55日目(異世界)前編
野営は初めてだったが、意外とよく寝られたようだ。
身体も全く問題ない。
こんなゴツゴツした地面でよく熟睡できたな……
最低限の身支度を整える。
こういうときは【水魔法】が一番便利だ。
手から水が出るので、そのまま顔を洗うことができる。
「おはよう、早いな」
「おはようございます。
ノーツさんこそ早いですね」
「まぁな、俺はいつもこの時間だ。
集合は昼だからゆっくりでいいぞ」
「水、使います?」
「あぁ、MPはいいのか?」
「はい、昨日の分は全快してます」
「ありがとう、ではいただこう」
僕はノーツさんの木製の水筒に水を入れていく。
「あの、よければノーツさんのスキルについてうかがってもいいですか?」
「ん?
あぁ、構わんよ」
「昨日は盾で毒や魔物をふっ飛ばしてましたよね?
あれもスキルですか?」
「あぁ、あれは【シールドバッシュ】だ。
【盾戦士】の基本だな」
「魔物はわかるんですが、霧状の毒までふっ飛ばしてましたよね」
「それはスキルレベルの関係だろう。
ある程度スキルレベルが高くなるとタイミングさえ合えば、なんでも吹き飛ばせるぞ」
「流石に魔法とかは無理ですよね?」
「確かに、魔法は無理だな。
ただ上位の盾スキルになると、対魔法もいけるらしい」
「魔法も防げたら無敵ですね」
「まぁな、まだまだ俺もベテランには勝てんさ」
僕も一応【盾】のスキルレベルはあるが、盾スキルそのものはまだ無いな。
【シールドバッシュ】が使えれば、戦いの幅が広がりそうだ。
のんびりしていると、他のパーティメンバーも起きてきた。
「昼までどうする?
少し狩るか?」
「そうだな、軽くいこう。
狭間くんもそれでいいか?」
「はい、ぜひ行きたいです」
「よし、じゃぁ荷物をまとめたらすぐに出るぞ」
◇
そして、まとめた荷物は今日も僕が一人で背負う。
昨日と同じ場所で狩りをする。
安定の狩りだ。
シングルヘッドも1体倒した。
僕は昨日よりも、動きに合わせた【ヒール】を撃てるようになっていた。
単純な慣れと、【盗賊】のジョブレベルアップによる俊敏の上昇だろう。
そして、毒の実も昨日と合わせて15個ほど手に入れることができた。
しかし、パーティの狩りは素材効率とジョブレベルは桁違いに良いな。
ただし、各自の役割があるから、今の僕だとステータスは殆ど上がらない。
「よし、そろそろ集合場所へ行こう」
狩場を離れて、森を迂回する。
進む先に中心部への入り口があるようだ。
◇
入り口には既に数人の人がいた。
他の冒険者パーティだろう。
ノーツさんが他の冒険者パーティに挨拶をしている。
顔見知りなんだろうか。
「まだ騎士団は来てないな。
他の街の冒険者、彼ら以外もそのうち来るだろう」
「ノーツさんは彼らの知り合いなんですか?」
「あぁ、まぁな。
狩場で何度も顔を合わせたことがある」
「ショーンさんという人は知っていますか?」
「槍使いのショーンか?
それならアイツだ。
若いのに相当強いらしいぞ」
あの緑髪のツンツンした髪の男性だろう。
僕と同じくらいの歳だろうか。
木に寄りかかってあくびをしている。
あんまり強そうには見えないけど……
「ありがとうございます。
手紙を預かっていますので、渡してきます」
僕はそう言うと、ショーンさんのところへ小走りで近寄る。
近寄ってみると、ショーンさんはかなりのイケメンだった。
キリッとした顔立ちの美少年だ。
「ショーンさんですか?」
「ん?
あぁ、そうだけど」
「カルディさんから手紙を預かってまして、これをどうぞ」
「あぁ、カルディさんか懐かしいな」
ショーンさんが一通り手紙に目を通す。
「へぇ〜……
あんたを鍛えてくれってさ。
どうする?
暇だしやってみるか?」
「ぇ!
いいんですか?
お願いします!」
「んじゃ、広いとこ行こうぜ」
「はい!」
おぉ!
是非鍛えてもらいたい。
僕は荷物を下ろし、盾と短剣を構える。
「盾と短剣か。
変わってんな」
ショーンさんは槍で肩をトントン叩きながら言う。
僕はいつ攻撃がきてもいいように、盾の裏からショーンさんを見る。
「来ないなら、こっちからいくぜ」
メキッ!
ぇ?
ショーンさんが構えた瞬間、僕の身体は後方へ吹っ飛んでいった。
ドガッ!
僕は地面を転がる。
あれ?
右肩に痛みが走る。
今攻撃をされたのか?
全く見えない。
痛みがくるまで、攻撃されたことすらわからなかった。
僕は【ヒール】を重ね打ちしながら立ち上がる。
ダメージはかなりあるが、恐らく槍の持ちての方で攻撃してくれたのだろう。
血は出ていないが、骨はやられているようだ。
「おい、なんだよ。
今ので終わりか?
カルディさんが言うくらいだからつえぇのかと思ってたよ」
「ッ!
すみません……」
次元が違う……
ノーツさんやラウールさん、オルランドさんだって僕より随分強い。
けれど、その比じゃない。
攻撃が全く見えない。
その上持ち手部分の攻撃だけで、骨までやられている。
「もう一度お願いします!」
だけど、このまま終われない。
カルディさんにも申し訳ない。
「俺手加減とか苦手なんだよな……」
ショーンさんは頭をポリポリと掻きながら面倒くさそうにしている。
僕は盾を構える。
集中だ。
今ジョブは【盗賊】で俊敏も上がっている。
なんとか攻撃の軌道だけでも見るんだ。
「んじゃ、行くぞ」
ダッ!
メキッ!
ショーンさんが踏み込んだ瞬間、また右肩に痛みが走り、後方へ吹っ飛ぶ。
ドガッ!
僕は地面を転がり、また【ヒール】を使いながら立ち上がる。
ダメだ、全く見えない。
「もう一度、お願いします!」
「いや、もういいだろ。
お前骨折れたぞ。
やめとけよ」
【ヒール】を重ねて撃つ。
「大丈夫です!
お願いします!」
「やれやれ、変な野郎を押し付けられたぜ……」
◇
それから10回以上肩の骨がやられたが、結局防ぐどころか、一度も攻撃を見ることもできなかった。
「お願いします!」
「いや、お前これから狩りだぞ?
MP空にしてどうすんだよ」
「ぁ、そうでした。
狩りがあったんですね」
そうだった。
つい夢中になってしまい、狩りのことを忘れていた。
「なんなんだよこいつ……
まぁ根性あるやつは嫌いじゃねぇから、狩りが終わったら来いよ」
「おぉ!
ありがとうございます!」
「あとさ、敬語やめてくんねぇかな。
なんつーかさ、苦手なんだよそういうの」
「わかりました!」
「いや、だからそれ敬語じゃん。
ぁ、ほら、そろそろ騎士団来んぞ」
「ぁ、ホントだ。
ではまたお願いします!」
「いや、だから敬語……
まぁいいや……」
僕はノーツさんパーティのところへ戻って行った。