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天国か地獄か

 そろそろ真夏に差し掛かろうかという季節なのにも関わらず辺りは虫の音一つ聞こえずに静まり返っている。

 まるで氷にでも閉ざされてしまったかのように身動ぎせずこちらを見つめている様はどこか間抜けだ。


 そんな中一人だけ動けることに感動を覚えながらも教師に向かって声をかける。


「先生」


「……はっ! そ、そうだ…ヤコブは……。……そこまで。ヤコブが致命傷を受けたことにより戦闘不能とみなす。よってこの勝負ハーウィットの勝利!」


 俺に対して批判的なだけで生徒たちからの評判はいい根はそこまで悪くないのだろう、すんなりと俺の勝利を認めた教師の宣言によって俺の勝利が決まった。

 しばらくはまたもや訪れた静寂に支配されていたが、思考が追いついたのだろう、誰かが声を上げればそれにつられるようにざわめきが拡がっていく。


「い、いま、アイツの勝ちだって……」


「い、いや、さすがに気のせいだろ」


「でも見て、倒れてるのはヤコブで」


「え、ということは本当に背教者のアイツが?」


 氷解された思考は再び荒波に揉まれていったようだ。

 よく見れば教師も夢ではないかと疑っている。

 それも仕方がないことだと思う。


 ギフトには戦闘向きのモノもあればどう見ても戦えないようなモノまである。

 例として、お風呂を沸かすことが出来るギフト、自分の周囲に光を通さなくなる場所を作るギフトなど様々あるが、前者はなんでも一応温めることが出来るのだが上げることが出来る温度が極端に下がってそれ以外使い物にならない使い勝手の悪さが、後者は自分を囲むように真っ暗闇を作り出すので自分が確定で何も見えなくなる大きすぎるデメリットがネックとなっている。


 そんなわけだから戦い向きではないギフトを持った人々はそれを戦闘以外に生かすように勧められ、大抵がそれを受け入れるので、戦闘訓練をした戦闘向きのギフトを持った人々には基本勝てない。

 ましてや神々の祝福を受けている者に勝てるなど誰が思うだろうか。


 ヤコブは俺に負けるなんて考えたこともなかったのだろう。

 地面を見つめて何か小さくブツブツと呟いている。

 その姿は墓場にいればすぐさま騎士たちが飛んできて悪霊として討伐するのではなかろうかと思うほどの不気味さがにじみ出ている。

 いつもヤコブを取り囲んでいる取り巻きたちも誰一人として近づかない。


 正直俺も近づきたくないが、何かしらしなければ授業が終わってもこのまま動かないような気がする。

 そんなのはだれも望んでいないだろう。

 それならばこの状況を作り出した俺が解決に動くべきだ。


 とは言っても模擬戦に勝った俺が何を言えばいいのか。

 それを考えながら足音を消し、息をひそめてできるだけ気づかれないように近づいていく。


 近くに寄れば寄るほど感じる禍々しさ。

 ヤコブが醸し出す雰囲気のみならずその周辺の空気までも何だか重苦しい気がする。

 緊張からか汗が止まらず、喉がやけに乾く。

 それでもヤコブのすぐそばまで来た。来てしまった。


 まだ何も話す内容など決まっていないが、いつまでもここに立っているのはよくないだろう。

 速いテンポでリズムを刻む心臓を極力無視しておそるおそる声をかける。


「お、おい。大丈夫か?」


「………」


 無難に問いかけてみるも反応はなく、一人で何かを呟き続けている。

 もっと近づけば内容も聞こえるのだろうが、今のヤコブにそれができるのはよほどの今日メンタルの持ち主かとてつもなく空気の読めない奴だけだろう。

 もうヤコブを放置しておきたいが、俺にも責任がある以上それはできない。


「もう模擬戦は終わったぞー……」


「………」


 当たり障りのない声掛けでは反応してくれそうにない。

 ならば褒めてみるのはどうだろか。

 俺に負けて落ち込んでいるだけかもしれない。


 一度思い浮かんだことがとてつもない名案のように感じてきた。


「なあ、ヤコブは凄いよ。槍の扱いは一流だし、ギフトも強力。その上神々の祝福まで受けてるんだから。正直なんで俺なんかが勝てたのか今でも不思議なくらいだ。……だから……その…──」


 だから一度勢いに乗った口は止まらない。

 明らかに震えているヤコブが視界に入っているはずなのに気にせずに最後まで言い切った。


「──そんなに気にすんな」


 言い切ってしまった。


 その瞬間、何かが切れるような音がした、気がした。

 それと同時にヤコブから勢いよく炎が上がり、周囲の温度が一気に上昇する。


「………るな…」


 呟き声が大きくなっていく。

 それと同時にさらに空気が熱くなる。


「……けるな…」


 俺を含めた誰もがヤコブから急いで距離を取ったためけが人はいないが、いつもの姿からは想像できない様子に視線が集まる。


「…ざけるな…」


 ヨロヨロと立ち上がったその顔は炎に巻かれて見えないが、その声はなにか大きな感情を無理やり押し殺しているようで。


「ふざけるな…」


 間違いなく原因は俺にあるはずなのだが、それがわからずに呆然としているとついにヤコブの感情が爆発した。


「ふざけるな!!」


 

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