53日目(異世界)後編
狩場へは1時間ほどで到着した。
途中まではいつもの狩場と同じ道だ。
いくつか枝分かれしている道の一つではあるので、いつもの森と同じ森なんだろう。
道中では、僕が【ヒール】【ガード】【ウインドカッター】を使えること、それから【短剣】も少し使えることを説明した。
その結果僕の装備は、木製の小盾とステッキになった。
このパーティで【短剣】を使ったところで足手まといなんだろう。
フォレストウルフというのは、その名の通り狼系の魔物で緑色をしているらしい。
動きが速く、攻撃力も高いが耐久はそれほどないらしい。
「よし、それじゃさっき説明した通り、狭間くんは防御に徹してくれ。
できるだけ守るが攻撃をくらいそうになったら【ガード】でしのいでほしい。
とりあえずまだ戦闘中の回復はしなくていい」
「はい、了解です!」
狩場に着くと、緑色の狼フォレストウルフが数匹いた。
僕は盾を構える。
ノーツさんが単独で狩場に突っ込む。
ぇ?
一人での突進?
「うぉぉぉぉ!!!」
ノーツさんが大きな雄叫びをあげると、全ての魔物がノーツさんへと突っ込む。
全ての魔物がノーツさんしか見えていないようだ。
何かのスキルだろうか。
「いくぞ、よく見ておきな」
【斧戦士】のオルランドさんが、ノーツさんを攻撃している一匹を背後から攻撃する。
ドッスン!
斧の重量が魔物に直撃する。
これ以上無いくらい良い角度で攻撃が決まった。
一撃だ。
さらに【剣士】のラウールさんが別の魔物に背後から突き。
1匹だけを剥がして、1対1に持っていく。
剥がれた1匹に【アーチャー】のカーシーさんが僕の隣から弓を撃つ。
完璧な布陣だ。
ノーツさんは最初こそダメージをもらったものの、パーティメンバーが流れるように魔物を仕留めていったので、それ以降は殆どダメージは無いだろう。
あっという間に狩場の魔物が殲滅された。
「……凄い」
僕は思わず声に出してしまった。
「よし、素材の回収だ。
急げ」
全員がフォレストウルフの解体を始める。
狩場は倒れた魔物が魔素になってしまう。
それから追加で魔物が湧く。
その前に、解体をするわけか。
僕も解体を手伝う。
「いや、キミはいい。
フォレストウルフは初めてだろう?
それより良く見ておけ」
「はい、わかりました」
解体を終えると一旦狩場から出る。
「これが一連の流れだ。
どうだい?
理解できたか?」
「はい。
全く無駄のない動きで驚きました……」
「そうか。
だが、これは何度も繰り返せるわけじゃない。
一回ごとに確実にダメージが入る。
だから一旦狩場を出るんだ。
【ヒール】を頼めるか?」
「はい、わかりました。
【ヒール】!」
「ほぅ、なるほど悪くないな。
神聖はEだったが、この回復量はおそらくDの直前だろう。
少し経ったらもう一度狩場へ突っ込むぞ。
次は戦闘中に俺を回復してほしい」
「わかりました」
戦闘中ノーツさんはひたすら防御に徹している。
動きは激しくないので、戦闘中の回復もできそうだ。
一連の流れ自体は概ねこんな感じらしい。
最初にノーツさんが突っ込んで【咆哮】というスキルを使うらしい。
すると、魔物のターゲットが全てノーツさんになる。
パーティメンバーは背後から攻撃し放題だ。
そして、ノーツさんにはダメージが入るから、僕が【ヒール】を使う。
MPやSPが切れるまではこの流れだそうだ。
少し休むと狩場には再びフォレストウルフが湧いている。
先ほどと同じようにノーツさんが突っ込む。
「うぉぉぉぉぉ!!!」
雄叫びをあげると、僕らなんか眼中に無いと言わんばかりに魔物が全てノーツさんへ突っ込む。
僕はノーツさんに【ヒール】を使う。
他のメンバーを見るが、【斧戦士】のオルランドさんはダメージが無さそうだ。
【剣士】のラウールさんは1対1にもっていっているので、多少のダメージがある。
しかし、回復しようにも動きがあるのでなかなかうまくいかない。
【魔力操作】が不足しているというよりは、圧倒的に慣れが足りない気がする。
もう少し頑張ればできそうだ。
その後魔物の解体をし、狩場を出る。
「今の【ヒール】なかなか良かったぞ」
ノーツさんが褒めてくれる。
「ありがとうございます」
「こっちも頼む」
【剣士】のラウールさんにも同時に【ヒール】を使っていく。
「ラウールさんにも【ヒール】を使おうと思ったんですが、なかなかうまくいきませんでした。
すみません……」
「俺はノーツと違って動くからな。
お前、そんなことより今同時に回復してないか?」
ラウールさんは驚いたような表情をしている。
「はい、今は【ヒール】の対象が近いですし、動いていませんから」
僕は【マルチタスク】のお陰で2人同時に回復できている。
これが【ヒール】と【エアカッター】などの別の種類の魔法だとまだまだ全然できないが、
【ヒール】の重ねうちなら可能だ。
「なっ!」
ノーツさんも驚いている。
「すげぇな!
こんなの聞いたことねぇぞ!」
「そうなんですか?」
「あぁ、お前戦闘中もそれできんのか?」
「今はまだ厳しいですね。
もう少しスキルが上がればできるかもしれません」
「こいつは掘り出し物件だな!」
オルランドさんが豪快に笑う。
なるほど、どうやら【マルチタスク】は割とレアなスキルらしい。
「ちょっとすみません、ノーツさんに重ねうちを試していいですか?」
「あぁ、やってみてくれ」
僕は一番ダメージ量が多かったノーツさんに【ヒール】を撃ちながら【ヒール】を撃つ。
対象が同じでも【マルチタスク】が使えるっぽい。
「おぉ!
これは凄いな!
【ハイヒール】くらいあるぞ!」
「そりゃいいぞ!
明日からもまたよろしくな!」
「はい!
こちらこそよろしくお願いします」
ノーツさんのパーティは僕を重宝してくれるようだ。
◇
その後、僕の【ヒール】の射程を調べ、ノーツさんのSPや僕のMPの残量を調整しながらの狩りが続いた。
僕のMPが3割ほど減ったくらいで狩りは終了した。
明日からの要請クエストに支障が出ないようにということだった。
明日になればMPは全快するのだが、そんなことはみんな知らないので、1日のMP回復量を目安にしたわけだ。
僕としてはもう少しMPを消費したかったが、MPの秘密がバレるのは良くないだろう。
「おぅ、本当はこのまま飲みに行きたいが、明日出発だからな。
要請クエストが終わったら、一緒に祝杯だ」
「はい、明日またよろしくお願いします」
帰りはバックパックが半分くらいになった。
ちょっと重かったが、以前より耐久が上がったせいかほとんど疲れない。
素材を全て売り払い、僕には1000セペタほどの収入が入った。
MPの3割を消費して1000セペタだから、治療所よりもやや効率が良い。
ただし、ジョブレベル効率が半端じゃない。
今日の狩りだけで【見習い聖職者】が8レベルも上がった。
これは明日からの狩りが楽しみだ。
僕は残りのMPを全て【土魔法】で消費し、眠りについた。
狭間圏
【見習い聖職者:Lv11】
HP:110/130
MP:4/399【見習い聖職者:+21】
SP:18/18
力:21【見習い聖職者:−4】
耐久:27【見習い聖職者:−4】
俊敏:31【見習い聖職者:−8】
器用:14
魔力:25【見習い聖職者:+16】
神聖:46(↑+1)【見習い聖職者:+21】
【魔力操作:Lv28(↑+1)】
【土魔法:Lv4(↑+3)】
【マルチタスク:Lv10(↑+1)】
【回復魔法:Lv20(↑+1)ヒール:Lv18】
【etc.(12)】




