50日目(異世界)
日本では意識がなくなる直前まで【エアブレード】を撃ちまくった。
現在の【エアブレード】のレベルは2だ。
発動のタイミングや距離が【エアカッター】とそれほど変わらないので、すぐに実戦で使えるだろう。
今日はクレス達と再戦する予定だ。
だから、狩りは軽めにする。
初めて行った狩場で、芋虫の魔物ラオペをスキルや魔法なしで倒していく。
軽く盾を使う程度で基本ノーダメージだ。
【見習い聖職者】と【見習い魔法士】で戦っておく。
2つのジョブのレベルが3になったので、まだ昼過ぎだが街へ帰る。
夕方まで、ゆっくりと身体を休めておく。
◇
気持ちが高ぶり、全く落ち着かない……
夕方になり、治療所へ行く。
まだクレス達は来ていないな。
ゆっくり辺りを見回し、一番長い列へ並ぶ。
とにかく彼らに発見してもらうのが目的だ。
いつものように冒険者を治療していくが、今日は【ヒール】ではなく【マイナーヒール】を使う。
できる限りはMPを温存しておきたい。
しばらくすると、彼らがやってきた。
僕はクレスと目が合う。
一瞬驚いたような表情をし、こちらを睨めつけてくる。
後ろの奴らは驚き、呆れているようだ。
やれやれ、といったところだろうか。
さて、目的は果たした。
これ以上MPを使いたくないので、この場を立ち去る。
僕は昨日以上にゆっくりと時間をかけて帰る。
ドスッ!
今日も後ろから蹴りをくらって吹っ飛んでいく。
ズザァー!
僕は地面を転がると、すかさず受け身を取り立ち上がる。
ダメだな。
来るとわかっていても、後ろからだと反応できない。
「お前マジでいかれてんじゃねぇのか?」
「………………」
僕は無言で盾を構える。
「またその盾がムカつくんだよな」
「おい、今日はお仕置きのあと、盾もらってこうぜ」
クレスが苛立ち、後ろの戦士ミューロが茶化すように言う。
「ぉ、そりゃいい考えだっ!」
言い終わると同時にこちらへ踏み込んでくる。
ドゴッ!
盾に衝撃が伝わる。
相変わらず、ステータス差はまだまだある。
だが、盾で受けるのが昨日より楽になっている。
ドスッ!
ドガガッ!
素早く、重い攻撃だが、相変わらず拳一辺倒だ。
僕は盾で受け止めつつ【ヒール】を使う。
「おらいくぞ、しっかり盾構えてないと死ぬからな!」
クレスが両手を同時に引く。
くる!
スキルだ!
【ガード】!
「【連撃】!」
ガギンッ!
ガガガガガガッ!
凄まじい金属音が鳴り響く。
いける……
【ガード】の上からならダメージは半減だ。
「なっ!」
クレスは驚いているが、連撃を止めない。
マズイ……
そろそろ【ガード】が切れる……
ガガガガッ!
ドドドドドドスッ!
金属音が打撃音に変わり、ダメージ量が増える。
「クソが!
無駄なあがきしやがってよ!」
ドスッ!
ズザァー!
【連撃】が終わると、僕はふっ飛ばされ、体勢を崩すが、なんとか倒れずにすむ。
【ヒール】をかけ続けているので、あと一回くらいはなんとか耐えられるか?
「ハッ!」
まずい、すぐにクレスが突っ込んでくる。
「【連撃】!」
きた!
【ガード】だ!
ガガガガッ!
ドドドドドドスッ!
再び金属音からの打撃音が響き渡る。
身体がミシミシときしむ。
やばい、とにかく一旦引いて、【ヒール】だ。
連続スキルだと、回復が追いつかない。
「おらおら、まだいくぞぉ!」
3連続か!
これはヤバい!
とにかく【ガード】だ!
「ほらよ!」
ガガガガッ!
ドドドドドドスッ!
「ゴホッ!
ガハッ!」
血反吐が出るが、なんとか立っている。
とにかく盾を構える。
「おいおい、コイツなんだよ。
ゴキブリ並だな、うざってぇ……」
「おい、手伝おうか?」
やっぱりきたか……
【ヒール】に集中だ。
「頼むわ、SP切れた」
よし、狙い通りだ。
まずはSP切れを狙う。
でなければ話にならない。
ザッ!
ザッ!
ミューロがゆっくりと近づいてくる。
魔法使いは来ないのか?
MPを温存してくれると助かる。
3人は無理だ。
「ハッ!」
ミューロが剣で突きを放つ。
ビュン!
僕はそれをすかさず避ける。
ブワッ!
風圧がくる。
凄まじい威力だ……
まともにもらったらクレス以上にHPをもっていかれる。
でも、思った通りだ。
ミューロはジョブを【盗賊】にした僕よりも俊敏が低い。
避けることはできる。
問題はこのあとだ。
ガツッ!
クレスの打撃をもらってしまう。
やっぱり2人同時ってことはこうなるだろう。
【ヒール】を使いながら防御に徹する。
ミューロの攻撃を避け、クレスの攻撃をもらってしまう。
僕の回復速度よりもダメージ量のほうがやや多い。
さらに2人連携して攻撃をしてくる。
ミューロの攻撃を避けたあと、盾をクレスの方向へすかさず向ける。
クレスのほうが俊敏が上なので、さらに盾の左から打撃がくる。
ドスッ!
HP、MPともジリ貧だ。
彼らも余裕の表情。
だが……
連携攻撃も一辺倒だ。
何度も同じ攻撃をもらうことはない。
ガッ!
徐々にタイミングが合ってくる。
「こいつ……」
クレスの攻撃に盾がかする。
彼らの攻撃と、僕の回復速度が同程度になっている。
もう少し、もう少しで完全にタイミングが掴める……
よし!
ここだ!
ガキンッ!
完全にタイミングが合う。
ミューロの攻撃をかわし、クレスの攻撃を盾で受ける。
もちろん、ステータス差により盾で受けてもダメージがある。
だが、僕の回復速度の方がダメージを上回る。
しかし……
ミューロが両手を剣ごと後ろに引き、体勢を低く構える。
やばい!
なにかくる!
「【斬撃】!」
【ガード】!
僕は身体をそらしつつ【ガード】を発動する。
ガギンッ!
身体が大きく浮き上がり、ふっ飛ばされる。
盾を構えた左腕に激痛が走る。
大丈夫、動く。
骨まではやられていない。
僕がふっ飛ばされたところに、すかさずクレスが攻撃してくる。
僕はゴロゴロと地面を転がり盾を構え、体勢を立て直す。
ズゴッ!
ドガッ!
何発か直撃をもらってしまうが、HPはまだある。
ひたすらに防御しながらの【ヒール】だ。
「おい、マジかよこいつ、そろそろめんどくせぇんだけど。
【斬撃】あと何回いける?」
「今ので終わり。
今日は狩りで使い切ったからな」
「俺の魔法使おうか?」
さっきまで観戦していた魔法使いも参戦する気か?
「いや、MPがもったいないな。
やめておこう。
クレスもそれでいいな?」
「あぁ、こんなゴキブリ野郎に明日のMPを使うのは勿体無い」
彼らの話合っている間も【ヒール】を使い続ける。
この流れは、帰るつもりか?
「おい、ゴキブリ野郎。
よかったな。
今日のお仕置きは終わりだ。
SPが余ってるときは、もっとボコすからな?
明日から来んなよ。
てか、来なくても見かけたらぶん殴るけどな」
「飯に行くか。
酒でも飲もうぜ」
よしよし、おしゃべりの間に随分と回復させてもらった。
3人は飲食街のほうへ歩き出す。
「【エアブレード】!」
ブシュッ!
魔法使いの少年が倒れる。
ドサッ!
不意打ちだったからな。
脇腹にもろに入ったのだろう。
「ぁ?」
クレスがこちらを見る。
これまでにない怒りの表情だ。
目が血走っている。
ダメダメ。
逃さないよ……クレス……
まだMPの残っている魔法使いを仕留めておいた。
これで彼らに勝機は無い。
「てめぇ!
ブチ殺す!」
クレスが突進をしてくる。
ミューロも構え、こちらに向かう。
魔法使いの少年は自分に回復魔法をかけているようだ。
僕は、クレスが突進してくる方向へスキルを使う。
「【ガウジダガー】!」
「ハ、ノロマが!」
クレスが、とっさに左へ飛び、拳を繰り出してくる。
が……
ブシュッ!
「なっ!」
彼の肩から血が吹き出る。
「ダメだよ、そっちは魔法撃ってあるから」
僕は笑顔でクレスの拳を盾で受ける。
完全に予想通りの動きだ。
そして、彼らには魔法の耐性がほとんどない。
これも予想通り。
駆け出し冒険者なのだろう。
初期の狩場には恐らく魔法を使う魔物などほとんど出てこない。
魔法職のあの少年ですら、【エアブレード】一撃だ。
クレスは一旦距離をとる。
「おいミューロ!
魔法がくるぞ!
気をつけろ!」
「は? マジかよ!」
今度は2人同時に攻撃をしてくる。
まずはミューロの突き。
ブンッ!
それもさっき見た。
僕はミューロの攻撃をかわしつつ、クレスが攻撃してくるところに【エアブレード】を放つ。
クレスが拳を突き出すが、逆に彼の腕からは血が飛び散る。
ブシュッ!
「クソッ!」
彼らは一旦距離をとり、僕から離れる。
「だからダメだって、そこは魔法攻撃の範囲内だよ……【エアブレード】!」
ブシュッ!
さらにクレスから血が飛び散り、彼は片膝をつく。
「てめぇ、汚ねぇぞ!
SP切れを待ってたのか!」
「うん、まぁそうだよ……
でも、3対1も卑怯じゃないの?」
時間稼ぎか……
魔法使いの少年が自分の回復をしている。
僕は構わず魔法使いの少年へ追撃をする。
「【エアブレード】!」
ブッシャー!
「ひぎゃぁっ!」
さらに血が飛び散る。
これで彼は自分の回復で手一杯だ。
「殺す! 殺してやる!」
クレスの突進と同時に、ミューロが剣を振り下ろす。
僕はミューロの攻撃をかわし、クレスに関しては突進してくる方向に予め【エアブレード】を撃っておいた。
ブッシャー!
突進が裏目に出たのだろう。
カウンター気味に【エアブレード】が決まる。
「ガハッ!」
クレスは倒れ、血を吐く。
「殺す……絶対に殺す……」
あれは当分動けないな。
僕はミューロのほうを見る。
「ひっ……」
ダメだ、こいつはもう戦意がない。
ん〜……残念だな……
もう少し戦士の動きも勉強したかったんだけど。
まぁだけど検証してみたいことがある。
僕はミューロへ近づく。
彼は剣を構え、カタカタと震えている。
「うおぉ!」
何の変哲もない上段からの振り下ろし。
僕はそれをかわし、彼の鎧へ手を当てる。
「【エアブレード】」
「なっ!」
彼は恐怖と驚きの表情を見せる。
ブシュッ!
鎧の中から血が吹き出る。
やっぱりだ。
鎧の中に魔法を撃ち込むことができる。
まぁ彼らの魔法耐性の無さだからできることだろう。
これは僕自身も魔法攻撃に対して、なんらかの対処をしなければならないということだ。
「おいてめぇ!
このままですむと思うなよ!」
クレスが吠える。
「あぁ、もちろんだよ。
こんなにお互い成長できるんだ。
今日限りなんて寂しいことは言わないよ」
僕は笑顔で答える。
クレスは何を言っているんだ、というような驚きの表情だ。
「僕は君たちのおかげで、HPや耐久を大幅に上げることができた。
さらに、【盗賊】のジョブも得ることができたんだ。
今後もこの訓練を続けよう!」
僕は本心で答える。
これっきりというのはあまりに勿体ない。
「SPが全快だったら絶対にこうはならない!
次は殺すからな!」
「いやいや、それは敗因の一つだけど、問題はそこじゃないよ。
一番の問題は魔法耐性だ。
ぁ、そうだ。
これまでのお礼に【風耐性】をつけてあげよう」
「は?」
「いや、実は僕、MPがまだまだ残っているんだ」
今日は治療所でも狩りでもMPをほとんど使っていない。
まだまだ半分以上は残っている。
「まぁ少し痛いかもしれないけど、回復魔法もかけてあげるよ。
うまくいけば、【風耐性】だけじゃなく【痛覚耐性】もつくかもしれない」
「何を言って……?」
「いくよ!
【エアカッター】!」
「ッ!」
ブシュッ!
「【エアカッター】!
【エアカッター】!
【エアカッター】!」
「ギエェェ!
クソ!
殺す!
絶対に殺してやる!」
「大丈夫、大丈夫、回復してあげるから
【エアカッター】!
【エアカッター】!」
「や、やめろ!
やめろぉぉぉぉ!!」
「【エアカッター】!
【エアカッター】!
【エアカッター】!」
「ヒッ……」
クレスの体中から血が吹き出る。
これ以上はまずいな。
「よし、【ヒール】!」
「もうわかった!
俺が悪かった!」
「いや、それはもういいんだ。
気にしていないよ。
それよりも【風耐性】をつけておいたほうが良い。
そしたら次は僕に勝てるよ!」
「いや、そういう意味でじゃない!」
「いくよ!
【エアカッター】!
【エアカッター】!
【エアカッター】!」
「や、やめ、やめてください」
◇
クレスは思ったよりもHPがあるな。
【エアカッター】ならかなり耐えられるんじゃないか?
「よし、【ヒール】!
ってあれ?」
クレスは白目を剥いて意識を失っている。
「気絶か……
仕方ないな……
まだMPはたくさんあるし、他のみんなも……」
いない……
あらら、逃げてしまったか……
せっかくの強化なのに、勿体無い……
僕は【水魔法】を使ってクレスの顔に水をかける。
クレスが目を覚まし、こちらを見る。
「ヒィッ!」
「ぁ、回復はしておいたよ。
他のみんなはどっか行っちゃったみたい。
まだMPはあるし、もう少しやろうか?」
「ヒィィィッ!」
彼は叫び出すと逃げてしまった。
俊敏が僕より高いので、追いかけても捕まらないだろう。
「おぉーい!
明日もまた頑張ろぉ!」
狭間圏
【盗賊:Lv10】
HP:105/129(↑+3)【盗賊:+20】
MP:126/336【盗賊:−18】
SP:−18/15(↑+1)【盗賊:+40】
力:20
耐久:27(↑+3)
俊敏:31(↑+1)【盗賊:+20】
器用:14【盗賊:+20】
魔力:24(↑+2)【盗賊:−8】
神聖:41(↑+1)【盗賊:−8】
【魔力操作:Lv24】
【風魔法:Lv27(↑+1) エアカッター:★ エアブレード:Lv3(↑+1)】
【回復魔法:Lv18 マイナーヒール:★ ヒール:Lv14(↑+1) アンチポイズン:Lv0】
【短剣:Lv6(盗賊:+5) ガウジダガー:Lv5】
【盾:Lv6(↑+1) ガード:Lv4(↑+1)】
【マルチタスク:Lv8(↑+1)】
【etc.(6)】
一章終わりです。
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