#0 Alice HighsWalker
凄まじい爆撃音が、爆撃音が鳴り響くにはあまりにも相応しくない、日本ではない、地球でもない、異世界の森林で轟く。
森林の一部分が魔法………ではなく、超火力の銃火器によって吹き飛ばされる。
ついでに爆風によって、ボクも吹き飛ばされる。
これは一体全体何体、どういうことなのか。
どういうことなのか?
どういうことなのだろうか?
ボクが訊きたいくらいである。
「ちょっと、大丈夫?」
赤に見えるし、青に見える、それでいて黄色に見えるし、緑に見える、何色にも見える、七色な光を帯びる紫色の髪を腰まで伸ばしたセーラー服の美少女が駆け寄ってくる。
「大丈夫に見える?」
「いや、見えないわね」
「だよね、ボクも大丈夫とは思えない」
「ほら、立てる? 全く、しっかりしなさいな」
美少女が尻もちをついたボクに手を差し伸べる。
ボクに差し伸べられた左手の、逆の手には、異世界では見たくもない、スナイパーライフルが握られている。
セーラー服に銃火器、どこぞやで、見たことがある、聞いたことがある、目にしたことがある、耳にしたことがある、そんな、こんな、あんな、どんな、組み合わせだが、抱き合わせだが、一つ違う点があるとするのならば、ここは異世界であるということだ。
異世界であるならば、異世界らしい武器で魔物や敵と戦って欲しいものである。
何を食べれば、異世界で地球由来の銃火器を使おうという発想に至るのだろうか。
異世界と呼ばれるものの、醍醐味というのか、楽しみ方というのか、ここまで来ては、そこまで来ては、風情と言ってもいいだろう。
異世界にはミスマッチな、超現実的兵器が風情を台無しにしていることは間違いなかった。
こんな折角の異世界を常に台無しにし続けているこのセーラー服の美少女の名前はアリス・ハイスウォーカー。自称勇者。
彼女自身以外、彼女のことを勇者と呼ぶ者がいないため、彼女の勇者は自称ということになる。
しかし、だがしかし、勇者という異世界において絶対的な存在とも言える称号を自称するだけはあって、その戦闘力はそこらの冒険者たちと比べても桁違いに高い。
ただ、ただただ、彼女の戦闘力が高いのにはちゃんとした理由が存在する。理由付けをすることができる。
そう、そうだ、彼女の強さの秘密は最早、言うまでもなく、秘密でもなく、マル秘でもない。
彼女が強いのは、この世界で無双しているのは、この剣やら、槍やら、斧やら、弓矢やら、魔法やら、という中世的な異世界において、唯一、ハンドガン、マシンガン、アサルトライフル、スナイパーライフル、その他諸々の近代的な飛び道具を使用するからに他ならなかった。所謂、初見殺しというやつだ。
明らかに地球に比べて文明が劣っているこの異世界において、銃火器という武器はまさに神器なのであった。
ちなみに先程の、さっきの、森林の一部分が吹き飛んだのは、ボクが吹き飛んだのは、彼女が使用した手榴弾によるものである。
まさか群れるゴブリンを相手に、
「ねえねえ」
「ん?」
「私、いいこと思い付いちゃった」
「何をする気なんでしょう……」
「まあ、見ててっ」
勇者アリスがペンで手帳タイプのメモ用紙に何やら書き込んでいる。
「これでよしっと! さあ! 来なさい!!」
メモ用紙を千切り、天に掲げると、これまた異世界とはミスマッチなワームホールが出現したと思った次の瞬間、ワームホールからコロンッと、彼女の手元にある道具が召喚される。
ワームホールを介して彼女が召喚したのが、手榴弾だった。
「伏せて!」
「え……」
これが物語冒頭の出来事の詳細である。
彼女の力はメモ用紙に召喚したいモノを書き込むことで、ワームホールを出現させ、書き込んだモノを呼び出すことができるというとんでもないスキルだった。
彼女がその気になれば、聖剣や魔剣といった、この異世界において価値のありそうな武器を呼び出すこともできるわけなのだが、何故か彼女は銃火器しか召喚しようとしない。
何故なんだ……。
もっと異世界らしいことしろよ。
「さて、目的は達成できたし、帰りましょうか」
「そうだね、帰ろう。もう帰ろう」
異世界においてオーバースペックな彼女が戦い続ける以上、魔王攻略の日もそう遠くはないのだろう。
おそらくだが、魔王ですらも、初見殺しされるに違いない。
ボクも転生以前、ゲームなどの娯楽を嗜んでいたわけでないため、詳しいファンタジー事情はわからないが、友人たちから聞いた話から察するに、本来、初見殺しをするのは、ボス。つまり魔王側のはずなのだが、この調子だと初見殺しに遭うのは、間違いなく魔王の方なのであった。
きっとこの世界も本来ならば、何でもない武器から冒険を始め、力を鍛え上げ、努力の末に魔王を倒すのが、セオリー。
しかし、だがしかし、ボクの隣を楽しそうに歩くこのアリス・ハイスウォーカーがいる以上、この世界に居続ける以上、セオリーなどないに等しい。
彼女の拳銃によって魔王が倒されるその日が来たとしたら、その日、ボクは一体全体何体、撃ち抜かれた魔王を見て何を思うのだろうか。何を思えばいいのだろうか。