第13話
20230321公開
王都への臨時召集から3か月が過ぎた。
爵位持ちそれぞれの対応は分かれた。
後方に領地を持つ爵位持ちは兵を出す事を選ぶ傾向が高いが、奥底には難民問題が潜んでいる。
滅ぼされた国で発生した難民は、ミッドガラン王国を越えて更に後方の国にかなりの数が逃れたが、それでも結構な数の難民がミッドガラン王国後方の地に留まっていた。
定職にあり付けなかった難民は2世代に亘っての問題となり、深刻な社会問題となっていたが、兵として召集する事で解決しようとした爵位持ちが多かったんだ。
『ニィフゥネ』領にまで、強引な手法を取ったという噂が流れて来るくらいだから、正直なところ、兵士としての質は余り期待出来ないと思う。
せめて、 USAみたいに従軍すれば市民権と言うか領民権が手に入る、という見返りが有れば良いのだが。
一応はその辺りの献策はカーヌ卿を通じて中央に送っている。
まあ、集めた手法はどうであれ、訓練次第では兵士の質は変わるんだが、こっちの世界における練兵に関する情報には詳しくないので何とも言えないな。
そうそう、兵士の質と言う点では、ログナス二等級爵領に隣接する爵位持ちの領はかなりマシになった。
ログナス二等級爵領領軍の『魔杖竜騎兵』以外の兵の訓練も請け負った事が伝わって、参加を希望する爵位持ちが出たんだ。
具体的にはダグス四等級爵領、グドザ五等級爵領、ヘルマー五等級爵領、アック五等級爵領の領兵たちがここ『ニィフゥネ』領まで来て、徹底的な基礎訓練を受けた。
だが、やって来た兵の装備を見て、カルチャーショックを受けた事が有る。
身に纏っている防具が酷かったんだ。厚手の服の上に丸い木の板を胸の所で紐で固定しているだけだった。
山口七等級爵曰く、地球でも実際に使われた胴鎧の元祖らしい。
なんでも紀元前1900年ごろの古バビロニアで発明されて、ギリシャやローマなどの近隣の古代文明圏に伝わったらしい。
ログナス二等級爵領領軍が大量生産品とは言え割としっかりとした木製の鎧を装備していただけに、異世界を舐めていた。
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最下級とは言え、領地持ちの爵位を持っている俺は立派な貴族と言える。
だから、家宰も居るし、従者も居る。
家宰はシス・δ・カーヌ四等級爵が務めている。階級的には上なので本来は有り得ないのだが、王室の意向も有り、こんな逆転現象になっている。
で、従者なんだが、4人居て、1人はカーヌ卿の孫で14歳のカル・カーヌ君だったりする。
カル君の父親は中央で官吏をしている。自身の才覚で六等級爵まで昇進していて、来年にはカーヌ四等級爵を継ぐ予定だ。
カーヌ卿から聞いた話だと、カーヌ家の今後を見据えての決断らしい。
カル君の兄が中央官僚として父の跡を継いで、カル君は今後益々発展するであろう『ニィフゥネ』領での足場を固めるらしい。
で、なぜこんな話をしたかと言えば、カル君が俺の勅命の出征に付いて来るからだ。
3ヵ月後の予定とは言え、長期になるかもしれない出征に備えて今の内から準備をしておく必要が有るから、カル君には良い経験になるだろう。
今は騎竜の騎乗訓練の最中だ。
万が一、竜車を使えない状況になった場合、騎乗出来なければ生き残る事が難しくなるからな。
そろそろ帰ろうとした頃に、従者の1人が竜車に乗ってやって来た。
小型地竜たちの息が上がっている所を見ると、かなり飛ばして来たのだろう。
俺たちを見付けると、速度を余り落とさずに近付いて来て、完全に止まる前に御者席から転げる様に降りた。
「大至急、お屋敷にお戻り下さい。『砦』から至急報が届いています。運んで来た伝令によると、閣下に直接お渡しする様に命令されている様です」
確実に厄介事が起きた兆候だ。
急いで屋敷に戻って応接室に行くと、顔を知っている兵が立ったまま待っていた。
第3旅団の本部附き偵察小隊の三等級曹だ。
休みの日に昼から呑みに来ている呑兵衛で、何回か顔を見た事が有る。
今は滅多に無い至急報を携えた任務中なので、いつもの緩んだ赤ら顔と違って緊張で顔が強張っている。
「待たせた。それで至急報は?」
「はい、こちらです」
受け取った皮紙を広げると、200字ほどの文章が書かれていた。
内容は、ゴボリン人たちが煙を吐き出す雷の魔法を使い出して、ゼントリウス公国の犠牲者が増えた、というものだった。
今のところは砦群は健在だが、異常事態の為に意見を聞きたいとゼントリウス公国の大公様から招集依頼が来ている、と言う内容だった。
元日本人の間で懸念されて、恐れていた事態が現実になった瞬間だった。
お読み頂き誠に有難う御座います。
第13話「至急報」をお送りしました。
皆様が愛してくれたmrtkチンアナゴは、栄養となるプランクトンを摂取出来なかった為に、やはり餓死していました。