42日目(異世界)
今日もギルドでホーンラビットを受け取ったあと、道具屋へ来ている。
カルディさんにジョブのレベルについて聞いてみる。
「昨日【見習い聖職者】のジョブを得ました」
「おぉ、それは素晴らしい!
素晴らしいペースでしょう」
カルディさんが背筋をピンとしたまま拍手してくれる。
「ありがとうございます。
ジョブは基本的にステータスを補正するもの、という認識であっていますか?」
カルディさんが、メガネをカチャリと持ち上げる。
「そうですねぇ、その認識は間違っていません。
ただし、それだけではなく、成長補正もあるのではないか、と言われています」
「成長補正……ですか」
「えぇ、例えばジョブ無しで【マイナーヒール】を撃ち続けるよりも、【見習い聖職者】のジョブで【マイナーヒール】を撃ち続けたほうが、ステータスの上がりが良いのではないか、というお話です。
これは、あくまで体感的な話です。
ステータス成長は個人で大きく異なりますから、はっきりとした事実ではありません」
「なるほど」
成長補正か。
ありそうだな。
【見習い聖職者】のまま戦っても、力とかは上がりにくそうだ。
「では、ホーンラビットと戦うときは、一応【見習い聖職者】のジョブは外しておいてください」
「ぇ? ジョブは外せるんですか?」
「えぇ、任意で外したり、他のジョブに変えたりできますよ」
「やってみます」
【見習い聖職者:Lv0】
カチャリ
【ーーーーー】
「ぁ、できました」
「ただし、とどめを刺すときには、また【見習い聖職者】のジョブをセットしてください」
「そうなんですか?」
「はい、ジョブレベルはモンスターを倒した分だけ上がっていきます。
パーティを組んでいれば、パーティで倒した分だけジョブレベルが上がっていくんです。
ですから、ジョブを外してステータスを上げ、ジョブをつけてとどめを刺し、ジョブレベルを上げれば効率的です」
「なるほど、ありがとうございます。
ちなみに、ジョブのレベルが上がると、補正値が上がるんですか?」
「その通りです。
ジョブレベルが上がると、補正ステータスがあがります。
あとは、ジョブ固有のスキルを得ることもあります」
「ジョブ固有のスキルもあるんですね」
「これも、そのジョブに就いていれば必ず覚えるというわけではなく、個人差がありますね。
あとは、ジョブレベルが限界まで上がると上位のジョブが出てくることが多いですね」
なるほど、勉強になるな。
ステータス強化について、まとめておかないと。
・HP、MP、SPは使った分だけ最大値が上がっていく
・MP<HP<SPの順に最大値が上がりやすい
・神聖以外のステータスは、魔力を持った生物と戦うことで上昇する
・魔力を持った生物は、主に魔物だが人間も含む
・相手が強ければ、強いほどステータスは上がりやすい
・神聖は、【回復魔法】で傷を癒やすことで上がっていく
・【回復魔法】では、神聖ほどではないが、魔力も上がる
・ステータスが上がると、ジョブやスキル、魔法を習得する
・スキル、魔法は使用回数でレベルが上がる
・ジョブレベルはモンスターを倒した分だけ上がっていく
・ジョブレベルは強力なモンスターを倒すほど上がる
・ジョブレベルを最大にすると、上位のジョブを取得することがある
基本的にはこんなものらしい。
例外として、急にジョブやスキル、魔法を習得することもあるらしい。
それが戦いの中でもあり得るし、日常生活でもあるようだ。
普通に生活してて、新しいジョブが得られることなんて無さそうだけど……
「それで、昨日得たジョブは【見習い聖職者】なんですね」
「そうです。
【僧侶】とは違うんですか?」
「そうですね、名称は違いますが、ステータス補正は誤差の範囲ですよ。
同じように魔力と神聖のステータスを上げていて、【見習い聖職者】のジョブを取得する人もいれば、【見習い僧侶】のジョブを取得する人もいます」
「回復職だけでもいろいろあるんですね」
「そうですねぇ。
【見習いヒーラー】は魔力と神聖が他の回復職より上がりますが、その他のステータスはかなり下がります」
「なるほど、パーティ向きですね」
「そうです。
ですから、パーティを組んだままステータス上げをすると【見習いヒーラー】のジョブを得ることが多いそうです」
なるほど、ソロ狩りをしていれば、ステータスがソロの方向へいくわけか。
とりあえず、ここで鍛えるステータスは力、俊敏、器用だな。
魔力や神聖は治療所と病室で上げよう。
今日もホーンラビット2匹を短剣で仕留める。
言われたとおりに、とどめを刺すときは【見習い聖職者】をセットする。
【ガウジダガー】も2発ほど撃っておいた。
その後いつものように治療所へ向かう。
そういえば、昨日変なのに絡まれたんだった。
今日は来るなよとか言われたけど、無視して行こう。
回復量、速度共に上がっている。
昨日は地雷と言われたけれど、現状を見てもらえればわかってくれるだろう。
【回復魔法】を使っていると、やはり今日もあの少年たちがやってきた。
こうも人が多いのに何故かお互いに気がついてしまう。
クレスが僕をにらみつける。
昨日あれだけ忠告したのに、という感じだろう。
丁度いい、このまま見てもらえれば、回復速度が上がっていることを理解してもらえるだろう。
僕は、【マイナーヒール】を使い、淡々と回復していく。
今日の収入は460セパタだ。
MPはそれほど大きく上昇していないが、神聖が上がっているから収入もやや増えた。
よしよし、順調に収入が増えたら、ホーンラビットを3匹にするのもいいかもしれない。
いや、装備を整えてクエストに出るのもいいな。
まだ早いかな?
僕は満足して、ギルドに挨拶をして帰る。
辺りはもう暗い。
7時くらいだろうか。
異世界の人たちはもう寝る時間だ。
!!
バコッ!
ズッザァー!
背中に大きな衝撃が走る。
僕は進行方向にふっ飛ばされ、地面をスライドする。
一体何だ?
何が起きているかわからずに、辺りを見回すと、クレスとかいう少年がいた。
「おい、昨日忠告しただろ?」
「え?」
ドスッ!
今度はお腹に衝撃がある。
立ち上がる間もなく、クレスに腹を蹴り上げられる。
「がはっ!!」
口から血が出る。
呼吸が苦しい。
ただの蹴りで相当のダメージをもらっている。
ミューロとかいうやつと魔法使いと思われる少年が後ろでニヤニヤしている。
やばいな、耐久力が低すぎるんだ。
俊敏もマイナス補正がかかっているから、蹴りの軌道を見ることもできない。
【見習い聖職者:Lv0】
カチャリ
【ーーーーー】
僕はジョブを無しにする。
見習い聖職者は耐久が0だ。
耐久が5になったところで、焼け石に水かもしれないが、何もしないよりはいいだろう。
それよりも、俊敏を上げておきたい。
ガッ!
僕は手をついて立ち上がろうとすると、髪の毛を掴まれ、引っ張られる。
「あのさ、わかる?
昨日来んなっつったろ?」
「……君も見ただろう。
僕の【回復魔法】は、あの治療所ではもう普通だ」
「ぁ?」
メキッ!
顔面にパンチがめり込む。
「がはっ!」
今ので歯が何本か欠けたな。
鼻からも口からもボタボタと血が落ちる。
今のパンチは見えたか?
これが、冒険者の攻撃か……
少しでも攻撃を見ておきたいんだけど。
「知らねぇよ」
バキッ!
もう一発顔面にパンチが入る。
「おい、そのへんしとけよ、それ以上だとヤバいだろ」
ミューロが止めに入る。
「クソ地雷が、思い知ったか!
ペッ!」
僕はクレスに肩を踏まれ、つばを顔面にはかれた。
「いや〜スッキリしたわ、飲みに行こうぜ!」
「にしても、あいつ耐久なさ過ぎだろ、やっぱそこら辺のガキ以下だぜ」
「クレスのパンチが強すぎんだよ」
彼らはご機嫌そうに去っていった。
…………
顔と腹、背中に痛みが走る。
今日は治療所でMPをほとんど使ってしまったため、回復ができない。
なんだろう不思議な感覚だ。
これほどバカにされ、痛めつけられたのに彼らへの怒りがまるで無い。
あれ?
僕はそんな人間だったか?
ドックン!
ドックン!
心臓の鼓動が激しい。
顔面が燃えるように痛い。
骨もいくつか折れてるだろう。
怒りはないけど、不思議な高揚感がある。
クレスの最後のパンチが見えた。
彼は僕の髪を掴んだまま、腕を後ろに引いた。
その状態だと、パンチの軌道が予測できる。
俊敏の上昇もあってか、パンチの軌道がはっきりと見えたんだ。
そうか、僕はパンチの軌道が見えた。
たったそれだけのことが嬉しかったんだ。
ただの蹴りとただのパンチ。
ステータスでこうも違うのか。
素晴らしい……
素晴らしいよ……
格上相手に戦いとも言えないくらい打ちのめされた。
ステータスの確認をしなくても分かる。
体感で分かる。
ステータスが上昇している。
顔以外ならあと2発は耐えられるな。
もっと、もっとだ!
そうだ!
明日からは、耐久とHPを上げよう!
そうすれば、もう少し攻撃に耐えることができる!
彼らに絡まれれば、僕はまた強くなれる……
カチャリ
狭間圏
【盗賊:Lv0(New)】
HP:11/51(↑+2)【盗賊:+10】
MP:21/230【盗賊:ー20】
SP:2/4(↑+1)【盗賊:+20】
力:14(↑+1)
耐久:9(↑+4)
俊敏:20(↑+3)【盗賊:+10】
器用:9(↑+1)【盗賊:+10】
魔力:17【盗賊:ー10】
神聖:23(↑+1)【盗賊:−10】
【魔力操作:Lv11】【炎魔法:Lv6 ファイアボール:Lv0】【風魔法:Lv21 エアカッター:Lv7】【水魔法:Lv1】【回復魔法:Lv10 マイナーヒール:Lv16(↑+1)】【体術:Lv1】【短剣:Lv2(盗賊:+5) ガウジダガー:Lv0】【炎耐性:Lv0】
 




