160日目 異世界
「え?」
「いや、だから【魔導合成】すればいいんですよ」
今中央東の錬金棟に来ている。
「それだけですか?」
「そうだよ、知らなかったのかい?」
「はい……」
質の低い魔法が入った魔石について、どうすれば良いか聞いていた。
現状僕が使っている魔石がそれだ。
僕は日本で、地下室の換気をするために、【風魔法】の入った魔石を設置した。
その際に作成した魔石で、風が強過ぎたり、弱過ぎたりするものを処分しようとしていた。
それに、今使っている【ハイリカバリ】の魔石についても、いずれ処分の対象になると思っていた。
なぜなら、【魔導命令】のレベルが低いために、普通に使った時の4割程度しかSPが回復しないからだ。
器用のステータスももう少し上げれば、魔石の質が上がる。
今日本では、器用さが爆上がりしており、さらに【魔導命令】のレベルも上がっているので、現状使っている魔石についてはそのうち使わなくなる予定だ。
それをどうしようか錬金棟の局長に聞いていた。
「あの、魔法が入ってますけど」
「合成すれば消えるよ」
「そ、そうなんですね」
なんてこった。
単純に合成すれば、中の魔法は消えるのだ。
「キミ、相変わらず知識の偏りがひどいね」
「あはは……よく言われます」
だって知らないんだもん。
◇
「【ホーリービジュア】」
本日中央東に来たのは、こっちが目的だ。
ロゲステロンさんの足を完全に回復させる。
「あの、ロゲステロンさん」
「なんだ?」
僕は前々から気になっていたことを聞いてみる。
「ロゲステロンさんほどの人が、これほどまでに負傷するって一体何があったんですか?」
ロゲステロンさんは強い。
それこそ僕がフル補助、全力で【魔影装】を使ってもダメージを与えられないレベルだ。
そのロゲステロンさんが、腕や足を失うというのは、なかなか想像できない。
「それが……まぁ、誰にでも話していい内容じゃないんだ」
「そうなんですか」
そもそも僕がここでロゲステロンさんを回復していること自体が極秘だったりする。
しかし、怪我をした状況を話せないってどういうことだろうか。
「狭間くん、キミは外界へ本当に行くのか?」
シトン様に聞かれる。
「もちろんです。そのために第六戦線に行っているわけですし」
「ならば、知っておいた方がいいだろう」
シトン様がロゲステロンさんのほうを向き、ロゲステロンさんがうなずく。
「その前に、外界でのこともそうだが、今から話す内容は誰にも言ってはならない。
いいな?」
「はい!」
「この傷は、外界で負ったものだ」
ロゲステロンさんは、僕が回復した足をぐりぐりと動かしながら言う。
「人面……人面の魔物を見たらすぐに逃げるんだ」
「じんめん……ですか?」
「あぁ、そうだ。外界にはおかしな魔物がいてな。
俺が出会ったのは、大きな虎の魔物、それも顔が人間のな」
「人間の顔をした魔物……」
想像してみると、気味が悪い。
「圧倒的だった。
俺たちを一通り観察すると、部隊を半壊させて去っていった。
きっちり半壊だ。
死んだ人間はちょうど半分……まるで、数を数えてたみたいにな」
「…………………」
「どうだ狭間くん、外界へいく考えを改めないか?
キミならこの中央東でも、貴重な戦力になれる。
(こいつはここにいた方が良い)」
シトンさまが提案してくれる。
「いえ……そんなに危険なら、尚更力になれると思います。
【空間魔法】がありますので、危険な魔物が出たらすぐに撤退を促せますし」
「まぁ遺跡調査だけだろ?
狭間ならそこそこ強いし、変なところに行かなければ大丈夫だとは思うが……」
「もちろん、行動範囲は指定させてもらう。
【聖騎士】の部隊に入れてもらう予定だからな。
(こいつを聖騎士の中に突っ込むのも面白そうではあるな)」
「でもどうして外界の魔物が強いことが秘密なんですか?」
危険な魔物がいるなら、広く知ってもらった方がいいのではないだろうか。
シトン様とロゲステロンさんは再び顔を向き合わせる。
「…………………」
シトン様が目を細めている。
「まぁ、あくまでも仮説なのだがな……不自然なのだ」
「不自然というのは強さが?」
「いや、人面の動きだ。
まるで……人間を外界に出さないような……」
シトン様は言葉を選んで話している。
「さっき狭間はそれほど危険じゃ無いって話をしただろ?」
「はい……」
「人面は、人間が外界のある一定区画に入ってくるまで攻撃してこない」
「なるほど……でも、それならなおさら秘密にせずに注意喚起するべきでは?」
「いや……この話は終わりだ。
いいか、狭間くん。
人面のことは【聖騎士】の人間や外界に行く人間しか知らないことだ。
基本的に、許可なく外界へ行ってはならない。
自殺行為だからな」
「はい……わかりました」
納得のいく答えでは無いが、外界には何かがあるのだろうか。
◇
【バラシ屋:Lv0】New
【解体:Lv0】New
【めった刺し:Lv0】New
本日もタンチさんと食事中に新しいジョブ、スキルを習得した。
習得したジョブとスキルについて、タンチさんに報告する。
「だから、なんで【罠使い】でレベル上げてんのに意味のわかんねぇジョブになってんだよ」
「いや、それは僕に言われても……」
マジで僕に言われたところでわかならない。
「タンチさんは【バラシ屋】というジョブはご存知ないんですか?」
「知らねぇよ。初めて聞いたぞ」
タンチさんは眉間にシワを寄せながら、肉をかじる。
「それにその【めった刺し】とかいうスキル、おそらく前衛のもんだろ?」
「多分そうですね」
「だから、なんで罠作ってんのに前衛のスキル覚えてんだよ」
「いや、だからそれを僕に言われても……」
「ったく、おい!! デクの棒!!」
タンチさんが大きな声でローシュさんを呼ぶ。
「……………………」
ローシュさんは返事こそしないがこちらへやってくる。
「【バラシ屋】ってジョブ知ってるか?」
「いいえ」
「【めった刺し】ってスキルは?」
「いいえ。存じません」
「だとよ。中央東の【聖騎士】様もご存知ねぇってよ」
「そうですか……」
「おい、補正はどうなってんだ?」
「はい。今までにない特殊な補正ですね」
僕は【バラシ屋】のステータス補正を確認する。
SP +200
力 +10
技 +30
器用 +50
神聖 ー100
恐ろしく神聖が下がるな。
それに、技と器用に大きな補正が入っている。
タンチさんに一通りの補正を教える。
「なんなんだよそりゃ」
「生産系なのか、前衛なのかいまいちわからないジョブですね」
「あれ?」
なんだろうかこの違和感は……
「なんだよ?」
タンチさんが聞いてくる。
「これ、レベル上がってますよ」
罠だ。
罠で【バラシ屋】のレベルが上がっている。
「はぁ?」
「てことは、【罠使い】の系統ってことですよね?」
「おいやめろよ、気色悪りぃ」
「タンチさん、それひどくないですか……」
「いや……すまん……」
あ、タンチさんが謝った。
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