155日目 異世界 後編
「おい小僧、終わったか?」
しばらくすると、タンチさんが戻ってくる。
「いえ、もう少し時間がかかります」
「ちんたらやってんじゃねぇよ。
サボってたんじゃねぇだろうな」
「違います。
狭間様は【リカバリ】が使えるのです。
SPを回復しながら【トラバサミ】を発動しているのです」
ローシュさんがフォローしてくれる。
「ほぉ……(あの位置からここまで【トラバサミ】を設置してきたってことか?)
おい小僧。
【トラバサミ】はいくつ設置できたんだ?」
「わかりません。
1000個はいってないと思うんですが……」
「はぁ!?」
タンチさんは驚き、ローシュさんの方をみる。
ローシュさんは無言でうなずく。
「確認してみりゃわかるこったな」
タンチさんはそう言うと、天井に何かを放り投げる。
バゴッ!
あれは魔石か?
タンチさんが投げたものは天井にめり込むが、暗くてよく確認できない。
「よし、帰るぞ」
「はい」
◇
洞窟の外に出ると、冒険者たちが装備の手入れなどをしている。
これから魔物が増える時間ということだから、準備をしているのだろう。
ショーンとクラールもこれから洞窟へ入るということか。
僕とタンチさん、ローシュさんは逆に洞窟から出て、木製の建物へ入っていく。
ギルドだ。
少し大き目のテーブルへ座る。
タンチさんは、軽く手を上げて店員さんを呼ぶ。
「これとこれ、あとは適当なツマミを頼む。
お前らも頼め。
おい木偶の坊、どうせシトン様から金が出るんだろ?」
「はい。報酬はきちんと支払わせていただきます」
タンチさんにローシュさんが答える。
そうか。
シトン様からタンチさんへの依頼だもんな。
「じゃあ酒を頼めよ」
「お酒飲むんですか?」
「当たり前だろ」
「でも狩りってこれからですよね?」
「俺のような【罠師】はもうやることなんてねぇんだよ。
おい木偶の坊、お前も飲めよ」
「いえ。私は護衛がありますので」
「ケ、つまんねぇ野郎だな。
おい小僧、お前は飲むんだろ?」
マジかよ。
ローシュさんが飲まないなら僕が飲むしかないだろう。
「はい。じゃあいただきます」
◇
ほどなくして料理とお酒が運ばれてくる。
「お疲れ様です」
飲み物が運ばれてきたので、僕が乾杯をタンチさんに促す。
「おい、木偶の坊。座れよ」
タンチさんは、ローシュさんを座らせようとする。
料理と飲物が運ばれてきたが、ローシュさんは僕の後ろで立ったままなのだ。
「いいえ。私は護衛がありますから」
「ふざけんな……おめぇみてぇなのが突っ立ってたら酒がまずくなるだろうが。
座れよ」
確かに、僕も食事をしにくい。
「お酒を飲まなくても、せめて座って一緒に食べません?」
僕もローシュさんに座るように言う。
「いえ。護衛の任務がありますから」
マジか。
頑なだな。
ここで立たれたままだと、正直食べにくい。
「では、私は少し離れていましょう」
ローシュさんは空気を読んだのだろうか。
立ったまま離れた位置に移動しようとする。
「おい。座れよ」
しかし、タンチさんも引かない。
「何度も言いますが、護衛がありますので」
「雑魚騎士が……お前は座った程度で護衛ができなくなるのか?」
タンチさんは、フォークをローシュさんに向けて言う。
「……………………」
しかし、ローシュさんはタンチさんを無視し、後方へ移動する。
「ケ、勝手にしろよ」
ゴトッ!
タンチさんはテーブルの上に、大きな球形のアイテムを置く。
水晶玉のようなものだ。
「こいつを見な。
そろそろ魔物が出てくんだろ」
「おぉ!! 洞窟の中が写ってますね!!
魔導具ですか!?」
水晶玉の中には、洞窟内部が写っている。
上から見ている映像だ。
「おぅ、見るのは初めてか?」
タンチさんは苦笑いしながら聞いてくる。
あれ?
てっきり、うるせぇ黙って見とけとか言われると思った。
「はい! これってさっき洞窟の天井に投げていたものですか?」
「そうだ。
よくわかったな。
俺が投げた魔石が天井にめり込んでる。
そこから見たものがここに映し出されるわけだな」
「それは凄いですね」
遠隔のカメラのようなものだ。
「これを見ながら酒を飲むのがうめぇんだよ」
タンチさんはグラスをこちらに向けてくる。
「あ、お疲れ様です」
僕はグラスをタンチさんに向け軽く乾杯する。
これで良いんだろうか?
仕事の後上司と飲むとしたら、こんな感じなのかな?
「おい小僧、ジョブは【見習い罠師】にしとけよ」
「はい。そうですね」
ジョブは【見習い罠師】のまま変えていない。
ここでジョブレベルを上げておけってことだろうか。
「いいか、罠に敵をハメるときにジョブ経験値が入る。
その経験値は遠方、たとえ狩り場にいなくても入るってわけだ。
ま、つまりここでも経験値が入る」
「えぇ!! 本当ですか!?」
それが本当なら凄いことだ。
ここで飯食ってレベルが上がるってことか?
「ただし、罠によるジョブ経験値は、【罠師】系のジョブでしか入らない。
今他のジョブに変えたところでその経験値は取得できないわけだ」
「なるほど。勉強になります」
「何が勉強だよ……」
タンチさんはそう言いながら、お酒をグビッと飲む。
そして、タンチさんが水晶に触れ、指を動かすと、映像も横にスライドする。
「おぉ! これって、周りも見えるんですか!?」
「そうだ、見りゃわかるだろ」
先程からタンチさんは、セリフとは裏腹に苦笑いをしている。
「小僧、そろそろ来るぞ。よく見とけ」
「はい」
水晶の奥の方から魔物がぞろぞろと出現してくる。
「うわ……凄い数ですね」
「まぁな。毎日これじゃ、人間なんて住めたもんじゃねぇよ」
素早い魔物が先行してくる。
狼系の魔物だろうか。
ところが、途中で極端に速度が落ちる。
「これってタンチさんの?」
「そうだ。だいたい最初に来る魔物は動きが速いヤツだからな。
地面に【とりもち】って罠をしかけてある。
【とりもち】に威力はほとんどねぇが、魔物の足に貼り付いて動きを遅くし、さらに他の罠にもかかりやすくする」
「なるほど」
「相手の魔物がわかってりゃ、それに合わせた罠を使ったほうが有効ってわけだな」
ビュンッ!ビュンッ!ビュンッ!
さらに魔物が進んだ先にでは、壁から矢か針のようなものが飛び出て、魔物にダメージを与えている。
「あれは矢ですか?」
「そうだな。今度は【アイアンアロー】、壁に設置する系の罠だな。
さっき【とりもち】にかかったことで、【アイアンアロー】が有効になる」
その後も魔物は次々に罠にかかっていく。
「凄いですね。罠について一つ一つ聞いてきたいですが、きりがないですね」
「まぁな。お前もここで罠使ってりゃ、いろいろ覚えてくるぞ」
凄いな。
まるで罠コンボだ。
氷などの属性系の矢も放たれている。
「酒がうめぇな」
タンチさんが悪役のような表情で笑う。
「おい、お前ももっと食って飲めよ」
「すみません、今ちょっとこの映像から目が離せなくて」
「は……真面目な野郎だな」
タンチさんは機嫌が良さそうに酒を飲む。
「そろそろお前のとこだろ」
「はい、もうすぐだと思います」
ガシャン!
「お!かかりましたね」
ガシャン!
ガシャン!
ガシャン!
先頭の魔物から、つぎつぎに【トラバサミ】にかかっていく。
大した威力は無いようだし、もちろん捕獲もできない。
ガシャン!
ガシャン!
ガシャン!
「ダメですね。【トラバサミ】なのに捕獲はできてません」
「いや……」
ガシャン!
ガシャン!
ガシャン!
「少しずつだが着実に脚にダメージがいってる」
ガシャン!
ガシャン!
ガシャン!
「悪くない」
ガシャン!
ガシャン!
ガシャン!
「脚にダメージがいくということは、動きが確実に鈍るからな。
外の冒険者達が、格段に戦いやすくなる。
罠っていうのは、敵を仕留めるのもそうだが、冒険者たちのサポート的な意味合いもある」
ガシャン!
ガシャン!
ガシャン!
「しかし、すげぇ量だな」
ガシャン!
ガシャン!
ガシャン!
「お前、本当に1000個近く【トラバサミ】仕込んだのか」
「はい。途中から数えるのはやめました」
ガシャン!
ガシャン!
ガシャン!
「おい、レベル確認してみろ」
「うわ!!」
僕は思わず大きな声を出してしまった。
レベルが大幅に上がっている。
「レベルが上がりまくってます」
「洞窟の出口はまだ先だからな。まだまだ上がるぞ」
◇
なんと今日一回の狩りで【見習い罠師】がレベル30でカンストした。
そして【罠師】のジョブを習得し、それもすでにレベル33である。
「おい、そんで新しい罠は習得できたのか?」
「はい。【アイアンアロー】が習得できました」
「いいじゃねぇか。地面に【トラバサミ】、壁に【アイアンアロー】を仕掛ければ、連続でダメージを与えられるぞ」
「はい、ありがとうございます!」
「それだけか?」
「あとは【毒ガス】を習得しました」
「あぁ〜……そうか」
タンチさんはなんだか微妙なリアクションをする。
「洞窟内って密閉されていますし、【毒ガス】は有効じゃないんですか?」
「いや、ダメだ。ダメージは与えられるんだがな。
素材が全部毒にやられちまう」
「なるほど……」
「絶対使うなよ。外の冒険者にボロクソ言われるぞ」
「はい……」
狭間圏
【罠使い:Lv33 New ↑+33】
HP:368/408【罠使い】:-40
MP:41/1233【罠使い】:-40
SP:62/526+6【罠使い】:+116
力:72【罠使い】:-20
耐久:132【罠使い】:-20
俊敏:74【罠使い】:-20
技:67【罠使い】:-20
器用:133+4【罠使い】:+53
魔力:89【罠使い】:-20
神聖:155+1【罠使い】:-20
魔力操作:207
【空間魔法】Lv105+1
【転移】Lv43+1
【罠】Lv7+7
【トラバサミ】Lv11+11
【アイアンアロー】NewLv0
【毒ガス】NewLv0
クラールがカッコよすぎ!!
TOブックスの書き下ろしSSはジーン(ショーン)とクラールの出会いについてです。
2巻が出ます!
是非購入をお願いします!
【12月9日発売】~異世界転移したと思ったら日本と往復できるらしい。異世界で最弱、日本では全身麻痺だが、魔法が無限に使えるので修行し続ける~
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