74日目(異世界)後編
街からやや離れた狩場へ到着した。
以前僕がソロで狩りをした森とは逆方向の高原だ。
見晴らしがよく奇襲を受けにくい場所で、ここが基本の狩場らしい。
「当たりはロックアルマジロとマッスルゴートだ。
残りのスライム、ゲルカメレオン、パラソルフラワーは雑魚で素材もクソだ。
訓練にはちょうどいいがな」
ラルフさんが説明してくれる。
魔物の代表スライムがこんなとこに出るのか。
「では補助をかけていきましょう。
【リヒール】」
ウォルターさんが子供たちに【リヒール】をかけていく。
HPを徐々に回復していく魔法だ。
まだどこにも怪我をしていないが【リヒール】をかけておくことで軽いけがならすぐに治る。
「では僕も」
僕も続いて【プロテクト】と【バイタルエイド】を全員にかけていく。
ちなみにジョブは【薬師】だ。
「おぅ、ほらいたぞ。
お前らいけ」
「「「はい!」」」
彼らは弓を構えると、矢を放ち、その先のスライムに当たる。
すると、周りの魔物たちがこっちに気づいたようで、ぞろぞろと集まってくる。
あのドロドロしたカメレオンがゲルカメレオン、ぷるぷるゼリーのようなのがスライム、大きな傘のような花の魔物がパラソルフラワーだろう。
どれも動きが遅い。
あの中ではゲルカメレオンが一番速いのか、徐々に距離をつめてくる。
が、子供たちが弓で攻撃をし、次々と倒していく。
これノーダメージじゃね?
補助意味なくね?
「よし、奥行くぞ!」
「「「はい!」」」
ラルフさんがそう言うと、子供たちは元気良く返事をする。
高原の奥にも同じ魔物がいる。
奥に入ると若干数が増えるくらいだ。
さっきまでは子供たちが全員弓だったが、比較的年上っぽい子供2人が剣を装備している。
「よしいいぞ、いけ」
「「「はい!」」」
ラルフさんが声を号令をだすと、子供たちが一斉に攻撃を始める。
剣を装備した2人だけが、やや前に出てさらにその前にラルフさんだ。
「では狭間さん、ここからは子供たちの補助を切らさないようにしてください。
特に前衛の2人には常に補助をかけておいてください」
「わかりました」
ウォルターさんが指示を出してくれる。
奥に行くにつれ、魔物の数が増えていく。
そして、弓の殲滅力より魔物の数が増えてくると、ラルフさんが1匹だけを前衛の子供2人に誘導し、残りは瞬殺する。
ラルフさんは両手に一本ずつ短剣にしては長いが、剣としては短いような剣を装備している。
双剣というヤツだろうか。
動きが速く、魔物を瞬殺してしまう。
倒す気になればすぐにこの辺りの魔物を殲滅してしまうだろう。
上手に立ち回って、1匹だけを子供たちに攻撃させている。
僕は一応補助魔法をかけ続けているが、子供たちはほぼ攻撃をくらっていないのであまり意味がない。
なんだろう……
接待狩りだな、これは。
確かにこの狩りの仕方なら、安全かつ効率よくステータスとジョブレベルを上げられるだろう。
しかしステータスとジョブだけが上がっても上手く立ち回れないよな。
まぁ貴族だからいいのかもしれないが……
そして、そういう僕だって補助魔法をちょこちょこかけているだけで、そのほかは何もしていない。
ラルフさんとウォルターさんに全員で寄生しているような感じだ。
今回は狩りの流れを把握する目的もあるからな。
次からは前衛一人と僕一人、残りは子供たちってこともありえるか。
「おい……
止まれ……
マッスルゴートだ」
ラルフさんが声をひそめて言う。
彼が指差した先にはムキムキのヤギがいた。
ちょっと強そうだ。
「俺が突っ込んでぶっ殺してくるから、あとの雑魚はお前らが殺れ」
子供たちは無言でうなずく。
そう言うと、ラルフさんはザッと踏み込み、一瞬で間合いをつめる。
豪快に双剣を振り回し、マッスルゴートに撃ち込んでいる。
ひたすら首から上だけを攻撃しているな。
左右、それから後ろに回り込んでは飛び上がり、首から上だけを攻撃している。
そして、子供たちも弓で攻撃を続けている。
数名攻撃魔法を使っている子供もいる。
「狭間さん、攻撃魔法はあります?」
「はい、少しなら使えます」
僕はウォルターさんに答える。
「では前衛の2人に3匹以上魔物が近づいたら倒してください」
「わかりました」
前衛の子供に3匹目の魔物が近づいていたので、【エアブレード】を撃っておく。
動きが遅いので当てるのは簡単だ。
耐久力もそれほど高くない。
これだったら、【エアブレード】よりもまだスキルの低い【ファイアボール】や【ショットストーン】でも倒せるだろう。
僕はこれを機に、【エアブレード】以外の攻撃魔法を試してみる。
パラソルフラワーとスライムには【ファイアボール】が有効だ。
それからゲルカメレオンには【ショットストーン】。
そして【ウォーターガン】はどの魔物にもあまり効いていないが、【氷結】と【ファイアアロー】はどの魔物にも結構効いている。
でもやっぱり【エアブレード】が僕の攻撃魔法の中では突出して威力がある。
まぁスキルレベルが違うからな。
ほどなくして、ラルフさんがマッスルゴートを仕留めたようだ。
他の魔物もあっさりと殲滅させる。
残った二匹は子供たちが頑張って戦っている。
その様子でラルフさんはさっさとマッスルゴートの解体を始める。
「よし、帰るか」
「ぇ?
もう帰るんですか?」
「えぇ、もうすぐお昼ですからね」
ウォルターさんが笑顔で答えてくれる。
そうか、昼前には帰るんだな。
本当に接待狩りだったな。
というより体育の授業だ。
これで3000セペタももらって良いのだろうか。
「おい、マッスルゴートはだいたい1500くらいで売れるぞ。
一人500だが、どうする?
お前買うか?」
「ぇ?
僕がですか?」
僕が買って店に売りに行けってことかな?
「マッスルゴートの革は軽く丈夫で防具の素材として良いんですよ。
狭間さんが買い取って、加工してもらえばそのまま防具を購入するよりも安くすみますよ?」
「なるほど、そういうことでしたか。
それでしたら是非購入させてください」
あぁ、僕の装備を見て買い替えたほうが良いだろうってね……
その通りです、はい。
「おぅ、じゃぁ帰ったらな」
「ありがとうございます」
今考えると、首から上だけを狙っていたのは素材のためだったのか。
ぶっきら棒だけど優しいなラルフさん。
◇
教会へ帰ると報酬の3000セペタをもらい、ラルフさんとウォルターさんに500ずつ渡す。
それから狩りではいくつかの小さな魔石が出た。
3cmくらいの魔石で200セペタくらいになるらしい。
そして、魔石の販売所へ行き、昨日病室で補充した【ヒール】50回分の料金も手に入れた。
補充分の料金は2500セペタだ。
ただただ病室で【ヒール】を補充するだけで優雅に生活できてしまう……
けれどそんなのはつまらない。
装備も買い替えたいし、できる限りステータスやジョブも強化したい。
今昼でMPもまだまだある。
まだ稼げるが、MPを使って稼ぐと回復量に矛盾が出てしまう。
どうしたものか……
僕のMP回復量を知っているカルディさんに相談してみようか。
◇
「というわけなんです」
「なるほど、なるほど。
確かにMPを乱用するのはあまりよろしく無さそうですね。
とりあえずMPが余っているのでしたら、今日も毒の実を仕入れているので【アンチポイズン】をお願いします」
「おぉ!
そうでした!」
僕は毒の実に片っ端から【アンチポイズン】をかけていく。
「では20個分、1000セペタですね」
「ありがとうございます」
「いえいえ、こちらこそ」
「でも、もう買い手がついたんですか?」
「いいえ、昨日の分はうちで少しずつ消費することにしました。
妻、娘ともに大変に気に入ってしまいまして」
「なるほど、確かに女性の方が好きな味かもしれませんね」
「それでMPはどうです?」
「はい、だいぶ減りましたがまだまだ残っていますね」
「そうですか。
ではしばらく毒の実は買い足しておきましょう。
今日はそうですね……
【土魔法】の【創造】でお皿やカップを作っていただきましょうか。
それほど高くはありませんが、買い取りますよ」
「おぉ、ありがとうございます」
「できるだけ細かい装飾をつけるように心がけてください。
そのほうがスキルレベルが上がると思います。
それから離れた場所に作ろうとすれば【魔力操作】の向上にも繋がりますよ」
「なるほど、ありがとうございます!」
やっぱりカルディさんは凄いな。
何でも知っている。
それから皿とカップ、花瓶などを作りまくった。
お陰でMPをほぼ消費することができた。
「ではそれら全てで300セペタで買い取ります」
「おぉ!
ありがとうございます!」
「そうですね。
【創造】のスキルが上がってくれば、ガラス製品が作れるそうです。
そうなればもっと高価格で買い取ることができます。
頑張ってくださいね」
「はい!」
ガラス製品か。
教会でガラスが使われていたけれど、【土魔法】からできていたのかもしれないな。
「それから、午前中は【薬師】で狩りに参加したのですね?」
「はい、狩りと言ってもただ付いて行って【補助魔法】を使っていただけですが……」
「ではステータスを確認してみてください」
「はい」
僕はステータスを確認する。
おぉ!
【薬師:Lv6】になっている。
【毒薬生成:Lv0(New)】も習得したようだ。
「新しいスキルはでていませんか?」
「【毒薬生成】が出ています」
「おぉ……【ポーション生成】よりも先に【毒薬生成】が出たんですね……」
「はい」
微妙なリアクションだな。
【毒薬生成】よりも【ポーション生成】のほうが有用なんだろうか。
「あぁ……そうですね。
【毒薬生成】には、毒草か毒の実が必要なんです。
毒の実は先程使い切ってしまいましたので、毒草で試してみましょう」
カルディさんは奥の部屋へ行き、30cmくらいある袋を持ってきた。
「50枚くらいでしょうね。
ではこの毒草に【毒薬生成】を使ってみてください。
こちらの小瓶を意識してくださいね」
「はい、やってみます。
【毒薬生成】!」
僕がそう言うと、1枚の毒草がふわっと消え小瓶に紫色の液体が少しだけ溜まる。
「成功ですね。
50枚で小瓶1つくらいの毒薬が生成されると思いますので、残りも同様にやってみましょう」
「はい、【毒薬生成】!」
それから10回くらい【毒薬生成】を使った。
「すみません、SPが切れました」
小瓶の20%くらいしか毒薬ができていない。
【薬師】のスキルはMPではなくSPを消費するので、僕はそれほど使うことができないな。
それから【薬師】のスキルを使うってことは【ストレージ】の強化ができなくなるってことだ。
ん〜……
ちょっと微妙だな。
「ありがとうございます。
こちらはまた狭間さんのSPが回復したらやってもらいましょう」
「でも、カルディさんも【薬師】のジョブをお持ちなんですよね?」
「えぇ、でも【薬師】の【ポーション生成】や【毒薬生成】ではSPを消費できないんです。
前に少しお話した【錬金術師】は知っていますか?」
「はい、教会の魔石は【錬金術師】が加工しているんですよね?」
「そうですね。
私も【錬金術師】のジョブを持っています。
そして【錬金術師】のスキルも【薬師】と同じくMPではなくSP消費になります」
「なるほど……」
「今この街で【錬金術師】は私しかいません。
ですから魔石の加工は私が教会でやっているんですよ」
「おぉ!
カルディさんだけなんですね」
「えぇ、ですから最近【薬師】の【ポーション生成】や【毒薬生成】ができていません。
ですので狭間さん、SPが回復したらまたうちでスキルを使ってください」
「はい!
もちろんです!」
「それから、もう少し【薬師】を上げれば【ポーション生成】が出ると思いますので、狩りのときはできるだけ【薬師】でお願いします」
「そうですね。了解しました」
装備を買い替えるまでは、この生活が続きそうだな。
狭間圏
【薬師:Lv6(↑+6)】
HP:246/246
MP:4/464
SP:4/83(↑+4)【薬師:+62】
力:21【薬師:−15】
耐久:58【薬師:−15】
俊敏:37【薬師:−15】
器用:14【薬師:−15】
魔力:32(↑+1)
神聖:72(↑+1)
【魔力操作:Lv43(↑+1)】
【炎魔法:Lv35 ファイアボール:Lv2(↑+1) ファイアアロー:Lv1(↑+1)】
【水魔法:Lv32 ウォーターガン:Lv1(↑+1) 氷結:Lv1(↑+1)】
【土魔法:Lv25(↑+1) 創造:Lv14(↑+2) ショットストーン:Lv1(↑+1)】
【風魔法:Lv30 エアブレード:Lv9】
【回復魔法:Lv37 アンチポイズン:Lv11(↑+1)】
【補助魔法:Lv25(↑+1) プロテクト:Lv51(↑+1) バイタルエイド:Lv51(↑+1)】
【毒薬生成:Lv1(New ↑+1)】
【etc.(20)】




