57日目(異世界)
「やれやれ、今日から荷物は自分でもたなきゃな」
オルランドさんが言う。
今日から僕は荷物が普通の量だ。
「狭間くんが【ストレージ】を習得したからな。
めでたいことだろ」
「さっさとダブルヘッドを仕留めて祝杯したいぜ」
「結局酒が重いんだろ?」
「お酒って【ストレージ】には入れないんですか?」
「入れないな。
【ストレージ】ってのは、魔石を使ったアイテムやポーションを入れるのが一般的だ。
発動させればすぐに取り出せるからな。
緊急性の高いアイテムを入れるのが普通だろ。
まぁ俺の場合は、矢も入れてるけどな」
カーシーさんが説明してくれる。
なるほど。
ぁ、そういえば昨日病室で水を入れておいたんだ。
【ストレージ】を発動させてみる。
あれ?
中の水が若干減っているな。
「そういえば、【ストレージ】はスキルレベルが低いと食べ物とかは普通に腐るんですよね?」
「そうだな。
スキルレベルが上がると、保存期間も上がっていくって感じだ」
おそらく、密閉率も上がっていくということだろう。
食べ物が腐敗するということは、外気で腐っていくってことだと思う。
そうすると、水もおそらく蒸発してしまったんだ。
ってことは食べ物を入れておいても匂いがだだ漏れでは?
「【ストレージ】に食べ物を入れておいた場合、匂いってどうなるんですか?」
「【ストレージ】のものの匂いはしないな。
まぁ普通【ストレージ】に食べ物なんて入れないがな」
蒸発はするし、腐るけど、それが外に漏れているわけではないのか。
蒸発した成分はどこへ行ってしまうんだろうか。
まぁ考えてもわからないけど。
そして、日本で【ストレージ】に入れた水を普通に取り出せることもできた。
よし!
これで身体が動くようになれば、アイテムを往復させることができる。
カルディさんに文房具を持っていくこともできるな。
「よし、そろそろ準備はできたな?
今日は合流地点まで一気に進むぞ」
僕は【ストレージ】を習得したので、ジョブを【見習い聖職者】にして進む。
◇
魔物の割合がまた変わってきた。
ポイズンフラワーとビッグアントがほとんど出てこない。
シングルヘッドばかり出てくる。
「【円月斬】!」
「【旋風撃ち】!」
「【爆豪斬】!」
ラウールさん、カーシーさん、オルランドさんも惜しげもなくスキルを使いまくる。
「チッ!
これじゃきりがないな。
【濁流槍】!」
おぉ!
すげぇ!
ショーンさんがスキルを使いだした。
まさに槍の濁流だ。
広範囲、特に前面の奥に向かって、流れるように槍が突き出される。
今のだけで3体のシングルヘッドを仕留めたようだ。
今までショーンさんのスキルは【ストレージ】しか見たことがない。
それも、最大SPを上げるために【ストレージ】を使っていたようだ。
「うおぉぉぉ!」
ノーツさんの【咆哮】だ。
魔物の攻撃が一気にノーツさんへいく。
僕はノーツさんに【ヒール】を重ね撃ちしていく。
さすがにこの数だと、ダメージを受けることが多くなってきたようだ。
一通り殲滅して、素材を集める。
「はぁ……はぁ……」
「お疲れ……」
みんな呼吸を整えている。
ショーンさんだけは、たいして呼吸が乱れていない。
その間に一通り回復をしておこう。
「おい、狭間くん、ちょっと待ってくれ」
「はい」
「盾は全員こっちに来てくれ。
それとダメージがある前衛も来てくれ」
各街の冒険者たちが集まる。
「【エリアヒール】頼む」
「はい、わかりました」
あぁ、そういうことか。
一旦殲滅したあとなら、ゆっくり回復できるから、一箇所に集まって【エリアヒール】のほうが効率がいいんだ。
僕は【エリアヒール】を撃ってみる。
「全快したヤツから入れ替わってくれ」
「おぅよ」
おぉ、凄いなこれ。
一回の【エリアヒール】で5,6人は回復できる。
まだ範囲が狭いけど、スキルレベルが上がると、範囲、回復量ともに上がっていくらしい。
「よし、これくらいでいいだろう。
あとは他のパーティの回復職に単体回復をしてもらう。
狭間くんはMPを温存しておいてくれ」
「はい、わかりました」
◇
さらに奥へ進むと、魔物が完全にシングルヘッドのみになった。
「よし、そろそろ休憩を入れよう」
「だな。
これ以上一気に進むのはまずい。
一回SPを回復させよう」
森の少しひらけたところで休憩を入れる。
前衛職の人たちがきつそうだ。
回復職はそれほどダメージもないので疲れはそこまででもない。
MPもまだそれなりに残っているしな。
「各パーティの回復職は来てくれ」
「はい」
僕は呼ばれた方へ向かう。
ノーツさんもいるな。
回復職は僕を含めて4人だけだ。
「MPが半分を切っているヤツはいるか?」
「俺は半分切ったぞ」
「私も」
4人中2人はMPを半分切ってしまったらしい。
「騎士団と合流してからが本番だからな。
その2人は今日はできるだけ回復は使わないでくれ。
あとの2人、1人は戦闘中の回復を頼む。
それから、お前は確か【エリアヒール】が使えたな?」
「はい」
「お前は、戦闘後にのみ【エリアヒール】でMPを温存しておいてくれ」
「わかりました」
そうすると、戦闘中の回復は一人だけか。
結構きつそうだな。
僕の場合は、MPが半分以下になっても明日には全快しているから使っても大丈夫そうだけど……
◇
しばらく休んだあと、さらに奥へ進む。
シングルヘッドが次々に出てくる。
「ここを乗り切れば、合流地点だ。
気張っていくぞ!」
「おぉ!」
前衛の皆さんががんばってくれているお陰で【見習い聖職者】の上がりが尋常ではない。
ただし、戦闘中にやることもない。
ただ盾を構えているだけだ。
おぉ!
「ウガァ!」
1体のシングルヘッドがこっちへ来た。
前衛がさばききれなかったヤツだ。
僕は率先して前に出て、盾を構える。
【ガード】!
ガギンッ!
「くっ!」
【ガード】の上からでも少しダメージがある。
「【三連撃ち】!」
カーシーさんが弓技で仕留めてくれる。
シングルヘッドの攻撃は強力だが、【ガード】でしのげない程ではないな。
その後も何体か前衛のさばききれなかったシングルヘッドがやってきたが、【ガード】で凌ぐことができた。
他の回復職の人も、盾を持ってはいるが極力攻撃はくらいたくないようだ。
といういうことで、回復職のなかでは僕が先頭で盾を使う。
安全とまではいかないが、それほど危険はない状態だ。
盾で攻撃を少しの間凌いでいれば、パーティの誰かが仕留めてくれる。
できる限り盾スキルを上げておこう。
◇
結局中央の広場、合流地点についたのは日が暮れてからだった。
騎士団の人たちは既に到着しており、野営の準備も終わっていた。
僕も野営の準備をして、ショーンさんのところへ行く。
「あぁ、さすがに今日は無しな。
お前もMPを完全に回復させておけよ」
「あぁ〜……
さすがにそうですよね……」
「ダブルヘッドってのは結構強いらしいからな。
万全の状態にしておこうぜ」
「わかりました」
僕は渋々今日の訓練を諦めた。
残ったMPをどうしようかと考えながら毒の実を食べる。
……あれ?
ちょっと甘い?
気のせいだろうか。
毒の実にほんのりだが甘みを感じる。
少し前から毒の味、あの苦味と渋みがやや軽減されているような気がしていた。
【毒耐性】の影響だろうか。
あのクソマズイ味は毒特有の効果だったのだろうか。
もしかして……
【アンチポイズン】!
僕は毒の実に【アンチポイズン】を使ってみる。
黒紫色の毒々しい色がやや薄くなり赤みがかってくる。
しかもMPが減り、きちんと発動している。
回復魔法は対象が全快だったり、毒状態でなければ発動しない。
これは毒の実の毒が抜けてるってことだろ。
もう一度だ。
【アンチポイズン】!
もう一度。
【アンチポイズン】!
毒の実が鮮やかな赤に変わる。
試しに一口食べてみる。
甘っ!
てかすげぇ美味い。
こっちに来てから甘いものなどほとんど食べていない。
いや、めちゃくちゃうまい。
その後僕は毒抜きの毒の実に夢中になり、MPを【アンチポイズン】で使い切った。
狭間圏
【見習い聖職者:Lv25(↑+14)】
HP:150/150
MP:1/421(↑+1)【見習い聖職者:+35】
SP:1/23(↑+1)
力:21【見習い聖職者:0】
耐久:32【見習い聖職者:0】
俊敏:35【見習い聖職者:−5】
器用:14
魔力:26(↑+1)【見習い聖職者:+30】
神聖:54(↑+2)【見習い聖職者:+35】
【回復魔法:Lv23(↑+1)ヒール:Lv23(↑+1) アンチポイズン:Lv3(↑+2) エリアヒール:Lv2(↑+2)】
【盾:Lv9(↑+1) ガード:Lv5(↑+1)】
【毒耐性:Lv11(↑+1)】
【ストレージ:Lv1(↑+1)】
【etc.(15)】




