162日目 異世界
「アンティさんですか?」
「そうだ」
僕は今中央東、シトン様の前にきている。
シトン様にアンティさんについて聞かれている。
「そうですね。知り合いは知り合いなんですが、詳しくは知らないんです」
僕はアンティさんとの経緯をシトン様に話す。
以前賊に誘拐されたときの話だ。
「そうか……」
「でもどうしてアンティさんのことを知りたがるんです?」
「ふむ……もっともな疑問だな。まぁヤツは人を殺し過ぎだ」
多く殺しすぎたから、中央東としてもある程度把握しておきたいってところだろうか。
「そ、そうなんですね……あんまり悪い人には見えないんですけど」
「まぁヤツの殺しはいずれも正当性がある」
「あの、ローシュさんと知り合いのようでしたけれど、僕に聞くよりローシュさんのほうがいいんじゃないですか?」
「いや、ローシュからはすでに話を聞いている」
「やっぱり知り合いだったんですね。ローシュさんはアンティさんのことを無視してましたけど……」
「そうだな。ローシュとアンティは同郷だ」
「ちょっと険悪でしたけど、過去に何かあったんですか?」
「それは本人たちの口から聞くがいい。私からはなんとも言えんな」
それ、絶対何かあるリアクションだよな。
本人たちに聞いてもいいものだろうか。
「ほかに何か、気になることはなかったか? 小さなことでも構わない」
小さなことか。
なんだろう。
「そうですね。やっぱりめちゃめちゃ強いですよね」
「だろうな」
「昨日聞いた【めった刺し】というスキルも、アンティさんは知っていました。というより習得していましたね」
「ほぅ……」
「あとは、ジーンとクラール、僕のパーティメンバーなんですが、アンティさんは力を抑えて戦っているように見えるって言ってました」
「なるほどな(確実に何かあるな)」
「どうして第六戦線にいるのかもわかりません。聞いてみますね」
「まぁ、そうだな……いや、無理には大丈夫だ(下手に警戒されても困るしな)」
微妙なリアクションだな。
本人には聞かない方がいいんだろうか。
本日も第六戦線にやってきた。
「魔鉱石の【金属精錬】が上手くいかないんですよね」
「そりゃな。【金属精錬】のスキルレベルも器用のステータスも相当必要だろ」
タンチさんと罠を設置中だ。
「器用のステータスについては、このまま罠を設置していけば上がっていきそうですよね」
「まぁな。にしても、お前【錬金術】までやる気か?」
「はい。せっかく習得してるんだし、自分でやった方がいいかと思って」
「たまにいるんだよな、お前みたいなヤツ。全部自分でやりたがるんだ。他に任せた方が効率いいのによ」
まぁ確かにある程度人に任せた方が効率がいいかもしれないが、僕の場合はちょっと違う。
日本でMPが使い放題だから、自分でやった方が後々効率が良くなるはずだ。
「あの、洞窟の中までお酒を持ってくるのはどうなんですかね?」
タンチさんは、酒瓶を持って洞窟内に来ている。
「これ、うめぇぞ。飲むか?」
タンチさんは誇らしげに酒瓶をこちらに向ける。
「いや、いいですよ。わざわざ洞窟内で飲まなくたってこの後酒場で飲むじゃないですか」
「バカ野郎、狩場で飲む酒はまた味が違うんだよ」
「今日からちょっと場所変えるぞ」
「そうなんですか?」
「俺は減速系なんかの妨害系の罠にする。全部だ。そんで、お前の鬼畜トラップで魔物を仕留めろ」
「鬼畜トラップって……わかりましたけど」
「いいか? 今日からこの狩場は採掘メインになる。これまで前衛は、俺たちの罠で弱った魔物を倒してた。けど、今日から前衛は採掘組の護衛になるわけだ」
「なるほど。だから僕たちの罠でできるだけ仕留めるんですね」
「そうだ。だから、奥には行きすぎないように設置する」
「了解です!!」
◇
「あの、ローシュさん」
「はい」
罠を設置し終えた僕たちは、いつものようにギルドの酒場へ来ている。
「今日は少しお話ししたいので、一緒にどうですか?」
「はい。では、ここで」
ローシュさんは立ったまま座ろうとしない。
まぁそうなるよな。
タンチさんに言われたときも護衛といって頑なに座ろうとしなかったわけだし。
「アンティさんとは知り合いなんですか?」
「………………」
ローシュさんは何も答えてくれない。
「おい、なんとか言えよデクの棒」
「………………」
タンチさんが強めに言うが、ローシュさんは答えてくれない。
「いや、あの、話したくなければ別にいいんです」
「狭間様は、外界へ行くためにここへいると聞いております。間違いありませんか?」
ローシュさんはタンチさんを無視してこちらに話しかけてくる。
「そうですね」
「では、お話ししておいた方が良いかもしれません」
「おい。俺は席外した方が良さそうだな」
タンチさんが空気を読む。
実はこういうときに気を遣える人なんだよな。
「いえ。別に隠しているわけではありませんので、問題はございません。聞きたくなければ席を外せばよろしいかと」
「あぁ、じゃぁ続けろよ。移動すんのもめんどくせぇし」
ローシュさんは僕の方を向く。
「私とアンティは同郷です。スカンジという街の出身です」
「みたいですね」
それはシトン様から聞いている。
「おい、スカンジってお前……」
タンチさんは何かを察したのだろうか。
「はい。すでにその街はありません」
「20年ほど前、私とアンティを除く全ての人間が殺され、街は消滅しました」
「!!」
「消滅した街ってのはただの噂だと思ってたぜ」
タンチさんはスカンジについて少し知っていたようだ。
街が消滅するなんて、そんなことあるんだろうか。
本当だとしたら、ローシュさんは家族も含めて殺されてしまったのだろうか……
「私は街にいなかったので、たまたま助かったのです。ですが、アンティは違います」
「アンティは、街の人間が殺されたところを見たのでしょう。街に戻ろうとしている私を制止しました」
「「……………………」」
「彼はひどく震えていました。
そして私と彼は、街を滅した者に復讐をしようと、共に強くなろうと誓ったのです。
しばらくの間は共に修行に励みました。しかし……」
これまで眉一つ動かさなかったローシュさんの表情が曇る。
さすがに感情が出ているのだろう。
「アンティは、突如姿を消しました。そして、数年後に『賊殺しのアンティ』となって再び戻ってきたのです。
それも、圧倒的な強さで。
私はアンティが姿を消してからも鍛錬を怠っていません。
しかし、明らかに差が広がっていました。あの強さは異常です。
私は彼に再開したとき、問いただしました。
何をしていたのか、どうやってそれほど強くなったのか、どうして突然姿をけしたのか。
アンティは『復讐を終えてきたから、お前はもう好きなことをしろ』何を聞いてもそれしか言わないのです。
一体何があったのか、なぜスカンジは滅ぼされなければならなかったのか。
私には、何もわからないのです……」
「「…………………」」
それでローシュさんは、アンティさんを無視していたのか。
何を聞いても教えてくれないアンティさんに怒りをぶつけていたのだろう。
「私は現在も中央東で情報を集めています。狭間様やタンチ様がなにかスカンジについて、アンティについてご存知のことがありましたら、教えていただきたいです」
「俺はお前が知りたがってる情報は持ってねぇな。スカンジの話だって噂だと思ってたからな」
「すみません、僕も初めて聞いた町の名前でしたし、アンティさんについても謎が多い人だとは思いますが、それ以外はなにもわかりません」
シトン様がアンティさんの情報を集めているのは、ローシュさんのことも考えているからなのだろうか。
しかし、それは僕が外界へ行くことに何か関係しているのか……?
新作始めました。
1話だけでも読んでください。
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