32日目(異世界)後編
夕方になり、ギルドへ向かう。
既にカルディさんが受付にいた。
「やぁ、1匹あるみたいですよ」
「ギルドの檻に1匹入れといたぜ」
「ありがとうございます」
「残りの2匹は、明日の昼くらいにはくるんじゃねぇか?」
「では、また明日も来ますね」
カルディさんと外へ出る。
入り口横に台車があり、その上に檻が乗っている。
中にはでかいうさぎ、ホーンラビットがいる。
捕獲されて、しょんぼりしているようにも見えるな。
台車を引いて道具屋へ着くと、カルディさんが、ナタを持って檻を開ける。
手慣れた様子で、ホーンラビットの角を持ち、ナタを振りかぶる。
「フンッ!」
バキッ!
ホーンラビットの角が見事に折れる。
そして、カルディさんは暴れるホーンラビットを押さえつけながら手足を縛る。
道具屋とは思えないほど、素晴らしい手際だ。
「素晴らしい手際ですね」
「子供が10歳くらいまでは、親がこうやって仕留めやすいようにするんですよ」
うーん……
やはり僕のステータスは10歳以下なのね……
「だからどこの家庭もこれくらいはできますよ。
さぁ、【エアカッター】を撃ち込んでください」
「はい!【エアカッター】!!」
パシュッ!!
「シギャァ!!」
ホーンラビットがうめき声を上げ、小さな傷ができる。
怒りの形相でこちらを見ている。
ちょっと怖いな……
そして、魔法の威力は相変わらずのしょぼさだ……
「そうです、そのままMPが枯れるまで撃ち込みましょう」
「わかりました! 【エアカッター】! 【エアカッター】! 【エアカッター】!……」
僕はそのまま28発連続で撃ち込んだ。
なんだろう……
動物を虐待しているようだ……
しかも、MPの使いすぎだろうか。
とにかく気だるい。
身体はなんとも無いのに、50mダッシュを何度もやらされたような不思議な感覚だ。
「……MP切れです」
「よし、ステータスを見てみましょう」
狭間圏
【ーーーーー】
HP:23/27
MP:1/57
SP:2/2
力:7
耐久:4
俊敏:4
器用:5
魔力:4(↑+1)
神聖:3
【魔力操作:Lv2】【炎魔法:Lv1】【風魔法:Lv5 エアカッター:Lv1(↑+1)】
「上がってます! 上がってますよ!
魔力と、【エアカッター】が1ずつ上がってます!」
「おめでとうございます。
では、こちらを使ってください」
カルディさんから小さな短剣を渡される。
「えっと?」
「今からホーンラビットを解放します。
この短剣で、自分の力で倒してください。
大丈夫です。角は折っていますし、【エアカッター】で既に瀕死です」
「ぇ?」
「ではいきますよ!」
そう言うと、カルディさんはホーンラビットを縛っていた縄を解き、僕の方へ放つ。
「シギャァッ!!」
散々魔法を撃ち込まれて、ブチ切れているようだ。
真っ直ぐにこちらへ突進してくる。
やばい!
ドスッ!
とっさに身体を反らしたが、軽くふっとばされてしまう。
「ちょっ!!」
いってぇ〜……
今のは角が残っていたら、結構やばいんじゃないだろうか。
慌てて、構える。
「シギャァッ! ギャァッ!!」
まだ突進してくる。
瀕死じゃなかったんだろうか。
ドッスン!
僕の構えなど気にせずに、突進してくる。
僕は、構えたままふっとばされる。
「ゲホッ! ゲホッ!」
お腹に入った。
猛烈に痛い……
「ホーンラビットの攻撃は単調です。
突進に合わせて、短剣を突き出してください」
「は、はい!」
カルディさんがアドバイスをくれる。
せめて、魔物と戦うなら前もって言ってほしかったんだけど……
「シギャァッ!!」
三度目の突進だ。
確かにコイツは突進しかしてこないな。
僕は短剣を前に突き構える。
50cmのうさぎだ。
でかい……
怖い……
ホーンラビットは、僕の剣を無視して突進をしてくる。
ビシャッ!!
ホーンラビットが短剣に突き刺さると同時に、踏ん張りが効かない僕はふっ飛ばされる。
短剣が刺さったホーンラビットがそのまま、吹っ飛んでいく。
「うぅ……」
構えた短剣に、おもいっきり質量がかかった感じだ。
手がしびれる。
僕はしびれた手をついて、吹っ飛んでいった方を確認する。
ホーンラビットが短剣に刺さったままピクピクしている。
流石にもう死ぬだろう。
「やりましたね」
カルディさんが笑顔で拍手をくれる。
「なんとか……しかし、不細工な勝ち方でしたね……」
「いえいえ、初めてにしては上出来です」
「この世界じゃ、12歳くらいの子があれを倒すんですよね?」
「えぇ、ホーンラビットでしたら訓練で10歳未満の子でも戦うことがあります」
うげぇ……
小学生ですか……
「ステータスはどうです?」
「あぁ、そうでした」
僕はステータスを確認する。
狭間圏
【――――】
HP:20/27
MP:1/57
SP:2/2
力:8(↑+1)
耐久:4
俊敏:4
器用:5
魔力:4
神聖:3
【魔力操作:Lv2】【炎魔法:Lv1】【風魔法:Lv5 エアカッター:Lv1】
「おぉ! 力が1上がっています!」
「おめでとうございます」
「【盗賊】のジョブを得るためには、魔力以外のステータスが必要ですからね。
明日もこんな感じでステータス強化をしていきましょう」
「なるほど、わかりました」
ジョブというのは、僕のステータスの
【――――】
の部分だ。
僕はステータスが低すぎて、何一つジョブを得てない。
ステータスが上がっていくと、セットできるジョブができるようだ。
僕はカルディさんにお礼を言って、宿屋へ帰る。
既にヘロヘロだが、寝るまで【魔力操作】の訓練が待っている。
僕は部屋につくと、身体を拭いて横になる。
ちなみに、この宿屋には風呂はない。
基本的に庶民の家には風呂がないので、身体を拭くだけだ。
しかし、今日は疲れたな……
おかげでステータスが3つも上がった。
僕は魔力操作をしながら眠りについた。