164日目 異世界 前編
「どうぞ、上がってください」
上品な女性が玄関で出迎えてくれる。
タンチさんの奥さんだ。
「失礼します」
僕とローシュさんは、タンチさんの自宅へ入る。
第六戦線での狩りがひと段落した。
これからは騎士団と共に訓練をし、それから外界へいく予定だ。
お世話になったタンチさんに挨拶をしに来た。
「どうぞ」
リビングのテーブルに腰掛けると、奥さんが紅茶のセットを出してくれる。
「ありがとうございます」
「騎士の方もどうぞ」
「いえ、私は護衛ですので」
ローシュさんは相変わらず立ったままである。
自宅の中でも護衛という徹底ぶりだ。
「もうすぐ降りてくると思いますよ」
奥さんはにこりと微笑み、教えてくれる。
「はい」
それにしても、タンチさんには似合わない家だ。
木の温もりが感じられるログハウスに、整頓された家具。
白やピンクが多く、少し可愛らしい。
奥さんの趣味だろうか。
ん?
掛けてあるローブ、置いてある杖。
魔法系の装備だ。
タンチさんは使わないよな。
奥さんのだろうか。
「ったく、だから家までくるんじゃねぇよ」
タンチさんがのそのそとやってくる。
「あなたはコーヒーでいい?」
「あぁ」
「おはようございます!」
僕はタンチさんと目が合うと挨拶をする。
「朝からうるせぇんだよ」
タンチさんは小言をいいながら、椅子に座る。
「タンチ様、既に中央から連絡があったかと思いますが、我々の第六戦線での狩りは終了になります」
ローシュさんが早速本題に入る。
「知ってるよ……」
「短い間でしたが、お世話になりました」
僕は立ち上がり、タンチさんにお辞儀をする。
「あぁ、まぁたいして世話もしてねぇけどな」
タンチさんは苦笑いで答えてくれる。
「いえ、いろいろ勉強になりました」
僕が習得できたものはそれほど無いが、罠スキルの知識を得ることができた。
「そんで、これからどうすんだ?」
「騎士団の方々と訓練をするみたいです」
「ほぉ……それじゃ、外界へ行くのか?」
「そうです」
「ったく……どいつもこいつも……」
タンチさんの表情がみるみる不機嫌になっていく。
「ほかに誰か外界へ行ったんですか?」
タンチさんの発言から、そのような予想がつく。
「………………」
タンチさんはふてくされている。
「ごめんなさいね。私たちの息子のことなんです……外界へ行ったわけじゃないんですけど」
「………………」
「息子さん……ですか?」
またもや意外だ。
タンチさんと初めて会ったとき、昼間から酒場で飲んだくれていた。
奥さんがいたことにも驚いたが、子供がいるとは……
「えぇ。ほら、あれです」
奥さんは、部屋にあった魔法使い用のローブを指さす。
「あれは息子のものなんです。
息子には【罠師】の適性があったんですけど、【僧侶】にも適性があって上がりやすかったの。
それで、俺は【僧侶】を極めるんだって」
「ケッ……雑魚【僧侶】が罠をバカにしやがって」
「それで、タンチと揉めて出て行ってしまったの。
ちょうど、あなたくらいの歳だったんですよ」
奥さんはにこりとこちらに微笑む。
それで僕が外界へ行くことに否定的だったのか。
いやいやいや、本当に1話だけでも。
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