44日目(異世界)前編
今日は朝から街の外、森へ向かおう。
昨日カルディさんから借りた大きな肩掛けカバンと、装備を整える。
念の為、ホーンラビットの干し肉、それから水を持っていく。
街からは街道が伸びており、他の街へ続いている。
森の方向には街はないが、道が伸びている。
おそらく冒険者のためだ。
街にとっては、薬草採取や、魔物の素材が必要だ。
何人もの冒険者が森へ行くためにつくられたのだろう。
森の入口へは徒歩40分くらいでついた。
街道は途中で分かれており、森へ続く道だけでも何本もあるようだ。
僕が使った道はいわゆる初心者ルートというヤツで、魔物も弱く、出現率が低い場所だ。
目に魔力を集中させる。
おぉ、街の中よりも魔素が濃いな。
MPの自然回復も街よりも早いはずだ。
道は森の中まで続いている。
そして思ったよりも道が広い。
森の入口から見える場所には特に目立ったものはない。
なんというか、不自然に静まり返っている。
それから5分くらい進むと、ひらけた場所に出た。
いわゆる狩場だろうか。
いや、冒険者は誰もいないし、戦った形跡も無い。
だけどなんだろう、この場所だけ魔素がやや濃い。
そして違和感がある。
広場には2箇所ほど植物が生えており、そこに魔素の集まった葉が付いている。
薬草だ。
1つの植物には1つだけ薬草の葉が付いており、僕はそれを採取した。
!!
なんだこれは。
薬草の葉を1枚採取すると、植物は茎から萎れる。
植物は茎からしおれて、茶色になり、枯れていった。
採取した薬草の葉はそのままだ。
もう一つの植物の方も、薬草の葉を採取すると、同じように茎から萎れる。
明らかに普通の植物ではない。
とりあえず、薬草は2枚採取できた。
それから辺りを観察してみると、30cmくらいの芋虫が出てきた。
おぉ、初魔物だ。
ラオペとかいうヤツだろう。
グルグルと転がってこっちに向かってくる。
ボムッ!
こいつも突進だ。
落ち着いて攻撃をかわす。
ホーンラビットよりも遅い。
問題なくかわすことができるし、かわしたタイミングで反撃もできそうだ。
ボムッ!
続けて突進してくる。
そうだった。
こいつら魔物は何故か親の敵のように僕を攻撃してくる。
これも難なくかわす。
どうしようか。
倒してしまうのが勿体無い気がする。
次の突進は盾で受け止める。
ドスッ!
突進の威力もホーンラビットより低い。
ただしそれなりに重量があるから、踏ん張って盾を構えないとふっ飛ばされるだろう。
恐らく魔物としては最弱クラス。
でも僕の耐久が低すぎるから、しっかり構える必要がある。
やっぱりすぐ倒すのは勿体無いな。
最近はホーンラビットもしばらく攻撃をかわして俊敏を上げてから倒していた。
今回の最大の目的は耐久だ。
あとは盾の扱いにも慣れておきたい。
僕はラオペの突進軌道をよみ、しっかりと盾を構える。
今のジョブは【盗賊】で俊敏に補正がかかっていることもあり、連続突進でも落ち着いて盾を構えることができている。
ドスッ!
盾を使って受け止める。
しばらく僕は、盾を使って受け止めたり、かわしたりしていた。
5分くらい経っただろうか。
ゴソゴソ!
奥のほうからラオペがもう1匹出てきた。
いや、さらにもう1匹いる。
2匹が出てきて、合計3匹になる。
ちょっとヤバい。
僕は、2匹が近づく前にラオペに短剣で攻撃する。
「【ガウジダガー】!!」
SPも消費しておいたほうが良いだろう。
バシュッ!
最初の1匹が吹っ飛ぶ。
続けて2匹が連続で突進してくるが、それを連続でかわす。
さらに最初の1匹が突進。
これは盾で受け止める。
よし、3匹同時相手でもできるな。
ただし、これ以上はヤバい。
僕は3匹の攻撃をかわしたり、盾で受け止めたりしながら反撃をした。
さらに【ガウジダガー】を3発ほど使う。
3匹とも倒すのにだいたい10分くらいかかっただろうか。
ラオペは【ガウジダガー】で2発、通常攻撃で15発くらいで倒せた。
装備の影響が大きい。
カルディさんに借りていた短剣よりも、リーチが長く攻撃がしやすい。
特に攻撃をかわしたあと、カウンターで攻撃するときにこのリーチの差は大きい。
さらに頭の中に何度か
バツン!
と響き渡った。
恐らくクリティカルヒットだろう。
クリティカルヒットは、スキルの場合スキルレベルによって発動頻度が変わるそうだ。
今の僕は【ガウジダガー】レベル0だから、【ガウジダガー】でのクリティカルヒットは出たことがない。
通常攻撃のクリティカルヒットは器用さ依存なんだろうと思う。
器用さは短剣、弓、突剣で上がると前にカルディさんが教えてくれた。
それからHPもほとんど減っていないだろう。
確認してみる。
HP:73/73
かわした分はもちろん、盾で受け止めたのもノーダメージだったのか。
まぁ痛みは全くなかったからそうなるか。
しかし、この芋虫の魔物ラオペは素材の価値は無い。
ホーンラビットとは違い、いくら倒してもお金にはならない。
金銭的に言えば、治療所がいかに優れていたかがわかる。
そして、ステータスを確認したが、何も上昇していなかった。
3匹くらいでは何も上がらないのか……
呼吸を整えていると、さらにラオペがやってきた。
やっぱりここは狩場なんだろうか。
魔物がどんどん集まってくる。
とりあえず、次が来ると厄介なので倒しておく。
ん?
おかしい。
何か違和感が……
そうだ。
魔物の死骸がさっき倒したものしか無い。
どういうことだ?
僕は周りを警戒しつつ、魔物の死骸を観察する。
……気持ち悪い。
魔力を目に集中して観察してみると、魔物の死骸から魔素が抜けていっている。
そして、抜けた魔素の一部は薬草がついていた枯れた植物へ流れていった。
これって、ここで狩り続ければ、薬草がまた復活するんじゃないのか?
それから魔素が抜けきると、魔物は土のような粉になってしまった。
あぁ、なるほど、だからこの場所には魔物の死骸が無いのか。
だとすると、ホーンラビットはどうなるんだ?
こうなる前に素材回収をしろってことかな?
◇
それから僕は1時間位ラオペを狩り続けた。
12匹のラオペを仕留めた。
耐久が1だけ上がったので、そのタイミングでここの狩りをやめる。
ほとんどダメージはないけど、盾で受け止めていた分耐久が上がったのだろう。
HPは全く上がっていないので、HPのほうはやはりダメージを受ける必要があるな。
そして僕の予想通り、狩りの途中で薬草が復活した。
2枚ほどの薬草を採取する。
1時間戦って4枚の薬草。
40セペタにしかならない。
せめて素材が売れる魔物ならいいのに……
この狩場は、ラオペしか出てこないのか。
もう少し奥へ行ってみよう。




