79日目(異世界)
朝食後、イヴォンさんと一緒に魔石販売所まで来ている。
「はい、たしかに受け取りました。
【ヒール】50回分の魔石ですね。
では今日もこちらにMPが切れるまでお願いします」
「はい、わかりました」
僕は115回ほど【ヒール】を補充する。
「……やはり本当だったようですね」
イヴォンさんは腕を組んで何か考え事をしているようだ。
「わかりました。
ところで狭間さん、現在のご自分のステータスはどうですか?」
「えっと?」
どうですか?とはどういう意味だろうか。
「満足していらっしゃいますか?」
「いえ、できればもっと上げたいです」
イヴォンさんはニコリと微笑む。
とても優しい笑み、に見える……
「そうですか、そうですか。
それでは明日から数日間空けておいていただけますかな?」
「はい、それは構いませんが……」
明日からか……
最近は教会以外で仕事をしていないので特に問題はない。
「ふむ……
それからある程度の装備が必要ですねぇ。
明日までにある程度の装備を整えることはできますか?」
「明日までですか!?」
ちょっと厳しい。
手持ちが5万セパタとちょっとだ。
マッスルゴートの装備一式は10万くらい、それからロックアルマジロの盾も3万くらいするんだ。
素材があれば多少安くなるが、それでも足りない。
「厳しいですね……
手持ちのお金と素材、両方足りないです」
「そうですか……
買おうとしているのはどのような装備ですか?」
「マッスルゴート装備を全身一式と、ロックアルマジロの盾です」
「ほほぅ……
子供たちとの狩りで素材が出るものですね。
なるほど、それは効率が良い」
イヴォンさんが顎に手をあてて考え込んでいる。
「今狭間さんは、【ヒール】の魔石を5つ持っていますね?」
「はい、持っています」
なんだろう。
さっきから質問攻めだな。
「その5つの魔石は、ご自分で使用するものではなく、こちらで補充して売買するものですね?」
「はい、そのとおりです。
補充してこちらで空のものと交換しています」
「わかりました。
では、今5つの魔石代10万セペタほどお渡しします。
狭間さんはカルディの知り合いでもあり、信用ができます。
ですので、今持っている5つの魔石はこちらが貸し出しているということにします」
「いいんですか!?」
「問題ありません。
すると装備は買うことができますか?」
「はい、金額的には問題ないと思います」
「では、装備を整えてください。
いや、今すぐ一緒に行きましょう」
「ぇ?
今ですか?」
「はい」
「あの、明日から何をするんですか?」
「あぁ、単純な狩りですよ。
狭間さん、あなたのステータスが高いほうがこの教会としてもありがたいのですからね。
こちらとしてもできる限りご協力させていただきますよ」
「おぉ!
それはありがたいです!」
「そのために今日はいくつか行くところがあります。
ではまず装備を買いに行きましょう」
「わかりました!」
僕はイヴォンさんと装備を買いに行った。
手持ちの素材を渡し、少し安くなったものを買った。
マッスルゴートの全身装備と、ロックアルマジロの盾だ。
どちらも動きやすく、さらに軽い。
ステータス補正は何も無いが、今の僕にとっては充分だと思う。
というより、ステータス補正が付くと装備がバカみたいに高くなるらしい。
そして、小さな片手杖、ステッキも購入した。
おかげでまた所持金が2万セペタを切った。
うっへぇ……
来月までにまた5万貯めなければ……
「では次は役所に行きますよ」
「はぁ……」
今度は役所だ。
何も考えずについて行ってしまっていいのだろうか。
イヴォンさんは信用できる人ってことだけど……
「あの、役所では何を?」
「ポータルの使用許可をもらいます。
領都のアポンミラーノへ常に行き来できるようにしてもらいましょう」
ポータルって転移魔法陣だよな。
トリプルヘッドにやられて目覚めたのが領都アポンミラーノ。
そこからポータルでこの街アインバウムへ戻ってきたんだ。
それからポータルを使うには許可証が必要で、騎士団長から許可証をもらった。
そして、一度ポータルで転移すると許可証は消えてしまった。
常に行き来できるとはどういうことだろうか。
イヴォンさんは役所へ行くと、手続きをしてくれた。
僕のギルドカードに転移先を記録したという。
一度転移先を記録すると、ポータルを自由に使って行き来できるようだ。
「これで狭間さんも領都アポンミラーノとここアインバウムの行き来が自由にできます」
「あの、何のアイテムも無しにいいんですか?」
「はい、もうギルドカードには記録できましたので。
ただし、許可証なしの場合、転移する度にMPを消費しますので、その点は注意してくださいね」
イヴォンさんはニコニコと微笑む。
自由にってすごいな。
それに、こんなに簡単に申請が済んでいいのだろうか。
それとも教会の権力がすごいのだろうか……
「ではこのまま領都へ行きますよ」
「ぇ?」
僕はイヴォンさんに有無も言わさず連れ出される。
さっそくポータルを使って領都へ行く。
MPが少し減った。
さっき使い切ってMPがほとんど無かったけど、今までの自然回復量でまかなえるようだ。
ポータルの使用にはあまりMPを使わないんだな。
「では、今度は領都の役所に行きますよ。
さらに転移できる場所を追加しますね」
「ぁ、ありがとうございます」
とにかく付いていく。
領都は栄えているが、結局見学などしている感じではない。
おぉ、領都の役所はでかいな。
領主様も近くに住んでいるんだろうか。
「さぁ、では参りましょう」
「はい」
「おぉ、これはこれはイヴォン司祭ではございませんか。
本日はどのような用件で?」
「はい、彼の転移先に第三戦線を追加していただきたいのです」
おぉ、イヴォンさんは有名なのか。
アインバウムならわかるが、領都の役所でもすぐに人が挨拶に来る。
「ほぉ……彼が第三戦線ですか……
失礼ですが、危険なのでは?」
ぇ?
何?
危険なの?
「息子を同行させる予定ですので、問題無いでしょう」
「クラールさんですか。
では問題有りませんね。
それでは早速ギルドカードを申請しましょう」
イヴォンさんには息子がいたのか。
クラールさんというらしい。
「ではこれで失礼します。
ありがとうございました」
「ありがとうございました」
僕も挨拶をしておく。
「では狭間さん、帰り道は覚えていますか?」
「はい、それほど離れていませんでしたので」
「私は少し用事がありますので、狭間さんは先にお帰りになっていてください。
それから明日は朝食を早めに用意してもらいますので、それを食べたらすぐに出発できるようにしておいてください」
「わかりました!」
それじゃ自由行動か。
領都を見て回りたいが、今はそれ以上にやりたいことがある。
日本で習得した【ウィンドスマッシュ】だ。
空気の圧縮を繰り返していたら、いつの間にか習得していた魔法だ。
僕はアインバウムへ帰り、街の外へ来た。
手頃な岩があったので、【ウィンドスマッシュ】を撃ってみる。
【ウィンドスマッシュ】!
ゴスッ!
岩から打撃音が聞こえる。
どうやら【ウィンドスマッシュ】は圧縮した空気をぶつける打撃魔法のようだ。
岩には小さなヒビが入っている。
威力はそこまで高くないが、スキルレベルを上げていけば悪くないかもしれない。
なにしろ【風魔法】は肉眼では見えにくい。
魔素に注意しなければ、かわすことが難しいんだ。
おそらく、打撃系魔法だったら【ショットストーン】のほうが威力は上だし、射程も長いだろう。
ただし、見えにくいことを考えると使い勝手は【ウィンドスマッシュ】のほうが良いような気がする。
それから【風魔法】は日本で連発できることが強みだ。
何も形跡が残らないからな。
しかし、明日からの狩りは何をやるんだろうか。
第三戦線とか言ったっけ?
危険とかいう話だったけど……
狭間圏
【聖職者:Lv20】
HP:246/246
MP:2/524【聖職者:+50】
SP:0/99
力:21
耐久:58
俊敏:37【聖職者:-1】
器用:14
魔力:37【聖職者:+40】
神聖:73【聖職者:+50】
【回復魔法:Lv43(↑+1)ヒール:Lv48(↑+1)】
【毒薬生成:Lv6(↑+1) ポーション生成:Lv5(↑+1)】
【etc.(36)】




