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「はぁ、神父様怒ってるかなぁ…。」


「今日はお客様が来るから皆でご挨拶を。」と神父様に言われたけど、あの言い方は絶対に貴族が来るんだと察した。

だって貴族とは会いたくない。前に貴族のおっさんに、やたら体を触られながら「うちの息子になれ」と言われて以来苦手になってしまったから。

あの時はおっさんが声をかけられた隙に逃げ出せたけど、次も必ず助かる保証はどこにもない。


「そういえば、あのおっさんどうなったんだろう。教会は貴族の寄付で成り立っているから神父様は断れないはずなのに。」


何故養子の申し込みがこなかったのか分からないが、事情を知った神父様からは貴族が来る日は隠れてていいと言われていた。

だからあれ以来は貴族の訪問時は教会の奥に隠れていたというのに。


「ってか神父様が悪いんじゃん。お貴族様とは会わなくていいって言ったのに。なんで皆なんていうんだよ。」


自分がこうして街に抜け出してきたのは仕方ないことだ。

この町だって何度もお遣いで来てるし、危険なとこに来てるわけじゃない。

ちょっとぶらぶらして時間をつぶしてから帰るくらいなら、神父様も許してくれるに違いない。


「おい!!聞いてるのか小僧!」


あぁ、本当に今日は何て運が悪いんだろう。

そりゃ確かに教会孤児の毎日が幸せにあふれてるかって言ったら、微妙だけど。

それでも優しい神父様と仲のいい仲間たちとで上手くやってきた。

街の人たちにも愛想よくしてるし、いい関係は築けてたと思う。

自分の顔の良さは知っていたし、立ち回りも上手いほうだ。

でもやっぱり孤児は家族にはなれないから、こんな時には誰も助けてくれないんだよね。


「小汚ねぇガキがうろうろしてんじゃねーよ!!」


目の前で怒鳴り散らす男の顔は真っ赤でどうやらこの昼間から呑んだくれているらしい。

孤児の中には酒に溺れる親から逃げるように教会に来た子もいて、こういった人間には黙って耐えるしかないんだって言ってた。実際、町に出ると鬱憤を晴らすように暴言を吐かれることは日常茶飯事だし。

だからこそ普段は、こういった人種には近づかないように気を付けてたのに。

考え事しながら歩いていたから飲食街の方まで出てきてしまったみたい。飲食街では孤児は煙たがられる。別に衛生的に汚いわけじゃないけど、イメージってやつらしい。


「なんだその目は!!綺麗な顔しやがって偉そうに!!」


あぁ、これは殴られる。痛いだろうなぁ。勝手に抜け出した罰かなぁ…。

振り上げられた右手に思わずうつむいた。様子をうかがってた町の人が息をのんだのが聞こえた。

その瞬間視界を埋めた銀色を忘れることはないと思う。


「お嬢様!!!」


叫ぶ女性の声にゆっくり顔を上げると、天使みたいな女の子が目の前に立っていて

殴りかかってきた男の右手は何故か左手と水で纏められていた。水…?


「この少年があなたに何をしたというのかしら。罪を犯したというのであれば、憲兵に引き渡すけれど。」


「な!!!魔法?!」


「まぁ単純な拘束だけれど、水だからあなたを傷つけたりもしないわ。ねぇ、落ち着いたかしら。

もう一度聞くけれど、この子があなたに何かしたの?」


少女らしい高い声で淡々と話す天使は恐ろしい大人相手とまともにやりあってた。

むしろ酔っぱらいの方が圧倒されてるくらいだ。

きっと貴族だろうな。魔法使ってたし、ドレス着てるし。

でも、こんな孤児を助けて何になるんだろ。返せるものなんてないし。どうしよう…。

もしかしたら教会がすごい大変なことになったりして…。弁償とか。分かんないけど…。


「ねぇ、あなた。大丈夫?」


「え?」


「あの人はいなくなったわよ。けがはしてないかしら?」


考えてる間に酔っぱらいはどこかに行ってしまったらしい。覗き込んでくる少女は銀色の髪に真っ白な肌で本当に天使みたいだった。


「だ、だいじょうぶです。あの、ぼく…ごめんなさい。お金持ってないです。お菓子でも、いいですか…。」


きょとんとした顔をしたあと、表情の消えた天使を見てまずいことを言ったのかもしれないって思った。

貴族と話すときは気をつけなさいって言われてたのに。

自分にとっては高級品なお菓子だけど、きっと失礼だったのかも。

孤児が食べるものなんて要らないに決まってるじゃないか!!この大馬鹿野郎!!


「ご、ごめんなさい。えっと、一生懸命働きます!!何でもします!だから協会の皆には何もしないで!」


「別にこのくらいで、なにもしないけれど。」


そういって差し出した手から雑に包まれた砂糖菓子を口に運ぶ彼女に侍女さんっぽい人が叫び声をあげてた。

確かに、渡したのは自分だけど怪しい孤児からのお菓子なんてお貴族様は食べちゃいけないよなぁ。


「お嬢様!!!」


「リズ。大丈夫よ。あの神父様の子がわたくしに何かするわけがないわ。それにこれ、美味しいわね」


「ねぇ、お名前は?」


「ジ、ジルです」


「ジル、あなた運がいいわね。わたくし、甘いものには目がないのよ」


今までの無表情が嘘みたいに、にやりと笑った彼女は全然天使っぽくなくて、むしろちょっと悪そうに見えたのに一番輝いてた。

この姿を見るためなら人は何だってすると思う。

少なくともこの日、僕の人生は変わった。神父様に言わなくちゃ。






すぐに走って教会に帰ったころには結局僕の不在はバレていて、神父様にはこってり絞られた。

でもそんなことより大事なことがある。


「神父様。僕くらいの年で銀色の髪の綺麗な、天使みたいなお貴族様って知ってますか。」


「あぁ今日いらっしゃっていたブランシェ様ですね。近い年頃のメイドが欲しいとうちにいらっしゃったんですよ」


「神父様。僕…ジルをやめたいんです。分かっています、ジルでいる必要があったことは。でも…」


「そろそろ隠し通せる年齢ではなくなってきましたしね。その容姿の良さでは問題も多かろうと少年であることを幼いころからあなたに求めてしまっていたのは私の神父としての立場の弱さもあります。グラニエ公爵家であれば、たとえ使用人でもあなたを大事にしてくれるでしょう。もとよりだからこそ今日はあなたを紹介しようと思っていたんですよ。ですが、その役目を勝ち取れるかはあなたの努力次第です。」


「ありがとうございます、神父様。僕、頑張ります」




少年として生きてきた約十年を矯正するのは大変だった。グラニエ家にメイド候補として行った時も数か月は試験期間としてメイドに必要な技能を詰め込まれた。

それでも、あの日見た天使に感謝を伝えるため、天使を傍で支えるためだと思えば苦ではなかった。正直、言葉遣いは今でもちょっと微妙だけど。

礼儀作法、お茶の淹れ方、お嬢様の好み、馬鹿な頭に出来るだけ詰め込んだ。


だからいま、私はここに立てているんだ。


「はじめまして、お嬢様。本日よりお嬢様付きのメイドとなりましたジゼルでございます。」


ぽかんとしているお嬢様も死ぬほど可愛いな。

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