第11話
20230317公開
ミッドガラン王国の主食穀物の収穫が終わる頃、国王の名で五等級以上の爵位持ち全員を対象とした臨時召集の知らせが届いた。
理由は今後の『知恵持つ栄光の人』全体の方針発表みたいだ。
まあ、『先進型魔矢』を使える兵力が増えて来た事と、ガラバナン人の攻勢を食い止めているゼントリウス公国に余裕が出来て来たから、何らかの方針変更が有ってもおかしくないのだろう。
俺が治める領地『ニィフゥネ』からは俺の他にシス・δ・カーヌ四等級爵も召集対象だ。
ただ、俺は『三日月』に騎乗するが、カーヌ爺が騎竜に乗れないから小型の竜車(速度はソコソコ出る)で移動するから時間が単独騎行より掛かるんだよな。
一般的に普及している獣車よりはましだが、それでも6日は掛かる。
竜車の馭者は2人の従者が交代で務めるが、1人はカーヌ卿の2人目の孫だ。
そう言えば、彼にとって王都行きは久しぶりかもしれないな。
1日掛けて、まずはログナス二等級爵領の領都ログナジークのログナス家の屋敷に到着すると、王都で王立中央学園に通っている14歳の嫡男のグイカ君を除いた一家が総出で出迎えてくれていた。
7歳になった義弟妹のルークとサーシャに会うのは一か月ぶりだが、相変わらず懐いてくれている。
うん、おめかししている姿が可愛いぞ、二人とも。
ルークは昔は「ザックにいさま」と呼んでくれていたが、今は「ザックきょー」と呼んでいる。
多分、ザック卿と言っているんだろうが、言い慣れない感じがこれまた可愛い。
「ザックきょー、良かったら、また魔法のれんしゅうを見てください」
「ああ、勿論見て上げるよ。2人とももう『魔風』は出来るんだよね?」
「はい、ザック卿。今は『反発』を練習しています」
答えてくれたのはサーシャだ。
これくらいの年齢なら、女の子の方がしっかりしているから、ルークよりも大人びている。
それに俺が見る所、サーシャの方が魔法の発動が上手い。
まあ、年齢的に今は基礎魔法さえしっかりと発動出来れば十分だ。
4歳でいきなりユラシス夫人の真似をして『魔光』を一発で発動させてしまったザック君が異常なんだ。
それにしても、『魔風』も『反発』も、基礎的な魔法の中では難易度が高い。
ザック君が開発するまで『魔風』が無かったのは、目に見えない事と、『空気』または『気体』と言う概念が『知恵持つ栄光の人』では定着していなかったからだ。
だから、『魔風』が使えると言う事は、概念を理解しているという事になる。
『反発』はもっと難しい。磁石の同極反発を知っていれば簡単なんだが、知らなければ発想が出て来ない魔法だ。
「おお、中々順調だね。さすが自慢の弟と妹だ」
褒めて上げると、2人ともテレテレという感じで可愛い。
日本に居る頃には子供を見て可愛いと思った事が無い俺だが(むしろ子供なんて生意気で、我儘で、我慢も出来ない半人前と思っていたから嫌いだった)、ザック君の影響でこちらでは正反対な反応になっている。
まあ、それで損をしている訳でも無いし、意外と満足感も得られるのでむしろ転生特典と言って良いのかもしれないな。
今日はログナス家の屋敷で一泊して、明日の朝に王都に出発する予定だ。
ただ、ダイガ閣下とはお互いに掴んでいる情報の擦り合わせが有るので、多少の夜更かしは仕方ないだろう。
* * * * * * * * * *
旅程は特に問題も無く進んだが、途中から合流した一部の爵位持ちが獣車だったせいで、余分に1日掛かってしまった。
いや、まあ、間に合ったから良いんだが、危機意識が低いと思わざるを得ない。
確かに獣車の方が普及しているから獣車を曳く獣を手配し易いんだが、有事になって時間との競争と言う場面では困ると思うんだがな。
国王の発表の場は、俺が叙爵された広間だった。
あの時は玉座に向かって中央に絨毯が曳かれていたが、今回は絨毯も敷かれていない。
立錐の余地も無いとまでは行かないが、それなりに詰まった状態で全員が立ったままで発表を聞いた。
発表の内容は、ざっとこんな感じだった。
一、半年後を目途に、ガラバナン人に奪われている地に対する反攻作戦がはじまる
一、各領主は爵位に応じた負担を担う
一、物納か兵力の提供を選択可能
一、ただし、物納を選択した場合、貢献が低いと見做して陞爵は無い
一、ただし、兵力の提供を選択した場合、事前に兵力の査定が入る
一、後方の諸国の発案で、支援も有る
一、各自、歴史的な作戦に貢献すべし
ある程度は事前に掴んでいた情報から予測していた通りだが、問題は人口250人しか居ない『ニィフゥネ』領が五等級爵領という事だ。
人口で兵力を算出されずに爵位で一律に供出を言われたら、子供を含めて領民全員が駆り出されてしまうかもしれない。
どうしよう・・・
お読み頂き誠に有難う御座います。
第11話「王都召集」をお送りしました。
皆様が愛してくれたmrtkチンアナゴは、栄養となるプランクトンを摂取出来なかった為に、餓死しました。