148日目(異世界)
目覚めると、部屋ではなく森の中にいる。
ふと視界に爆弾小僧が入ってくる。
【ファイアボール】
ぁ、しまった……
ドッカーン!
【ファイアボール】が爆弾小僧に命中し爆発する。
うぉ……
僕は軽く吹っ飛ぶだけですむが、野営装備が吹っ飛んでいく。
やってしまった。
寝起きで完全に油断していた。
つい【ファイアボール】で爆弾小僧をふっとばしてしまった。
◇
教会で朝食をとる。
食べたらトイレの構造を確認しよう。
「狭間さん、おはようございます」
「イヴォンさん、おはようございます」
「あれからどうです?
【ホーリービジュア】は使えそうですか?」
「いえ、多分まだダメです。
クールタイムが一日以上ありますね。
この感じだと、明日も厳しいかもしれません」
「そうですか。
それでは明後日までに王都へ行けるように手続きしておけばいいですね」
「行ってすぐに【ホーリービジュア】を使うならそうですね。
お願いします」
「そうだ。
イヴォンさんはトイレの構造については知っていますか?」
「あぁ、魔石を使ったトイレのことですか?」
「そうです。
この教会のトイレのように、【水魔法】できれいに流れてくれるものです」
「それならカルディに聞いてみるといいでしょう」
「わかりました。
ありがとうございます」
◇
僕はカルディさんの道具屋へ来ている。
「トイレですか」
「そうです。
あれって【水魔法】で流してしまっていますが、その先はどうなっているかと思いまして」
「狭間さんは【空間魔法】が使えますね?」
「あぁ、そうか。
【空間魔法】で構造を確認すればいいですね」
「うちのトイレも教会のものと同じですので、まずは確認してみてください」
「はい」
僕は【パーセプション】を使ってトイレを確認する。
トイレは管が下につながっており、そこから地面と平行に曲がっている。
そして、その先に少し大きな空間がある。
その空間からさらに管が伸びているな。
どこまでつながっているんだろう……
え?
街?
街にある側溝につながっている。
結局【水魔法】で側溝に流し込むってことかな?
「少し大きめの空間があって、その先は街の側溝につながっていますね。
これって排泄物を街に流しちゃってるってことですか?」
「まぁ流してはいますが、きちんと処理をして流しているんですよ」
「処理ですか?」
「そうです。
少し大きな空間があることに気づきましたね?
そこに【浄化魔法】の魔石が入っています」
【浄化魔法】か。
それは知らなかったな。
「【浄化魔法】は僕も習得可能ですか?」
「そうですね。
個人差もあると思いますが、【浄化魔法】の習得には【光魔法】を使うことが多いようです。
狭間さんは【光魔法】を持っていますか?」
「いえ……【光魔法】は一つもありませんね」
「まずは【光魔法】の習得が先ですね。
狭間さんくらい【回復魔法】が使えるなら、【光魔法】の習得はそれほど難しくないと思います。
ただ、習得には時間がかかります」
「王都へ行く前の習得は厳しいですか?」
「そうですね。
まず無理だと思います」
「それから、狭間さん、日本で身体が自由に動くんですよね?」
「えぇ、そうです。
今は普通に生活できていますよ」
「それでは、是非珍しい道具をお願いします」
「そ、そうでした」
すっかり忘れていた。
カルディさんはニコニコしながら恐ろしいほどの圧力を醸し出している。
何かのスキルだろうか。
「あ……そうだ。
あの、これから珍しい道具をカルディさんに渡していく予定なんですが、報酬を金や魔石でもらえないでしょうか」
「金と魔石ですか……
そうですね、魔石はイヴォンに頼んだほうが良いでしょう。
金は今はあまり扱っていませんが、あてはあります。
道具屋ですからね」
カルディさんが上品に微笑む。
うーむ……僕も年をとったらこんなオジサマになりないな。
「それで、どうして金が必要なのですか?」
「今日本で自由にできるお金が無いんですよ。
この世界でも金に価値があるように、日本でも結構な価値がありまして」
「なるほど、そうでしたか。
狭間さんは【錬金術師】のジョブを持っていますね?」
「はい、まだレベルは低いですがあります」
「それでしたら、さきに【金属精錬】を習得するのが良いでしょう」
「あります!
【金属精錬】のスキルなら持っています」
「ほぉ……それは好都合ですね。
そうすると、加工前の金を対価として渡しましょう」
「加工前の金……」
「えぇ、山で採掘された金と川で取れた金です。
これらは普通【錬金術】の【金属精錬】によりインゴットにされます。
それから装飾品などに加工されるのですよ。
ですから、採掘された金をそのまま手に入れるほうが安く済みます」
「それは良いですね。
日本なら自分で【金属精錬】を使い続けられますから」
とりあえずこれで金は手に入るな。
だけど、どうやって換金しようか。
高校を卒業したばかりの僕が、買取業者などの質屋に金を大量に持っていったらおかしいよな……
まぁあとで考えよう。
「ありがとうございます。
色々と勉強になりました」
「話を戻しましょう。
トイレでしたね」
そうだ。
結局今の僕では【浄化魔法】の習得は難しいってことだった。
「イヴォンさんのところで【浄化魔法】の魔石を買えば解決しますかね?」
「そうですね。
狭間さんの場合、【浄化魔法】の代わりに【アンチポイズン】で対応できる可能性もありますが、あまりおすすめはしませんね」
「消毒ってことですか?」
「そうなります。
通常トイレには【浄化魔法】の【除菌】や【抗菌】の魔石を使うんですが、【アンチポイズン】には同じ効果、しかも【除菌】や【抗菌】よりも強力な効果があります」
マジか。
それなら、【浄化魔法】習得の意味ってあんまり無いよな。
「ただし、【アンチポイズン】は【浄化魔法】と違って局部的です」
「そうなんですか?」
「そうですね。
効果範囲と持続性が異なります。
【アンチポイズン】は消毒の効果は強いですが、狭い範囲を消毒して終わりです。
ですが、【除菌】などの【浄化魔法】はしばらく効果が続き、殺菌し続けてくれます」
「なるほど、消費MPが違ってくるわけですね」
そうなると、僕の場合日本だったら【浄化魔法】じゃなくて【アンチポイズン】でいけるんじゃないだろうか。
「あとは、効果範囲です。
トイレの先にある空間は、【浄化魔法】の魔石の能力で決まっています。
【アンチポイズン】の場合、局部的にしか消毒ができませんから、何度もかける必要がありますね」
「さらに消費MPが増えるってことですね。
でも、日本ならそれでも問題なさそうです」
効率は悪そうだけど、逆に修行になるよな。
「いや、狭間さん、【アンチポイズン】は本当に消毒だけなのです。
形状や匂いはある程度残ってしまいます」
「げ……
それはやめておきます」
おとなしく【浄化魔法】の魔石を購入しよう……
「いろいろ教えていただいて、ありがとうござます。
それと、食料を保存しておく魔道具ってありますか?」
「冷蔵庫ですね?」
やっぱりあった。
教会の調理室にそれっぽいのがあったんだよな。
あれも多分魔道具だと思ったんだ。
しかし、冷蔵庫って名前そのままだな。
「そうです。
今は、【ストレージ】と【魔力庫】に食料や魔物の素材を入れているんですが、食料をずっと入れっぱなしにしておくのももったいないと思いまして」
「たしかにそうですね。
【ストレージ】や【魔力庫】は基本的に貴重な道具を入れておくものですから、食料で圧迫されるのはあまり好ましくありませんね。
しかし、狭間さん、【水魔法】は習得していませんでしたか?」
「はい、【水魔法】なら習得しています。
【氷結】や【ウォーターガン】【ウォッシュ】を習得していますね」
「そうですか……
【冷却】や【冷凍】があれば、それで対応可能ですが、習得していないようでしたら、冷蔵庫の購入をおすすめします」
「そうですね。
購入させていただきます」
「代金は文房具で結構ですよ」
カルディさんは再び笑顔の圧力を繰り出す。
「はい、ありがとうございます……
しかし、僕が知らない生活に使える魔法が結構あるんですね」
「狭間さん、戦い以外のことにも興味が出始めましたか?」
「そうかもしれません」
確かになぁ……
便利な魔法があれば習得したいし。
「それでしたら、やはり王都で勉強してくるのが良いかもしれませんね」
「王都で勉強できるんですか?」
「えぇ、おそらく狭間さんが行くところは勉強になると思いますよ」
なるほど、それは嬉しいな。
僕は、【光魔法】の魔石を使った魔道具と冷蔵庫を購入して道具屋を出る。
ちなみに代金は一切払っていない。
明日日本で百均に行こう。
文房具なら売ってるはずだ。
◇
僕は再び教会へ戻ってきた。
魔石を見るためだ。
久しぶりに教会の魔石販売所に来ている。
ガラスケースには、様々ないろの魔石が置いてある。
以前ここに来たときには、【攻撃魔法】【補助魔法】【回復魔法】の魔石を見せてもらった。
今僕が必要なのは、その他の生活に使えそうな魔石だ。
「【浄化魔法】ですね?」
「はい、トイレで使われているものがほしいですね」
「わかりました」
店員さんが奥へ行き、少しすると戻ってくる。
「こちらです」
おぉ、【浄化魔法】は白か。
いくつかの大きさの魔石を並べてくれる。
「大きさの違いはなんですか?」
「魔力量ですね。
【回復魔法】等と同様に、使用回数や威力が上がっていくと大きさも大きくなります。
トイレで使われている【浄化魔法】は【抗菌】【除菌】【殺菌】【滅菌】の順に強くなっていきます。
一般的には、【除菌】の魔石が使われていますね」
「そうなんですね。
それほど強力な【浄化魔法】じゃなくても大丈夫なんですか?」
「えぇ、毒物を流し込むわけではありませんし、【抗菌】でも問題はありません」
なるほど、そりゃそうか。
「えっと、この小さいのはなんですか?」
それぞれの魔石に小さな魔石がセットで置いてある。
おまけかな?
「そちらは、発動用の魔石になります」
「発動用、ですか……」
「狭間様のお部屋にも、たくさんありますよ。
明かりをつけるときに触れる魔石です」
「あぁ、あれですか」
確かに僕の部屋にもたくさんある。
スイッチのような役割を果たす魔石だ。
部屋や廊下の天井には、いくつもの【光魔法】の魔石がある。
そして、それとは別に壁に小さな魔石があり、そこに触れ、少量のMPを消費することで天井の魔石が光りだすのだ。
天井の明かりを点けるために、いちいち天井の魔石に触れるという面倒くさいことをしなくて済む。
「こちらを【水魔法】の魔石と連動させれば、トイレで使用しているものと同じものができあがります」
「なるほど、そういうことですか」
トイレを流すときに、この小さな魔石にMPを入れれば、2種類の魔石が発動し、【水魔法】で流しつつ、【浄化魔法】で【抗菌】もできるわけだ。
「これを2つずつお願いします」
「かしこまりました」
あの家を使うのは僕だけだし、1セットで十分だ。
だけど、予備にもう1セット買っておこう。
トイレに不具合があったら怖いからな。
◇
僕は魔石を購入し、第三戦線へと来た。
レッドクロコダイルを【魔影装】で殲滅し、本日も爆弾小僧を【氷結】で凍らせ、【ストレージ】へと収納していこう。
レッドクロコダイルの殲滅については、【魔影装】に頼りきりだ。
基礎ステータスが低すぎる。
今上げておかなければ、ショーンやクラールに差をつけられてしまうだろう。
ソロ狩りは、ジョブ経験値はあまり美味しくないけれど、ステータスアップには適している。
前衛のステータスをできるだけ上げておこう。
一通りレッドクロコダイルを殲滅し、爆弾小僧を凍らせていく。
昨日よりも若干イライラは減っていると思う。
【氷結】!
【氷結】!
【氷結】!
【氷結】!
【氷結】!
え!?
【冷却:Lv0 New】
おいおい……
さっき冷蔵庫買っちゃったよ……
狭間圏
【魔闘家:Lv47(+1)】
HP:441/408【魔闘家】:+33
MP:211/1206【魔闘家】:+33
SP:47/517(↑+2)【魔闘家】:-21
力:69(↑+2)【魔闘家】:+14
耐久:132(↑+1)【魔闘家】:+14
俊敏:72(↑+2)【魔闘家】:+73
技:62(↑+2)【魔闘家】:+43
器用:109【魔闘家】:-21
魔力:89【魔闘家】:+14
神聖:154
魔力操作:193【魔闘家】:+53
【水魔法】Lv50+1
【氷結】Lv20+5
【冷却】Lv0New
【ハイヒール】Lv56+1
【グレイトヒール】Lv18+1
【ストレージ】Lv91+1
【体術】Lv34+1
【魔影装】Lv47+1
【魔影脚】Lv15+1
【魔影連脚】Lv12+1
【魔影連撃】Lv7+1
【魔影風神脚】Lv2+1
【挑発耐性】Lv25+3




