54日目(異世界)前編
今日はダブルヘッド討伐の出発予定日だ。
本来は昼間に出れば明日の集合場所には間に合うが、先に行って狩場に慣れておこうということで、朝に集合している。
メンバーは昨日お世話になったノーツさんたちだ。
「今日はまず目的地へ向かうぞ。
それから、集合場所には今日の昼間には到着予定だ。
着いてしばらくは、狩りだな。
討伐の本隊が到着するまでに手に入れた素材は俺達のものだ。
カーシー、【ストレージ】を空けておけよ」
パーティリーダーのノーツさんが説明してくれる。
【アーチャー】のカーシーさんは、【ストレージ】持ちだ。
昨日も少し使っていた。
【ストレージ】は収納スキルで、レベルが上がると容量も上がる。
そして、さらにレベルが上がると、収納したものの保存が可能になる。
レベルの高い【ストレージ】は食料が長持ちするらしい。
ただ、デメリットもある。
収納する際にSPを消費するんだ。
出すときにはSP消費をしないので、ピンチのときに回復アイテムが出せない、なんてことは無いらしい。
だから昨日も少しだけしか使わなかったのだろう。
そして、僕も【ストレージ】を習得する必要がある。
上手くいけば、日本のものを異世界へ持ち込めるかもしれないからだ。
ノーツさんは各自の役割や、荷物の確認をしている。
「毒消しも持ったな?」
「あぁ、回復は一通り持ったよ。
念の為、麻痺や混乱にも備えてある」
カーシーさんは【ストレージ】にそれらのアイテムを収納しているのだろう。
「あの、僕【アンチポイズン】を習得しています。
使ったことはありませんが」
「ぉ、それは助かるな。
毒消しポーションは500セペタするんだ。
節約できる」
500セペタもするのか。
結構高いな。
もしかしたら、毒消しポーションもドロップアイテムを【薬師】で加工しなければいけないのかもしれない。
そうすると絶対高くなるよな。
それからアインバウムの街を出る。
道中は馬車などはなく、もちろん徒歩だ。
しかもちょっと速い。
みんな結構荷物があるのに、余裕だ。
そして、僕も意外と疲れていない。
耐久が上がっているからだろう。
そういえば、台車を引いて狩場に行ったときも、面倒ではあったがそこまで疲れなかった。
これは馬車など勿体なくて使えないな。
道中で僕は気になっていることを聞いておく。
【アーチャー】のカーシーさんだ。
「あの、【ストレージ】の習得には【アーチャー】のジョブが必要なんですか?」
「いや、そんなことはない。
他のジョブでも【ストレージ】を持ってるやつは結構いるぞ。
ただ、【アーチャー】はだいたい持ってるだろうな」
「そうなんですか?」
「あぁ、【アーチャー】は矢が無くなったら詰みだからな。
【ストレージ】には矢が収納してある。
なんだ?
【ストレージ】が必要なのか?」
「はい、是非習得したいです」
「ほぅ、丁度いいな。
おい、ノーツ止まってくれ!」
「ん?
なんだ?」
「狭間が【ストレージ】欲しいってよ。
荷物まとめるぞ」
ん?
何が丁度いいんだろうか。
「あぁ、丁度いいな」
「あの、荷物が必要なんですか?」
「そうだ、今日の移動では荷物を全て狭間に持ってもらうぞ」
「ぇ?」
カーシーさんがそう言うと、みんな荷物をドサドサとおろす。
「【ストレージ】ってのは荷物を運ぶのに便利だろ?
だから荷物を運ぶ苦労が必要ってわけだ。
お前、【盗賊】のジョブあるんだろ?」
「はい、あります。
【ストレージ】には【盗賊】のジョブが必要なんでしたっけ?」
「まぁ必ず必要ってわけじゃないけどな。
【アーチャー】や【斥候】、【盗賊】なんかにしておくと習得しやすいって感じだ。
だから【盗賊】にしておけ」
「はい、わかりました!」
「狭間くん、良いバックパックを持っているじゃないか」
ノーツさんがニコニコと言う。
「おい小僧。
俺のは、重いぞ。
まぁ酒だがな!」
オルランドさんが言う。
この人酒持ってきてんのかよ……
みるみるうちに僕のバックパックがパンパンになっていく。
「ふん!」
バックパックを背負ってなんとか立ち上がる。
クッソ重いな。
大変そうだが、これで【ストレージ】を習得できるなら喜んでやるさ。
「ありがとうございます!」
僕は感謝で思わず大きな声を出してしまう。
「お前、変わってんな」
「はは……」
「ガハハ!
もっと酒持ってくりゃよかったな!」
カーシーさんが若干引いて、ノーツさんは苦笑い、オルランドさんは豪快に笑っている。
「はい!
頑張ります!」
僕は率先してキビキビと歩く。
◇
「ぜぇ……ぜぇ……」
当たり前だが、荷物が凄い重い。
耐久が上がったとはいえ、まだまだ駆け出し冒険者以下だろう。
さっきまであんなに張り切っていたのに、もう疲れてしまった。
「おい、無理すんなよ?」
カーシーさんが声をかけてくれる。
「いえ、大丈夫です!」
なんの……
まだまだ……
「狭間くん、君は回復職なんだから【ストレージ】必須ってわけじゃないだろう?」
ノーツさんが意外なことを言う。
「ぇ?
そうなんですか?
回復職なんかの後衛ってあんまり動かないですし、【ストレージ】あったほうがいいんじゃないですか?」
「まぁ無いよりあったほうがいいわな?」
「けど【聖職者】とか【僧侶】なんてそもそも街から出ないだろ」
「あれ?
回復職の人って外に狩りに行かないんですか?」
「まぁ教会にいればそこそこ金になるし、わざわざ外に出ないよな」
へぇ……
意外だな。
「でもそれじゃジョブレベル上がらなくないですか?」
「あぁ、だからたまーにパーティに入ってくる。
ただで回復してくれるかわりに、パーティに入ってジョブレベルを上げるわけだ。
でもたまーにだぞ」
「今回の要請だって、狭間くんがいなかったら他の回復職が来たかどうかはなぁ?」
「まぁ街で安全にお金が稼げて、神聖やMPだって少しずつ上がるわけだ。
多少の個人差があるにしても、わざわざ狩りに出るメリットがそんなにねぇんだよ」
「そうなんですねぇ……」
うーん……
正直、全く理解できない。
チャンスがあれば、ステータスやジョブは片っ端から上げたいと思うんだけど。
「まぁ要するに、お前に【ストレージ】は絶対必要ってわけじゃねぇってこった。
疲れたら荷物分けるからすぐに言えよ!」
オルランドさんが気を使ってくれる。
「いえ!
まだまだ大丈夫です!」
僕は早足で進む。
【ストレージ】超欲しい。