8月4日に出会った彼女 5
どこそこの店舗の誰々はカッコいい、可愛い。「無印」と「子供服」が互いの評価を批評し合い、ときどき「ダイソー」は頷いた。それが男に対するものだった時には何気を装いぼくが食いついたりした。
先月の初めから二ヶ月限定で開店する屋上のビア・ガーデンで働く男に「ダイソー」は、確かに、確かにと絶賛した。背が高く、細身の身体でもしゃもしゃしたパーマを頭に当てる色白な、バンドマン風の男。
「そんな奴いたか?」顔の赤い無印は首を捻った。
「あなたは女の子ばかり見ていたから覚えてないのよ、ねっ?」子供服はダイソーに微笑んだ。ダイソーの涼し気な細長い両目が嬉しそうに回想し同意する。どうして三日月は双子じゃなかったのだろうか? と思えてくる。
もともと彼らは、そのビア・ガーデンのプレオープンへ参加した時(毎年各店舗から二人以上の参加が求められていた)に同じ列の長テーブルで知り合った。周りにはもっと沢山の出席者がワイワイやっていたのだろうが、彼らはたまたま同じ学年だったこともあり、なんと言っても「無印」がそのような場に居たのだから、後日の「日取り」が決まらないわけがない、というわけだ。
嘘のような食料品事故の噂や、監視カメラで撮られた姿をカラーコピーされバックヤードに貼りだされている鬼クレーマーの初老の男の話に盛り上がった。また女子更衣室で盗撮事件があったらしい、という噂は初めて聞いたし、従業員用トイレに一時だけ貼り出された超高圧な警告文(搬入業者のドライバーが売り場のトイレを使った、というだけのことだ)にかなり腹を立てた同業の匿名者が、非常階段と踊り場で常態化している山のような荷物や在庫、用度品を写メに撮り、施設のホームページにある「お客様ご意見箱」なるページへ、どれほど消防法を無視しているこの実態を晒されるのが嫌なら、従業員用トイレの張り紙を撤去し、更にあの警告文を謝罪する施設長名義の謝罪文を貼り出せ、とアクセスしてきた話題も出た。
ぼくも読んだことがあるその警告文は確かに酷いものだったし、貼り出されてから一週間もしないで手のひらを返した謝罪文は更に謎だった。そんなわけで、総務課で長期欠勤を続けているらしい何某さんが、たかがお前らごときに下水を使わせることすら許しがたい、と外部の労働者を罵る「あれ」を書いたに違わない、と噂されていて、恫喝し返したドライバーは何某運送の人間らしい、と推察されていた。「総務」の方は知らないけれど「ドライバー」の方は目星がつく。確かに、自己否定に溢れる謝罪文が貼りだされた後、ひと月くらいするとその業者さんのドライバーは別の人と変わった。でもぼくは面倒な気がしたので知らない振りをした。丁寧な言葉使いをする、決して嫌いなドライバーではない若者だった・・・・・・