73日目(異世界)後編
僕は街から少し離れた狩場へやってきた。
とりあえず動く魔物ではなく、森のやや大きめな木に向かってやってみよう。
【フレアバースト】は火属性の打撃っぽかったな。
僕は木の前で腰を落として構える。
これでいけるか?
「【フレアバースト】!」
右の拳を思い切り突き出す。
ドスンッ!
大きな穴が空き、そこから炎が舞い上がる。
メキメキメキッ!
ドスーンッ!
木が倒れる。
すげぇ!
大木を折ってしまった。
!!
右手に痛みが走る。
なっ!
右手は黒ずみ、さらに腕が変な方向に曲がっている。
ちょっ!
僕は慌てて【ヒール】を重ねる。
大ダメージだ。
火傷に骨折って……
回復しきるまで右手が使い物にならない。
ダメだ……
実戦では使い物にならないだろう。
耐久を上げれば解決する問題なのだろうか。
しばらく回復を続け、全快させた。
大怪我だったので結構なMPを消費してしまった。
よし!
気を取り直して、【狂乱の舞】だ。
ちょっと嫌な予感がするが……
僕は大木を前に、姿勢を低く、低くする。
木製の片手剣を背中の方まで持ってくる。
こんな感じだったよな?
「【狂乱の舞】!」
ダッ!
僕は片足を踏み出し、突進、回転と同時に片手剣を木に叩き込む。
バキッ!
よし、このまま逆回転を……
ん?
反動で回ろうとするが上手くいかない。
!!
右腕に激痛が走る。
クソッ!
やっぱりか!
右腕の肘が変な方向に曲がっている上に、肩から先がだらんと垂れて力が入らない。
というよりすげぇ痛い。
僕は【ヒール】を重ねて撃つ。
いってぇ〜……
火傷は無いが、それでも【狂乱の舞】のほうがダメージが大きい。
もしかしたら【炎耐性】のおかげかもしれない。
僕は木の方を見てみる。
凄いな。
木製の剣を叩き込んだだけなのに、大木が大きく削れている。
倒れる程ではないが、金属製の剣にすれば威力が大きく上がるだろう。
そして、木製の剣はというと、お陀仏だ。
3000セペタが消えてしまった。
クソー……
【狂乱の舞】は当分使えないな。
ダメージがある上に、武器が壊れてしまう。
【フレアバースト】のほうは、耐久やHP、【炎耐性】の強化に使えるかもしれない。
だけど、すげぇ痛い……
自分の回復にMPを使いすぎると、お金を稼ぐほうに支障がでてしまうだろうな。
迷うところだ。
まだMPがあるので、教会へ行ってみるか……
教会は何度か通りかかったことがある。
相変わらずでかい建物だ。
天井が高い。
中に入ると、大きな礼拝堂がある。
窓はステンドグラスで、外からの光が神秘的だ。
この世界はガラスの技術は進んでいるように思える。
どこに行ったらいいかわからないな。
僕はキョロキョロとしながら奥へ進む。
「初めての方ですかな?」
白い法衣をまとった初老の男性に声をかけられる。
ここの職員の方だろうか。
同じく白色の帽子と法衣を着ているので、聖職者っぽいがなんかデカイな。
肩幅もかなりある。
戦っても強そうだ。
「はい、ここで働きたいのですが」
「おや?
もしかして狭間さんですか?」
「はい、狭間です」
僕がどうして知っているんだろうと思っていると説明してくれる。
「あぁ、ギルドのドグバさんから連絡は受けていますよ。
私はここの司祭、イヴォンです。
奥へ行きましょう。
シスター、こちらのことは頼みます」
「はい、承知しました」
シスターと呼ばれた女性は20代だろうか。
僕よりやや年上だろう。
落ち着いた大人の女性の雰囲気。
水色の髪に大きな瞳だ。
神聖な教会にピッタリの美人である。
僕はイヴォンさんの後をついていく。
礼拝堂から右に渡り廊下を進む。
ステンドグラスがいたるところにあり、廊下も神秘的だ。
なんだかお金がかかってそうだな。
奥の部屋に通される。
「お座りください」
「はい、ありがとうございます」
「では改めて。
私はこの教会の司祭、イヴォンです。
よろしくお願いします」
「狭間圏です。
よろしくお願いします。
あの、これギルドカードです」
僕はギルドカードを見せる。
「どれどれ、失礼しますね……」
イヴォンさんはギルドカードを見ている。
ちなみに今の僕のステータス表示はこんな感じだ。
狭間圏
【聖職者】
HP:D
MP:A
SP:F
力:F
耐久:E
俊敏:F
器用:F
魔力:E
神聖:D
「ほぉ……その若さでMPはかなり高いですね。
【回復魔法】や【補助魔法】はどの程度使えますか?」
僕は現在覚えている【回復魔法】と【補助魔法】、スキルレベルについて説明した。
しかし【回復魔法】だけでなく、【補助魔法】も必要とされるんだろうか。
治療所では【補助魔法】は必要なかったけど……
「おぉ、それは充分ですね。
【エリアヒール】は非常に重宝されます。
今教会に【エリアヒール】の魔石は一つしかありませんが、狭間さんが来てくださるなら追加で購入しておく必要がありますね」
「そうなんですか?」
「そうですね、今MPはありますか?」
「はい、今日はまだ残っています」
「そうですか。
わかりました。
まずは、教会の中を案内します。
それから実際に魔石を使ってみましょう。
そのときに詳しく説明します」
「はい、お願いします」
イヴォンさんは部屋を出て案内してくれる。
「先程の部屋は応接室です。
礼拝堂の先に、治療室があります。
こちらです」
礼拝堂に戻り、そのまま先へ進む。
教会の入り口から見ると、右が応接室、左が治療室のようだ。
教会の治療室にはベッドが複数置いてあるだけで誰もいない。
「今は誰もいませんね。
ほとんどの方は、ギルドの治療所で回復をします。
私達が治療するのは、重傷者です。
自ら立つこともできないほどの重傷者のために、ここにベットが用意されています」
「なるほど……」
そうなのか。
じゃあ治療でお金を稼ぐことはあまり無いってことかな。
「では次にこちらを案内しますね」
再び礼拝堂へ戻る。
今度は入り口から見て礼拝堂の奥だ。
おぉ!
お店じゃんか。
宝石店のようだ。
カウンターがあり、ガラスケースに様々な宝石が並べられている。
中には貴族だろうか。
何人か買い物に来ているようだ。
「こちらが魔石の販売や魔力の補充を行う場所です。
狭間さんには主にこちらで仕事をしてもらうことになるでしょう」
「このきれいな宝石が魔石なんですか?」
僕が拾った魔石は灰色の小さなものだった。
こんなに色鮮やかじゃなかったな。
「そうです。
【錬金術師】によって加工された魔石には、その効果によって色が付きます。
さらにそこにMPを消費し魔力を入れれば、あのように輝くわけですね。
美しいでしょう?」
「はい……とても」
「女性へのプレゼントとしても人気なんですよ」
「それは納得ですね」
プレゼントか。
凄く高いんだろうな……
「では、こちらに来てください」
「はい」
さらに奥の部屋に入る。
部屋には棚がいくつもあり、そこに細長い箱がいくつも並んでいる。
「えぇっと……
これですね」
ガタッ!
イヴォンさんは1つの箱をテーブルに置くと中を開いてくれた。
中には縦10cmくらいの八面体の石が入っていた。
暗い緑色をした魔石だ。
「では、これに【エリアヒール】を使ってみてください」
「わかりました。
【エリアヒール】」
おぉ!
発動したぞ。
普通【回復魔法】は怪我人にしか発動しないはずだ。
魔石にも発動するんだ。
すると、魔石が若干の光を帯びてやや明るい緑色になる。
「何度もやってみてください。
確かこの魔石は10回分くらい入るはずです」
「わかりました。
【エリアヒール】」
それから僕は10回ほど【エリアヒール】を発動させる。
結構なMP消費だ。
「狭間さんには、今やってもらったように魔法を魔石に補充してもらいます。
魔法を補充された魔石は、その回数分だけ使うことができます。
貴族や冒険者は、こちらで魔石を購入し、ある程度使ったらまた魔法を補充に来ます。
今この教会には【エリアヒール】の魔石は一つしかありませんが、狭間さんが来てくれるならいくつか買い足す必要がありますね」
「なるほど、そういうことですか」
「それから一番需要があるのが【ヒール】です。
最も安価ですからね。
魔石自体もそこまで高くないですし、補充の料金もそれほどではありません」
「ちなみにどれくらいするんですか?」
「2万セペタ〜くらいですね。
使用回数によって値段が変わります」
おぉ、安くてそれか。
ギリギリ買えるな。
1つ買っておいても良さそうだ。
「狭間さん、まだMPはありますか?」
「はい、もう少しだけ残っています」
「それは素晴らしいですね。
ではこちらもお願いします。
こちらには【プロテクト】を補充してください」
「はいわかりました」
なるほど。
【補助魔法】が必要だったのはこういうことか。
今度は5cmくらいの黒みがかった黄色の魔石に【プロテクト】を入れていく。
20回分くらい入っただろうか。
魔石が明るい黄色に輝いている。
ちなみに【回復魔法】が緑で、【補助魔法】が黄色だそうだ。
そして、【アンチポイズン】などの状態回復、【バイタルエイド】と【マナエイド】はあまり需要が無いらしい。
「限界まで補充されたようですね。
まだ【ヒール】の魔石がいくつかありますが、MPはどうでしょうか?」
「もうほとんどありません。
また明日でも良いでしょうか?」
「はいもちろん。
では応接室に参りましょう」
その後応接室で報酬について話してくれる。
「今日の報酬です」
ゴトッ!
袋に入ったお金を渡される。
これ結構あるよな……
「【エリアヒール】10回分3000セペタと【プロテクト】20回分600セペタです。
合わせて3600セペタになります」
「えぇ!
そんなにいただけるんですか!?」
「はい。
できれば次は【ヒール】をお願いしたいですね。
それから【ハイヒール】も習得を目指して頑張ってください」
「ありがとうございます!
頑張ります!」
「そうでした。
1つ残念な注意事項があります」
「なんでしょう?」
魔法を補充するだけの簡単なお仕事だもんな。
なんか悪いこともあるんだろうか。
「魔石に魔法を補充しても、MP以外のステータスはあがりません。
スキルレベルはあがりますが、神聖、魔力は人や魔物相手に魔法を使わないと上がることはありません」
「なるほど、了解です」
あぁ〜……
それは残念だな……
まぁ仕方ないか。
充分な条件だよな。
「すみません、【ヒール】の魔石を購入することはできますか?」
「もちろんできますよ。
10回が2万、20回が5万、30回が10万、50回が25万、100回が70万セペタになります」
今手持ちが16万セペタだ。
どうしようか。
いや、その前に確認だな。
「例えば、僕がいくつか購入して、【ヒール】を補充してこちらで買い取っていただくことは可能ですか?」
「えぇ、もちろん可能です。
その場合でも、直接補充していただいた料金と同じだけお支払いしますよ」
よし!
完璧だ!
「では、10回のものを7個ください」
「わかりました。
14万セペタいただきましょう」
僕は7つの魔石を受け取る。
「それから狭間さん、現在のお住まいはどちらになります?」
「ダイオンさんの宿屋に泊まっています」
「それはよろしくありませんねぇ。
魔石のような高価なものを持ったまま宿屋暮らしはアインバウムと言えども危険です。
どうでしょう。
教会の宿舎に住まわれては?」
「おぉ!
是非お願いします」
「ここは魔石も扱っていますから、特殊な結界が張り巡らされています。
魔石の盗難を防ぐのはもちろんですが、身の安全も保証しますよ」
「ありがとうございます」
「では、30日間で5万セペタになります」
「ぁ……すみません。
やっぱり魔石の購入は5個に変えてもらってもいいですか?」
所持金がほぼ0になった。
狭間圏
【聖職者:Lv18】
HP:246/246(↑+2)
MP:2/462【聖職者:+48】
SP:0/79(↑+2)
力:21
耐久:58(↑+1)
俊敏:37【聖職者:−2】
器用:14
魔力:31【聖職者:+38】
神聖:71【聖職者:+48】
【ストレージ:Lv17(↑+1)】
【回復魔法:Lv36(↑+1) ヒール:Lv38(↑+1) アンチポイズン:Lv10(↑+1) エリアヒール:Lv5(↑+1)】
【補助魔法:Lv23(↑+1) プロテクト:Lv49】
【炎耐性:Lv9(↑+1)】
【狂乱の舞:Lv0】
【フレアバースト:Lv0】
【etc.(28)】




