51日目(異世界)
「えっと……毒草ですか?」
「はい、そうです。
【毒耐性】を習得したので、毒の効きが悪くなってしまいました」
今日は朝から道具屋へ来ている。
毒草は安いので、購入したいと思ったのだ。
カルディさんは怪訝な表情でこちらを見ている。
「そうですねぇ、うちでは毒草の買取はおこなっていますが、販売はしていないんですよ。
というのも、売っていても誰も買いませんからね。
以前にもお話した通り、こちらで買取をして、毒草50枚ほどで毒薬にして販売しています」
なるほど、やっぱり需要が少ないんだ。
だから安いのか。
いやしかし、安全にHPを上げるのには良いアイテムだと思うんだけどな……
「そうなんですね。
毒薬はいくらくらいするんですか?」
「一つ1000セペタです……
まさか飲むつもりですか?」
宿代3泊分より高い。
ちょっと毒薬の使用は現実的ではないな。
「いえ、金銭的に厳しくなりますのでやめておきます」
カルディさんはどこかホッとしたような表情だ。
「それでは、毒草の入手をギルドに依頼することはできますかね?」
「まぁできないことはないですが、単価が安いですし、誰も引き受けないと思いますよ。
うちで買い取っていますが、みなさんついでに採ってくるくらいの感覚です」
カルディさんが眉間にシワを寄せながら答えてくれる。
表情を見ている限り、僕の方がおかしいようだ。
「あとこちらで荷台のようなものは売っていますか?」
「えぇ、ありますよ。
大きいので倉庫にあります。
こちらに来てください」
僕はカルディさんについて行き、倉庫へ入る。
いくつかの荷台がある。
リアカーみたいなのが丁度いいんだが。
「こちらの小さいのが10000、少し大きいものは20000、一番大きいもので50000ですね。
なにか運ぶ予定でも?」
「はい、実は肉が食べたくなりまして、ホーンラビットを狩って持ち帰ろうと思っています」
ん〜……
しかし、荷台を買ってしまうと所持金がほとんど無くなるな……
大丈夫か?
「なるほど、でしたらお貸ししましょうか?」
「ぇ?
いいんですか?」
いや、それは助かる。
「えぇ、実は【ストレージ】スキルはステータス以外にも荷物を運ぶことで習得する人もいるんです。
狭間さんが【ストレージ】を覚えてくださるのは、私にとってもいいことなんですよ」
なるほど、【ストレージ】は是非欲しい。
「それで、賃料はおいくらですか?」
「あぁ、もちろん無料で構いませんょ」
いや、それはまずいでしょう。
……
ぁ、あれだ。
カルディさんの眼が不自然にニコニコしている。
これは払わせない気だ。
「ありがとうございます!
絶対に【ストレージ】を習得してみせます」
「お願いしますねぇ」
僕は荷台を引いて狩場へ向かった。
◇
今日来た狩場は、最も優しい初心者用の狩場だ。
ステータス効率は悪いだろう。
だけど、クレスを倒してしまった今、僕は肉を求めている。
ホーンラビットを倒したら狩場の外にある荷台で持って帰ろう。
そしてそれだけじゃない。
ここは薬草と毒草が出る。
毒草の購入が厳しいので、自力で入手するしかない。
それから夕方までホーンラビット、薬草、毒草の採取をした。
◇
帰りの荷台が重い。
本来なら、仕留めたホーンラビットをそのまま持って帰りたいが、それだと重すぎるので、解体加工を狩場の外でおこなった。
4匹分が荷台に乗っている。
1匹はカルディさんにおすそ分けしよう。
荷台を借りていることだし。
カルディさんは、最初肉はいらないと言っていたが僕が食い下がって1匹分もらってくれた。
薬草は10枚買い取ってもらった。
解体加工している時間や、ホーンラビットを仕留めたあとに運ぶ作業があったので、狩り自体の効率はやや悪い。
薬草も10枚しか手に入らなかった。
それから毒草は3枚。
ボスまでいけば毒草が10枚手に入っただろうが、今日は時間的にやめておいた。
MPも温存しておきたかったし。
それからSPだけは【ガウジダガー】で消費しておいた。
そして、今日の狩場は安全でMPがほとんど残っているので、治療所へ向かう前にホーンラビットの肉を食っておく。
美味い……
香ばしい……
ただ、血抜きして塩をふって焼いただけだ。
なんだろう、このスモーク感は。
毎日少しなら食べても金銭的に問題ないな。
残りの肉は全部買い取ってもらおう。
その後治療所でひたすら回復をする。
クレス達は来ていないな……
くそ〜……
やっぱりやってしまったな……
耐久とHPは強化するのが一番難しいんだが、彼らがいないと厳しい……
誰か僕をボコボコにしてくれる人はいないだろうか……
いや、僕がMなわけではないんだが……
「おぅ、お前まだMPあんのか?」
ん?
考え事をしていたら、ギルド受付のドグバさんが話しかけてきた。
相変わらずのスキンヘッドムキムキである。
「ぇ?
そうですね。
まだ半分くらいあります」
そういえば、さっきから何人も回復してるな。
ここ最近の病室での訓練でMPが異常に上がっている。
「おいおい、お前この前までMPも神聖も低かっただろう。
すげぇじゃねぇか」
「ありがとうございます」
「じゃぁ邪魔したな。
このまま頑張れよ!」
ドグバさんは、背中を向けて手を振ってくれた。
そういえば、神聖も魔力も結構上がっていたんだ。
僕は次々と回復していった。
◇
すごい、治療所だけで880セペタも稼ぐことができた。
ホーンラビットと薬草も合わせて1000セペタ以上の稼ぎだ。
もう生活費くらいのお金については心配する必要は無さそうだ。
とするといつまでも宿屋ってわけにはいかないよな。
家を借りるか買うかしたほうがいいんだろうか。
ん〜……
今はその必要も無いような気がするな。
「おい小僧、ちょっと来いよ」
受付のドグバさんだ。
「はい、何でしょう?」
「お前、もしかしたら教会からお誘いが来るかもしれんぞ?」
「お誘いですか?」
お誘いってなんだろう。
「どこの街でも回復職は不足してんだ。
だからギルドの優秀な回復職は、教会からお誘いが来るんだよ。
まぁ教会のほうが金払いが良いからな」
えぇ〜……
教会なのにお金払いが良いって何かイメージ悪いな。
「んで、お前今使ってんのは【ヒール】か?」
「はいそうです」
「そうか。
このペースならじきに【ハイヒール】を覚えるだろう。
そしたら俺んとこに知らせに来いよ!」
「はいわかりました。
【ハイヒール】覚えると何か良いことがあるんですか?」
「ん?
あぁ、教会には加入条件が2つあってな。
1つは納税。
お前、ギルドカード作ったときに金かかっただろう?
あれにも少し税金が入ってんだよ。
だけど、教会に所属するにはそこの領民にならなくちゃいけない。
領民になるにはもっと多くの税金が必要ってわけだ」
「そうなんですね」
「ん?
お前知らなかったのか?
宿屋暮らしだろう?」
「はい、しばらく宿屋でお世話になっています」
「税金がかかるから宿屋暮らしだと思ったんだが……」
「なるほど、それでカルディさんがそのように勧めてくれたんですね」
そういうことか。
多分、家を借りると、領民になり、納税額が上がるんだろう。
「話がずれたな。
教会のもう一つの加入条件が【ハイヒール】以上の回復魔法だ。
だからお前さんが【ハイヒール】を覚えたら、治療所は卒業ってわけだな」
「ぇっ!
ギルドはそれでいいんですか?」
「おいおい、良いも何もギルドと教会は協力関係だぞ。
瀕死の冒険者が来たら、こっちも教会に世話になるんだ。
持ちつ持たれつってわけだな」
「なるほど、わかりました」
まずは【ハイヒール】の習得か。
でも今の稼ぎでも生活には困らないんだよな。
このまま領民になって、教会に所属してもいいものなんだろうか。
「教会って治療所でやってること以外でどんなことをするんですか?」
「基本は魔石に【ハイヒール】以上の回復魔法をぶち込んで行くって感じだな。
教会ではひたすらMPを使うんだ。
安全に高い収入が得られるから人気なわけだ」
「魔石には魔法が打ち込めるんですね」
「あぁ、【錬金術師】がそういう【魔導命令】をした魔石だがな。
そこに予め【回復魔法】を撃ち込んでおくってわけよ。
んで、冒険者やら貴族がそれを使う。
使ったら空になるから、また教会の人間が【回復魔法】を有料で撃ち込むってわけだ」
「なるほど、それで加入条件があるんですね……」
下手に質の低い【回復魔法】を魔石に入れるのは勿体無いってことか。
「おぅ、そういうこった」
確かに、今の僕にはぴったりだ。
MPはだんだん増えてきているし、神聖や魔力も上がるだろう。
「所属すると決まった仕事があって拘束されたりしますか?」
「いや、基本はギルドと変わんねぇよ。
自分で教会から仕事をもらうんだ」
ぇ?
そうなの?
教会っていうから、きっちり決まった時間のお仕事があるのかと思ったけど。
「ただし、緊急要請が出れば、領民は全員命令に従うことがある。
まぁそりゃギルドも一緒だがな」
「緊急要請ですか?」
何か嫌な響きだな。
緊急要請。
「狩場の魔物が湧きすぎたときに、溢れてくることがある。
そんときにゃ、ギルドに教会、それから騎士団の人間が掃討するんだよ。
それが緊急要請だ」
「なるほど、みんな一丸となって街を守るんですね」
「おぅよ!
おめぇ良いこと言うな!」
ドグバさんに、頭をぐりぐりされる。
痛い……なでてるつもりだろうか……
教会についてはほとんど理解できたな。
今の僕にはあまりデメリットは無さそうだ。
「いろいろ教えていただきありがとうございます。
【ハイヒール】の習得目指して頑張ります!」
「おぅ!
頑張れよ!」
バツン!
背中を平手で叩かれる。
いってぇ〜……
耐久上がるんじゃないか?
狭間圏
【見習い聖職者:Lv3】
HP:129/129
MP:121/365(↑+1)【見習い聖職者:+13】
SP:17/17(↑+2)
力:21(↑+1)【見習い聖職者:−5】
耐久:27【見習い聖職者:−5】
俊敏:31【見習い聖職者:−10】
器用:14
魔力:24【見習い聖職者:+5】
神聖:43(↑+2)【見習い聖職者:+13】
【回復魔法:Lv18(↑+1) ヒール:Lv16(↑+2)】
【短剣:Lv7(↑+1) ガウジダガー:Lv6(↑+1)】
【盾:Lv7(↑+1)】
【etc.(16)】
今日は念の為MPを少し残しておいたけど、やっぱりクレス達は来てくれなかった……
HPと耐久を上げる方法を何か考えないとな。
僕は【水魔法】と【土魔法】でMPを使い切って、手持ちの毒草を食べて寝ることにした。
【水魔法:Lv2(↑+1)】
【土魔法:Lv1(↑+1)】




