第12話
20230317公開
王様の発表後、参加者は爵位の位階ごとに分けられて、何カ所かの中規模広間にそれぞれ案内された。
そこで、領地持ちの五等級爵に課せられる具体的な負担を聞かされたのだが、最後に俺だけ特別扱いされた。
「公国のゼントリウス大公様よりの御指名により、ザック・ε・ログナス五等級爵閣下の『ニィフゥネ』領は、閣下のみの参戦で結構です。また、従者を連れられる場合は事前に連絡を頂くと受け入れ準備をしておく、との言伝も頂いております」
周りからの視線が痛い。
そりゃあ、今期の収穫の1/3の穀物か、領主もしくは直系の代理人が率いる一律200人の兵士か、と言う負担と比べれば、特別扱いにも程が有る、と言う皆の心の声は正しいと思う。
俺も属する位階の領地持ち五等級爵領の人口はそれぞれ1万から2万と言う所だろう。
人口の1%から2%に当たる兵を送るのは大変、という領は多いと思う。
治安の維持と軍としての役割を持つ領兵を、平時からその規模で維持している領は少ないからだ。
当然、徴兵する訳だが、装備品も追加で揃える必要が有る。日頃から備えてなければ負担は大きいだろう。
ちなみにミッドガラン王国の領地持ちの爵位持ちの構成と人口はこんな感じだ。
五等級爵 :計34家 領民計 約50万人
四等級爵 :計13家 領民計 約50万人
三等級爵 :計 7家 領民計 約50万人
二等級爵 :計 3家 領民計 約50万人
一等級爵 :計 1家 領民計 約20万人
王家 :計 1家 領民計 約200万人
総計59家 約420万人
ミッドガラン王国の大きさは日本の面積くらいという認識なんだが、人口が多いのか少ないのかが今一分からなかったので、改めてシス・δ・カーヌ四等級爵に訊いた結果だ。
少ない気がしたんで、山口さんと尾崎さんにも日本史に準えて教えてもらった。
実は戦国時代末期の日本の人口は1200万人くらいだったそうだ。
「加賀百万石」と言うが、それって100万人分の人口を養えるという意味でも有ると言われて「へー」と思った事は内緒だ。
そう言われれば、確かに戦国時代で1200万人という人口は大袈裟では無いだろう。
そう考えると420万人という数字は少ないが、鎌倉幕府の時代は600万人くらいだったそうだ。
元教師の尾崎さんによると日本史では常識の知識らしい。
で、日本との差の原因は、お米とこちらの世界の主食穀物の収穫効率の違いらしい。
お米は手間が掛かるが面積当たりの収穫と栄養は優秀らしいけど、丘陵地帯がかなりの面積を占める『ニィフゥネ』領では水田を作れないから、もしお米が有っても無駄らしい。
日本の関西で菜園を営んでいた畠山さんが食糧の自給率を改善する為に、『ニィフゥネ』領でも収穫が出来る主食穀物以外の作物を調べているが、幾つかの有望な作物は有るそうだが、結果が出るにはもうしばらく時間が必要との事だった。
それはさておき、中年で瘦せこけた背の低い官吏の説明は続いている。
「領地に戻る前に、物納にするのか兵を出すのかを申告して頂きます。遅くとも5日後には申告頂きます。何か質問の有る方は居られますか?」
一瞬の間が空いた後、声を上げたのは他の爵位持ちに比べても豪奢な衣服を着た小太りな中年男性だった。
「爵位に合わせて一律に貢献する事に不服は無いが、何故例外が有るんだ? それでは不公平になってしまうと愚考するが、如何か?」
まあ、こういう意見が出るのは当然か。
俺も実情を知らなければ、文句の一つも言いたくなるかもしれないな。
「ザック・ε・ログナス五等級爵閣下の事を言っておられるのなら、これから公開されていない情報を含んだ内容をお伝え致しますので、他言無用でお願い致します」
そう言って、姿勢を正した官吏が封を開けていない封筒を懐から出した。
ちらりと見えたが封筒には王家の紋が入っていた。
丁寧にペーパーナイフで封を開けて、中から厚めの紙を出す。あの封筒も紙も、我が領の『先進技術開発公社』が製紙した特別製の王家専用紙だ。王家の紋章の透かしを入れているので真贋が分かり易くなっている。偽造は今のところ不可能だろう。こっちの紙との質が段違いだし、透かし自体が先進技術に当たるからだ。
「陛下の感状の写しです。ザック・ε・ログナス五等級爵がゼントリウス公国の地に於いて『力を持つ巨大な人』の10人隊を単独で撃破し、彼の地で防衛任務に就いている第10大隊第3中隊の危機を救った事を認める。以後も励む事を命ず。ラクノリス・ααα・ラグナ・ミッドガラン」
それは俺が予定に無い初陣を飾ってしまった時の出来事に関連したものだった。
まあ、あれは偶々成り行きで戦ったから、あまり表に出ていないんだよな。
「は? え・・・? そんな話、噂にも流れていなかったが?」
そりゃあ、ガラバナン人の10人隊を1人で撃退したなんて噂が流れたら、迷惑を受けるのは俺と『ニィフゥネ』領だ。
出来るだけ表沙汰にならない様に手を回したんだ、カーヌ卿が。
官吏は丁寧に封筒に紙をしまい、視線をゆっくりと全員に送った。
「ザック・ε・ログナス五等級爵閣下が単身で参戦するだけでお釣りが出ると思いますが? それでは、次の質問は御座いますでしょうか?」
質問は出なかった。
お読み頂き誠に有難う御座います。
第12話「反攻の詔」をお送りしました。
皆様が愛してくれたmrtkチンアナゴは、栄養となるプランクトンを摂取出来なかった為に、餓死しましたがよく見ると尾ひれがピクピクしています。