33日目(異世界)後編
目が覚めると、そこは木造の建物だった。
道具屋だ。
目の前には、美しく、可愛らしい女性がいる。
フェリアさんだ。
フェリアさんは向かいの椅子に座って本を読んでいる。
本を読む姿が、なんとも知的で様になっている。
僕に気がつくと、目が合う。
「気が付きましたね。
父さんを呼んできます」
そう言うと、フェリアさんは1階へ降りてしまった。
しばらくすると、1階からカルディさんがやってくる。
「やぁ、どうでした?」
「残念ながら、向こうの世界へは行けませんでしたね。
僕はどれくらい寝ていたんですか?」
「2時間くらいです。
もしかしたら、あちらの身体が目覚めないといけないのかもしれませんねぇ」
「はい、多分そうだと思います。
それだと、最初の一ヶ月間、全く向こうへ行けなかったことの説明もできますし」
「MPはどうです?」
「はい、確認してみます」
僕はステータスを開いて、MPを確認する。
MP:4/97
「3しか回復していません」
「なるほど、やはり向こうで目覚めないとMPの回復は無いんですねぇ」
「はい、残念ながらそういうことだと思います。
MPが回復していれば、さらに効率が上がったんですが……」
「いやいや、まぁ今のままで十分でしょう。
それでは、寝起きでMPが低いところ、申し訳ないのですが、庭に来てください。
今日はホーンラビットがもう一匹きていますよ」
あぁ、そうだった。
全部で3匹頼んでいたんだ。
今僕MP無いけど、どうするんだろう。
僕はカルディさんについていき、道具屋の裏庭に出る。
既に角が折られ、手足が縛られたホーンラビットがいる。
いつも手際がよろしいことです。
ホーンラビットは僕たちに気づくと鬼の形相でこちらを睨む。
「ギャァッ!!
シギャァッ!!」
カルディさんは、鉄製の重りのようなものを2つ取り出した。
「あの、僕今MPがありませんが、何をするんでしょう?」
「俊敏を上げてもらいます。
【盗賊】のジョブを得るためには俊敏が必須ですからね」
カチャッ!
カチャッ!
カルディさんは、手慣れた様子で、ホーンラビットに鉄製の足かせと重りを付ける。
「今日は、ホーンラビットの攻撃を避け続けてください」
「ぇ!? ぁ、はい!」
マジか!?
カルディさんが手足の縄を解くと、ホーンラビットは全力で僕に向かってくる。
「シギャァッ!!」
カルディさんには目もくれず、僕の方にのみ向かって来る。
ステータスが弱いからか?
「おわっ!! と」
僕は慌てて身体を反らす。
身体のバランスが崩れたところに、ホーンラビットがさらに突進してくる。
「危なっ!!」
ギリギリでかわす。
突進は意外にも連続で来る。
「連続できますので、身体の重心を意識して、バランスが崩れないように避けてくださいねぇ」
「はい! わかりました!」
10分ほど経過しただろうか。
「……ぜぇぜぇ」
今のところ、攻撃全てを避けることができている。
「……ぜぇぜぇ」
「シギャァッ!!」
コイツのスタミナは何なんだ?
ホーンラビットの勢いは全く衰えない。
対して僕は、スタミナが限界だ。
つ……つらい……
「うわっ!」
なんとか突進をかわす。
ぁ、バランスが……
「シギャァッ!!」
ドスッ!!
ホーンラビットの突進をもろにくらってしまう。
「ゲホッ! ゲホッ!
……ぜぇぜぇ……」
呼吸がやばい。
部活は受験があるから、2年生の終わりに辞めたんだ。
だからスタミナがまるで無い。
やばい、今連続で突進されたら、マジでやばい。
そう思い、ホーンラビットの方を見ると、カルディさんがホーンラビットを押さえつけてくれる。
「今のうちに呼吸を整えてください」
「……はい、ぜぇぜぇ……」
僕は言われた通りに、呼吸を整え、立ち上がる。
「では行きますよ」
カルディさんが、ホーンラビットを押さえていた手を離す。
「シギャァッ!!」
ホーンラビットはすぐさま僕の方へ向かってくる。
これ、絶対僕を狙ってるよな。
◇
それから、休憩を入れつつ、僕はひたすらホーンラビットの攻撃を避け続けた。
マジでつらい。
3時間ぐらいはやっただろうか。
痛みのある部活動だ。
「よし、今日はここまでにしましょう」
カルディさんは、そう言うと、ホーンラビットをわしづかみにして、手足を縛り付ける。
この人、手際がいいけど、それ以上に腕力とかそういうのも凄いな。
カルディさんのステータスで、この世界の大人のアベレージなんだろうか……
「……はい、……ありがとうございました!」
僕は呼吸を整えて、ステータスを確認する。
狭間圏
【――――】
HP:18/27
MP:5/97
SP:2/2
力:8
耐久:5(↑+1)
俊敏:6(↑+2)
器用:5
魔力:6
神聖:3
【魔力操作:Lv2】【炎魔法:Lv1】【風魔法:Lv9 エアカッター:Lv2】
「ありがとうございます!
耐久力1と俊敏2が上がっています!」
「おぉ、上出来ですねぇ」
カルディさんは、ホーンラビットを檻に入れつつ話してくれる。
「明日はまた、魔力の強化からやっていきましょう」
「はい! わかりました!」
僕はヘロヘロになりながら、宿屋へ帰る。
今横になったらそのまま寝てしまうだろう。
その前に、身体を拭いておかなくちゃ。
今日のはかなりきつかった。
こんなにきついことをしても、まだステータスは小学生の領域を越えない。
でも、楽しくて仕方ない。
僕は努力が好きだ。
そして、この世界ではその努力が数字としてあらわれる。
一時は絶望したが、これほど僕に合った世界は無い。
僕は、体を拭いたあと、ベッドに横になる。
【魔力操作】だ。
いつも通り、寝る直前まで【魔力操作】をしておく。
MPと魔力が増えたせいか、いつもよりスムーズに魔力を操作できているような気がする。
そして、そのまま眠りに落ちた。