦略にとっての大きな脅威になる。
その原因の大本が、日本人の『落ち人』かもしれない、という事だ。
最も避けたかった展開になった訳だ。
銃が拡散すれば、素人が少し訓練しただけで、鍛え抜いた武人を殺せる様になる。
戦死のレートが大暴落する時代、もっと言えば殺戮の時代がやって来る。
* * * * * * * * * *
『先進技術開発公社』の元日本人と、『ニィフゥネ』領の領政を取り仕切っているシス・δ・カーヌ四等級爵と対応を夜中まで擦り合わせして、俺は必要になりそうな物資を持って翌朝、単身先行して出発した。
『先進技術開発公社』所長の山口さんと技術課筆頭研究員の田所君、それと俺の従者のカル君は準備をする為に遅れて出発する事になった。
俺よりも昔の火器に詳しい2人の知識を遊ばしておくのはもったいないからな。
『三日月』で駆け続けて、俺は3時間後にはゼントリウス公国の公都に着いた。
さすが『三日月』と言うべきだろう。
まだ仔竜と言ってもおかしくない2歳竜なのに、大人の小型地竜顔負けの走力とスタミナを発揮してくれた。
しかも、戦闘ともなれば、他の小型地竜では不可能な能力も持っている。
更に、この仔は俺が騎乗している限り、ガラバナン人を恐れない。
この仔が小さな時から育てた事と、俺の方がガラバナン人よりも強いと知っているからだ。
何度も往復した旅程なので慣れたものだが、今回はさすがに内容が内容だ。
気が急いたせいでいつもと違った疲労が有る。
公国に入ると同時に護衛が付いたが、彼らも事態が深刻だと分かっているのか、いつもより言葉数が少なかった。
旅の汚れを落とす間も無く(着替えだけはしたが)、そのまま謁見の間に案内をされる。
謁見の間には、年齢よりも老けて見える31歳のゼントリウス大公が玉座に座り、その両隣に2人の幼い公子と『左右の宮』から2人の公妃が玉座より控えめな椅子に座っていた。
拝謁の作法に則って、前に進み、片膝を付いて口上を述べた。
「『知恵持つ栄光の人』の堅き守護者たるゼントリウス大公様の召きに応え、ミッドガラン王国ザック・ε・ログナス五等級爵が馳せ参じました」
「うむ、面を上げよ」
お読み頂き誠に有難う御座います。
第13話「戦死のレート」をお送りしました。
皆様が愛してくれたmrtkチンアナゴは、栄養となるプランクトンを摂取出来なかった為に、餓死してしまいました。