54日目(異世界)後編
狩場へ着いた。
既にお昼を過ぎている。
道中、魔物はほとんど出なかった。
数匹だけだ。
街道は狩場から離れているので、狩場で湧いた魔物がこっちまでくることはほとんどない。
本来ならお昼ごろには到着していたはずなんだが、僕が【ストレージ】習得のため大量の荷物を持っていたことで遅くなった。
「はぁ……はぁ……
すみません、遅くなってしまいました」
「あぁ、構わないよ。
それより【ストレージ】は習得できたかい?」
ステータスを確認したが、特に新しいスキルは出ていない。
「いえ、出ていません」
「まぁそうだろうな。
そんなにすぐには習得できないだろう」
「それじゃ狩場の確認だ。
まず基本的な魔物は3種。
熊の魔物、シングルヘッド。
植物の魔物、ポイズンフラワー。
それから蟻の魔物、ビッグアントだ。
注意するのはシングルヘッドとポイズンフラワー。
ビッグアントは雑魚だ」
どうやら僕のために説明してくれているようだ。
他のメンバーはみんな知っていることなのだろう。
ふむふむ、勉強になるな。
「シングルヘッドは単純に強い。
ヤツが出たらラウールに任せるぞ」
「はいよ、任せな」
【剣士】のラウールさんが1対1で仕留めるのだろう。
「ポイズンフラワーは毒にだけ注意だ。
狭間くんが【アンチポイズン】を使えるのと、毒消しポーションがあるから大丈夫だが、できるだけ消費は避けたい」
「あの、ノーツさん」
「ん?
なんだい?」
「できれば、背負ったままがいいんですが、足手まといでしょうか?」
「はは……
凄いやる気だな」
うん、やっぱり若干引いているな。
「守るつもりではいるが、多少の攻撃をくらうこともあるぞ?
死ぬことはないだろうが、避けることができなくなる。
それでもいいのか?」
「はい!
お願いします!」
ノーツさんが呆れたように笑う。
「わかった!
いいぞ!
俺が全力で守ってやるさ!」
「ありがとうございます!」
ダメもとでも頼んでみるもんだな。
多少の攻撃をくらってでも【ストレージ】は習得したい。
というより、今後の耐久やHPのことを考えると多少攻撃をくらっておきたい。
こうして、僕だけがふざけた量の荷物を背負ったまま狩りをする。
通常ならあり得ないそうだ。
ステータスやスキルのことを考えれば、普通はこうすると思うのだが……
◇
狩場には大きな蟻とデカイ植物がいる。
シングルヘッドはいないな。
あれがビッグアントとポインズンフラワーだろう。
ビッグアントは1mくらいか。
大型犬くらいの大きさだ。
ポイズンフラワーは植物だが、根を足のように使い動いている。
紫色でいかにも毒々しい。
花の中央から毒を噴射するからそれには要注意だそうだ。
毒は徐々にHPが減るのですぐに致命傷になるわけではないが、MPや消費アイテムを削られると、帰還が早まってしまう。
利益減に直結してしまうそうだ。
前回の狩りと同様にノーツさんが突っ込む。
「うおおぉぉぉぉ!」
雄叫びを上げる。
【咆哮】というスキルだ。
狩場の魔物が一斉にノーツさんへ向かう。
そして他のメンバーが背後から攻撃。
前回と全く同じで、効率も最高に良い。
でもあれだと、毒もらってしまうのでは?
ポイズンフラワーが花の中央から紫色の気体を噴射する。
プシューッ!
そのタイミングに合わせ、ノーツさんが盾で薙ぎ払う。
ガツン!
ん?
なんだあの音は。
ノーツさんは、毒の気体と、周りのビッグアントを盾でふっ飛ばした。
気体を吹き飛ばすような音ではなかったけど、スキルの効果だろうか。
毒の霧は霧散して消える。
その間に、他のパーティメンバーが次々と魔物を仕留める。
相変わらず素晴らしい手際だ。
ぁ、僕もノーツさんに【ヒール】を撃っておく。
結局こっちに魔物は来なかったな。
「よし、終わったな。
魔石は出たか?」
「あぁ、1個出てるぞ。
あとは、毒の実だけだな。
どうする?
一応持って帰るか?」
「そうだな、回収しておこう」
「はいよ」
ビッグアントもポイズンフラワーも素材はあまりよろしく無いらしい。
魔石が出れば良いが、ビッグアントは特になにも落とさず、ポイズンフラワーは毒の実だけ。
「あの、できたら毒の実は僕にいただけませんか?
僕の報酬減っても構いませんので」
「あぁ、構わないが。
キミは【薬師】も持っているのか?」
「いえ、そういうわけじゃないんですが……」
「なんだ?
食うのか?」
オルランドさんがニヤニヤして聞いてくる。
「その予定です」
「は?」
冗談のつもりだったのだろう。
面食らっているようだ。
「お前正気か?」
「はい、毒を摂取すると【毒耐性】が得られるんですよ。
そろそろ毒草では【毒耐性】が上がらなくなってきたので、毒の実はありがたいです」
「おいおい、マジかよ……」
若干……というかだいぶ引いているようだ。
んー……
何故みんなやらないのだろう。
多少痛いだけで、良いことしかないと思うのだが……
その後しばらく狩りを続けたが、シングルヘッドは出てこなかった。
「シングルヘッドは出ませんね」
「まぁ狩場の入り口だからな。
ちょっと奥に行ってみようぜ」
「あぁ、本隊が来るまではそこまで深追いするつもりはないが、もう少しは大丈夫だろう。
ダブルヘッドは相当奥に行かないと出ないはずだ」
奥の狩場へ向かう。
◇
いた。
熊の魔物、シングルヘッドだ。
茶色と灰色、銀色が少し混ざった熊だ。
でかいな。
2mくらいはあるだろうか。
そして、ビッグアントやポイズンフラワーも数匹いる。
僕は多少の攻撃をもらっても大丈夫なように盾を構えておく。
ノーツさんが突っ込み、【咆哮】。
「うおぉぉぉ!」
周りの魔物が全てノーツさんに突っ込む。
ちょっとこれ数多いな。
ノーツさん大丈夫か?
シングルヘッドもノーツさんに突っ込む。
「ガァ!」
が、ラウールさんが背後から斬撃を浴びせる。
ザシュッ!
少しダメージが入った程度に見える。
「相変わらず硬ぇなこいつは!」
うまく1対1に持っていったようだ。
しかし、シングルヘッドの動きも速い。
ラウールさんは剣で受け流しながら、反撃をしているが、それでもダメージがあるようだ。
その間にも、オルランドさん、カーシーさんが雑魚を次々と仕留めていく。
数が多いな。
こっちにも数匹のビッグアントが来たが、カーシーさんが近づく前に仕留めてくれる。
「ハッ!
【三連撃ち】!」
凄まじい速さで矢を射る。
撃っている腕がよく見えない。
あれ指とかどうなっているんだろうか。
オルランドさんもスキルを使っているようだ。
「【岩砕き】!」
ズドン!
ビッグアントは一撃だ。
あれが一番威力が高そう。
次々と数は減っているが、ラウールさんが一番きつそうだ。
僕はさっきから【ヒール】を撃とうとしているが、動きが速くて全く捉えられない。
ちなみに今のジョブは【盗賊】だ。
【ストレージ】を習得するために、【見習い聖職者】をはずしてある。
【盗賊】のジョブでもあの速さに対応できないってことは、【見習い聖職者】では絶対に回復できないな。
ラウールさんの動きを見ながらでは、速すぎてどうにも対応できないのだ。
今度は、ラウールさんが動きそうな場所へ予め【ヒール】を使ってみる。
が、別方向に動いてしまう。
だめだ、全然発動しない。
唯一の救いは失敗してもMPが減らないことだ。
【ヒール】などの回復魔法は発動しなければMPが消費されない。
病室では空撃ちできなかったが、ここにきてそれに助けられている。
今度は、【マルチタスク】を使い、ラウールさんが動きそうな箇所に2発の【ヒール】を撃っておく。
ぉ!
おしいな!
何度か繰り返してみる。
常にラウールさんの周り2箇所に【ヒール】を撃っておく。
よし!
決まった!
なんとか一発だけ【ヒール】を決めることができた。
そうこうしているうちに、雑魚が減ってきた。
雑魚が減ってくると、カーシーさんは攻撃対象をシングルヘッドにする。
「【旋風撃ち】!」
ギュルギュルと渦を巻いて矢が飛んでいく。
ズドッ!
「グモゥッ!」
シングルヘッドが一瞬怯む。
「ナイス!
カーシー!」
その隙をラウールさんが見逃さない。
「【円月斬】!」
上段に構えた剣を高速でギュルリと回転させる。
ズバン!
見事に決まった!
シングルヘッドが吠える間もなく首が吹っ飛ぶ。
あとは雑魚を片付けるだけだ。
殲滅にラウールさんも加わり、あっというまに仕留めていく。
「はぁ……はぁ……
よし、さすがはラウールだ」
「【円月斬】が決まったな!
素材がきれいに残ってるぞ」
「あぁ、まさか狭間の回復が入るとは思わなかったぞ」
「おい、回復できたのか!?」
「はい、何度か挑戦してみたらできていました」
「やるな!
とりあえず、さっさと素材回収だ」
「あとは、毒の回復も頼むよ」
「了解です!」
結構な数だった。
流石にノーツさんでも毒をもらったようだ。
「【アンチポイズン】!」
毒を回復する。
あれ?
回復しているようには見えないな……
MPは消費しているので、【アンチポイズン】の発動はしてると思うけど。
「すみません、毒の回復できていませんよね?」
「いや、効いているよ。
そうか、毒の回復は初めてかい?」
「はい、そうです」
「毒の場合、効果時間があるだろう。
恐らくこの毒は、俺の耐久だと、3,4時間は続くだろう。
【アンチポイズン】は毒の効果時間を減らすんだ。
だから何度か撃つと毒が消えるはずだ」
なるほど、だから1回の毒でもMPを結構消費するんだ。
「了解です。
消えるまでいきます。
【アンチポイズン】!」
そうすると、スキルレベルはこの毒の効果時間をより減らすってことだろうな。
僕が毒を回復している間に、他のメンバーが手早く素材を回収する。
魔石と毒の実を回収し、シングルヘッドはみんなで担いで狩場の外へ持っていく。
それから解体だ。
「狭間くん、MPはどうだ?」
「まだかなりあります。
どうしますか?」
「よし、もう少し続けよう」
◇
それからしばらく狩りを続けた。
シングルヘッドは合計で3体倒すことができた。
魔石や毒の実もぼちぼち手に入った。
「よし、今日はこのくらいにしておこう。
狩場の入り口へ戻るぞ」
狩場から出て、街道近くのひらけた場所へ戻る。
野営の準備だ。
といっても、食事を作るわけでもなく、乾燥肉とパンを食って寝るだけだ。
光の魔石をともして、魔物が来ないようにする。
光の魔石には魔物よけの効果も多少はあるようで、弱い魔物なら寄ってこないそうだ。
ドサッ!
やっと荷物を下ろすことができた。
「おい、どうだった?」
オルランドさんが今日の狩りについて聞いてくる。
「相変わらず皆さん、素晴らしい手際でしたよ。
今日は【盗賊】のジョブレベルが凄い上がってます」
「いや、そうじゃねぇよ。
【ストレージ】の話だ。
覚えたのか?」
「あぁ、そうでした。
確認してみます」
僕はステータスを確認してみる。
狭間圏
【盗賊:Lv18(↑+8)】
HP:158/130【盗賊:+28】
MP:221/405【盗賊:−17】
SP:66/18【盗賊:+48】
力:21
耐久:27
俊敏:31【盗賊:+28】
器用:14【盗賊:+28】
魔力:25【盗賊:−7】
神聖:47(↑+1)【盗賊:−7】
【魔力操作:Lv30(↑+1)】
【回復魔法:Lv21(↑+1)ヒール:Lv19(↑+1) アンチポイズン:Lv1(↑+1) エリアヒール:Lv0(New)】
【マルチタスク:Lv12(↑+1)】
【etc.(16)】
「出ていませんね。
あれ?
でも【エリアヒール】を習得したみたいです」
「何だって!?
本当か!?」
オルランドさんが驚いたように大きな声をだす。
「おいどうした?」
「狭間が【エリアヒール】を習得したらしいぞ!」
「それは凄いな……
おめでとう!」
「ありがとうございます。
【エリアヒール】は優秀な魔法なんですか?」
「あぁ、もちろんだ。
範囲内の生物全てを回復するからな。
使い方によってはMPを節約できるぞ」
「なるほど。
範囲内の生物全てってことは、魔物も回復しちゃいます?」
「あぁ、そうなるな。
エリア内の対象は選べないらしい」
「良かったな狭間、今日は祝杯だ!」
「おい、要請クエストは明日からだぞ?」
「バカヤロウ!
このタイミングで飲まなきゃいつ飲むんだよ!」
「いや、お前毎日飲んでるだろ……」
その日僕は、野外でお酒を飲んだ。
初めて飲んだお酒は酷くまずかったが、楽しかった。
そして、みんなが引くのでこっそりと毒の実を噛り就寝した。